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運命を決める二十歳の試験

 久美が受ける二十歳の試験は、21世紀の高校受験より簡単な内容。オンラインでネットにつながり調べられるし、それを禁止もしていない。彼女は目の前の一段高い椅子に座る琴音(ことね)指導員へ一度だけ目をやると、解答に取り掛かる。補助脳もあるが、普通に覚えてもいること。

「これまでの歴史を述べよだってさ」

 ため息を吐いた。特に関心の有ることを簡潔に書く。

『アルファ・ケンタウリに隠されて21世紀では確認できなかった恒星が発見された。そこに地球型惑星も存在していた。

 両性具有まで進化した人類は地球から拒絶され、惑星移民を計画する。惑星のテラフォーミングがロボットによって完成して、惑星を「メタフォー」と名付ける。

 今も夜空に輝く月は、マザーコンピューターがある移民船の母船』

     ・

 琴音は約50人の受験者のデーターをみていた。回答も共有できる状態になっている。

「丸写しは問題外だが」

 呟きながら、ちょっと顔をあげる。3列の真ん中に座る久美を何気に観察した。童顔だが、ネットで検索することもなく書き込んでいる。ここで顔のことをいうのも失礼だが、思い入れもあった。

(大量の情報をどのように処理するか見たかったけれど。補助脳を使い分けてきているね)

 琴音は指導員として、久美が天然ボケかとも受け取られるのは補助脳を作動させない方法と考えた。

「事故や船団内でのトラブルも聞いてはいたが」

 琴音は、二十歳の彼女たちに関係ないことなのかと思う。惑星メタフォーへ着いてから二十年。この星で生まれた人類に地球は関心もない場所なのだ。

 宇宙の旅で狭い場所を経験した琴音。

「地球の都会の生活に憧れるけれど」

 しかし、久美たちは生まれたときから大自然が近くにあるのを教えられて、実際に近くの土や草に触れたりしていた。

     ・

「移民後の生活について、だってさ。何を聞きたいのかしら」 

 久美は基本情報を書く。

『日本人船団の一つ、pyupyapyo号に所属している人類の一組が、この地域に住んでいる。pyupyapyoタウンとして元宇宙船は広大で大きな建物だと認識されている。それは惑星メタフォーで公式な地名にも成る』 

 今の生活は、起きると食べて何気にお喋り、昼飯と昼寝。少しは運動を奨励されている。そして夕食、古い娯楽のビデオを観て、就寝。

 色々と趣味や好きなことが並ぶが、特に関心なし、へチェックを入れる。

「こういうのもあるの。好きなゲームがありますか」

 久美は質問にちょっと笑う。確かにゲームばかりしている人もいるらしい。

(好きというより、興味はあったかな)

 久美は思いだした。猫の赤ちゃんを大人の猫に成長させるという古風なゲーム。指示棒の矢印でミルクを飲ませて、じゃれあって、と単純なことの繰り返し。

 だが、成長していく猫が可愛く思えた。

「あっそうか。あれはミルクと雌の乳の選択があった」

 動物は自分の母乳で育てる。この情報を久美が知識を得たのは5年ほど前。それでも哺乳機のミルクを選択していた。現実に新生児が保育機械でミルクを飲まされている場面を社会見学でみたこともある。

「人間は何なの。動物のヒト科。それなら母乳もありか」

 母乳が成長は早かったのか、それとも何かあるのか。どうせ暇だ、ともう一度試してみる。

     ・

 琴音は何事だ、と久美のモニターを大きく表示する。

(マザーコンピューターから提案されたゲームだね)

 あまり人気はないが、古風なゲームがいくつかマザーコンピューターで作られていた。

「母乳を選んだ。確かに動物は雌から哺乳する」

 琴音もあとは予想がつく。雌親の猫が登場して子猫が乳を飲む。成長が早いというより、雌猫が子猫を愛でるようにあやしていて、すぐゲームはクリアした。

「次の動物を選択か。えっヒト科」

 項目に人間があった。いくつかあるなかで、久美は何を選ぶのか。

「この娘なら選ぶかな」呟く琴音。

 予想する間にも久美はヒト科を選ぶ、予想通りだった。

    ・

 久美は、何かある、と感じだしている。躊躇なく母乳を選択した。

「女性体形か。うん、それで赤ちゃんを」

 胸に抱いて母乳をやる姿に衝撃を受ける。この時代では信じられないことだ。21世紀でも数少ない場面だっただろう。

 久美は自分の胸に手をあてる。そうだよね、そのためにあるはず。両性具有だとしても女性なのは確かだ。

「ほんとに両性具有かな」

 前から持っていた疑問だ。体形の違いは存在するし、女性体形の子宮で妊娠期間は胎児を育てる。それなら、このゲームの母子の姿が自然に思えた。

 わざわざ取り出さないでも女性体形は卵子を保有できるし、男性体形が卵子を保有するのは不自然に思える。

「種の存続のための両性具有ではないのよ」

 気づく久美。

「やはり、噂通りだと思う」

 男女平等や性的な違いの悩みを解決するために、進化した、と。

「進化じゃないよね。遺伝子操作か」

 自分の思いに反対して呟く。補助脳の文字列から、やはり噂がほんとうだと感じた。

     ・

 琴音は久美の考えまでは予想できないが、母性という言葉を思いだす。今では使われなくなったが、雌の行動をみるかぎりは母性というものが存在していると感じた。猫と人間に共通する何かがあるはず。

「マザーコンピューターのメッセージで一番最初に挙げられるのがstart over againだけれど。勝手に解釈してるのかな」

 誕生。

 そこまで戻れというのか。猫と人間に共通するといえば、それしかない。琴音はゲームもメッセージと捉えている。

 当時の地球ではstart over againの解釈で、自然回帰派も生まれたし、惑星移民も実行された。

「先史時代まで戻るのか」

 批判もあるなかで、自然回帰派は様々な立場の人類が地球へ残ったという。

 今の利益や権限を守りたい者は変化を好まなかった。地球は唯一の存在と思う宗教信仰者たちも、地球へ残る選択をした。当時の地球に住めないことはないが、争って破壊して、やり直しの繰り返しで成長した気になっていた。

「今の段階からやり直そう」

 科学の力を信じて旅立った人類が惑星メタフォーにたどり着いたのだ。合理化と安全を求めてきているが、人類は何かを捨てたのじゃないか。

     ・

 日常生活で何を求めるか、つまり、根源的な欲求の質問。久美は気になることを思い出した。

(んとね、ちょっと待って)

 古代地球の風俗を調べる。一度は検索で見たページを探す。やがて、色気と食い気が人間の本能、だという情報を見つけた。食べ物は、宇宙船の中のときよりは満足できてるらしい。それは大人の言葉だ。宇宙船での生活が野菜と昆虫だと知識はあるが、それについては詳しく調べてない彼女。

 色気なんて両性具有の今は必要ないし、体外受精で種の保存のためには、番うこともない。

「色気と食い気。色気ねー」

 思わず小声になる。久美はその言葉が気になる。見せかけの同性具有らしいが、隠された問題点は、性犯罪も存在しないことになっていること。


 最後の質問欄、聞きたいことは、ないかとの自由欄でもある。

「何と質問すれば良い」

 魔女と噂されるヒューマノイドか、考えて思いつく。

「タウンの外で暮らせる方法と手段はありますか」

 入力すると、ネットの接続が乱れる。それは他の試験を受ける者も同じらしく、ざわめく。

 次に疑問の質問を打ち込む。

「生殖器官へ過去に遺伝子操作をしましたか」

 すると完全に停電した。

「本日の試験は終了です。それでは各自の部屋へお戻りください」

 琴音指導員は何事もなかったように言う。久美は怒った、童顔だからと舐めるな、と言いたい。人は見かけで性格も判断するようだ。

「答えてください」

 久美は立ち上がり、過去に遺伝子操作をしましたか、と琴音へ尋ねる。だけれど、他の人々は面倒くさそうに帰りにつく。琴音も無言で部屋を出て行った。

 空気コンディショナーも止まり、暑くなる室内。

「それなら。自分で答えをみつけるだけさ」

 風があり暑さも凌ぎやすいタウンビルの外へ行こうと、部屋を後にする。

     ・

 さて、琴音は部屋へ戻り電源を遠隔操作で点ける。指導員といっても勉強を教える役目ではない。ほとんどの人間はネットで学習しているが、二十歳までは集団で行動する習慣もつけるために、時々は集まる。そのまとめ役が指導員。教えるのは世間の付き合いとかネットにない身近な情報で、これから生活するのに支障がないように導くのが役目だ。

 琴音はモニターを開くと、惑星管理局へアクセスする。

『惑星管理局』それは全人類を管理する組織。

 もう一度久美の答案用紙をみて、名前を確かめる。登録番号と名前が同じということは滅多にない。

「久美。019353。間違いないね。立派に成長してくれた」

 呟くと管理局の部署をスクロール『vwxy企画室』を選択して、久美のファイルを送信した。


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