久美と同級生たち
久美はB地区と境目の第4環状線に来た。直線で2キロメートル先のkomekoタウンへつなげる予定の広場が大きく拓かれる。
vwxy久美pyupyapyo019353の名札を付ける服は、幅広の襟を持つブラウスに包帯や風呂敷にも使えるスカーフを襟に巻く。
琴音が感心していう。
「変わったね。化粧して少し大人っぽくなった」
「これは皮膚保護用なの」
虫や植物の棘など、思わぬものが顔に触れても防護できる成分が入っているが、化粧品みたいな使い方だ。
確かに童顔の久美も、薄く引いた口紅、コンタクトレンズは光に応じて、適切な状態で見えるように色を変えるから、不思議な輝きを見せる瞳。少しは「特別な乙女」の感じがしてきた。だが性格は変わらない。
コンタクトや皮膚防護の仕組みを話す久美。除虫効果のある成分を襞に染み込ませたフレアスカートは、動きやすいし、襞には軽薄短小の短剣とかアイテムが収められて、蛸足の鞭を腰に回す。 20世紀のファッションだが、この時代の惑星メタフォーでは見慣れない姿だ。
琴音はタウンの外へ久美が出たのも聞いている。
「杏樹とかいう者に気をつけないと。あんがい、タウンでは知られてない秘密があるから」
タウンの大人が隠すことや矛盾にも気づいている。少なくとも、久美の言葉を信じていた。
「分かった。調査という簡単なお仕事だから」
「グライダーは操縦できるかい。あまり無茶はしないでね」
「心配性だね。練習したし、AIが動かしているから」
指導員にしては、個人へ関わりすぎると思うが、久美は、受け入れてくれる部分で、他人とは違う親しみを感じている。
二人の前にはイトトンボと呼ばれるグライダー。羽根は10メートルと、短かめので二対。胴体は長さ15メートル。痩せたイトトンボのように見える。特別製で、貴重なガラスも張られている。
二人が話すところへ兎車が近づく。椅子のような座席が付いた三輪車みたいな乗り物だ。後輪の代わりにゼンマイ仕掛けで跳ねる脚がついている。
兎車を停めて降りるのは月乃。琴音へ挨拶すると、珍しそうにグライダーを眺める。
「こういうのも作れちゃうんだ。なになに」
月乃はイラストにする構図を考え出した。琴音も仕事がある、とタウンの建物へ戻るため、自分の乗ってきた兎車へ乗り込む。ゼンマイ仕掛けで1キロメートルぐらいは走るらしい、自転車みたいに軽くて扱いやすいエコカーだ。
久美は月乃とトリプルアクセスの練習もしてきた。
「フレアスカートで。広がるわよ」
「大きく見せるのが生物界の防御らしいから」
久美は、地球の生物を調べてもいるが、惑星メタフォーで通じるかは分からない。
「これは絵になるよね。なるほど」
月乃は久美の衣装に、創作意欲も湧いてきている。それなら、と久美。
「回転遠心力効果」
唱えると右足を軸に回転して左足と両手でバランスを取る。フレアスカートが広がり浮き上がる。
「次。トリプルアタック」
駆けて3回転、あまりジャンプはできないし、さすがにふらつく。
「一回でも頭がくらくらするけれどね」
「それが問題だよ。一回の技で終わればいいかな」
月乃は繰り返してするものじゃないという。
「技の名前がねー。かいてんえんしんりょくこうか。説明じゃないの。スピン」
月乃が一回転して唱えてみる。
「スピン、スマッシュ」
動きが緩やかなので、格好は付かないが、イメージはできる。回転しながら喋るのも体力を使うはず。
「スマッシュで、相手へ攻撃すると」
それが理想だと久美は感じる。仕掛けられたらの話ではある。
お互いに就職祝いも計画している。甘いお菓子を食べようと話し合っている。これは、同級生たちとは別の付き合い。久美は格納庫へグライダーを収める。
「小さくなるんだ」
月乃がいう。羽を折り畳み、操縦席を残して胴体も折り畳める。
「兎車か。改造して。なるほど」
月乃は気づく。簡単にいえば薄い合板のボディーを被せたのだ。折り畳まれた羽と後部の胴体が、上へ伸びる。
「AI操縦とソーラー発電だけれどね。これで、どこにでも行けるわよ」
久美はタウンをつなぐ道へ関心もない。もっと海や山脈などの生物を見たいのだ。
月乃はそれを知っている。
「あとは危険かどうか。琴音指導員も心配してたでしょ」
聞いてなくても分かる素振り。月乃も心配だが、言わなくても分かるのが久美だと分かっている。
「母性って、琴音指導員のようなものかな。重たくもない、お節介ってあるんだね」
「母性かー。どうだろう。少なくても自然界の生物が教えてくれると思う」
母性については二人とも、同じ疑問と解決する方法、を共有していた。
「昼食もちかいし。テラスで食べよう」
「レストランは息苦しいからね」
二人は兎車に乗り込みタウンビルへ向かう。
タウンビルは5メートル幅の芝生に覆われたテラスが囲む。各地区の入り口は幼児期の子供たちが、たまに社会見学で遊んでいる。その横にテーブル席がいくつか並び、久美と月乃は座って簡単な食事をする。
「魚を食べた」
久美が開拓室で有ったことを話す。
「そのまま。固いでしょ」
月乃は、話には聞いたことがあるという。
「なんんでもハンバーグだしね。たまには飽きる」
確かに二人は大きめのハンバーグを切り分けながらゆっくり食べている。肉じゃなくても、すべての材料を練って固めるのが、宇宙時代からの習わしで、今もハンバーグと名付け、主食として続いている。
「タウンの外では、火を使って調理しないとねー」
久美は未知留の話から予想する。
「誰からか聞いたのね」
「うん。王子様」
「ほほう。おうじさま」
月乃が興味津々に尋ねる。そこへ来るのが亜由美。
「ここに居たんだ。やっぱり、中よりはね」
タウンビルの中よりは過ごしやすいと席へ座る。
「ここを集合場所にしよう。久美も必ず通るから」
月乃が交流センターより、ここが待ち合わせに最適という。
「仕事を始めたら、会う機会も減るけれど」
亜由美も賛成する。
「いつかはみんな旅立つものだね」
「それぞれの道を歩いて行くのよ」
話しているところへ綾香が小走りで近づく。
「久美。変わった服だね。どこで買ったの」
「制服だよ」
久美の答えに月乃が付け足す。
「惑星調査員になったんだよ。タウンの外へ行けるから、久美は喜んでるけれど」
「久美は夢を諦めないね」
綾香は、それより、と話す。
「衣服とか種類も増えて来るけれど。あ金が必要になるらしいわね」
支給されるというより、必要なものは取り寄せられる生活のタウン。次第に贅沢をしたいとの要求も芽生えて来る。それで、硬貨や紙幣が必要になるわけ。
あれこれ好奇心を持つ綾香にとって、服やアクセサリーは関心ごと。亜由美が、使い道など、ちょっとした審査もあるけれど、と話す。
「ダラー硬貨は、申し込みで貰えるみたいよ」
月乃は、経済というものを、最近は聞いたりしてると話す。
「価値観をお金で、対等に評価するのは良いと思う。イラストも評価される印になればね」
久美も活気づくようなタウンには、お金が役に立つと思う。
「地球時代の良い面は取り戻さないとね」
ちょっと不安もある。何も買えない時代が地球にはあったらしい。お金だけに頼った結果だ。集まるところだけに集まるのがお金だ。
綾香は久美の仕事に興味を持ったらしい。
「調査っていうけれどさ。なにか情報を集めて教えるみたいな」
「綾香の情報源になるかな」
亜由美も、何かを期待している。
「見回りの地味な仕事」
詳しくは喋れない久美。そのついでに大自然へで出かける、と同級生たちは思っている。リーダー的なことが一番苦手な久美を、分かる月乃がいう。
「久美があれこれ教えられないでしょ。先駆者にはなれるよ」
「注目して置こう。どうせタウンの外のこととかでしょ」
綾香が言う。久美は相手が勝手に同じことを始めるなら、それに越したことはない。ただ、自分の納得する答えを見つけたいだけ。
発展して行く惑星メタフォーのタウン生活。欲望を制御して人間らしい社会を創れるのか。それとも人間らしく、地球のような生活を繰り返すのか。惑星メタフォーの太陽と月は、冷静に熱く見守る。久美の活動が知れ渡るのは、月乃が新しく創作し始めるアニメのお陰だ。




