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戦闘態勢の杏樹と久美の激突

 邪魔されたから、と諦める久美ではない。林に半ば身体を隠して草地へ来た。

(これなら、空から見つけられないはずだし)

 心でつぶやきながら、川があったススキのほうへいく。急坂だが土手になっているが歩けるはずだ。

「うわっ、魔進」

 川に魔進は立っていた。杏樹は魔進へ跳び乗って立つ。

「もう怒った。変身。ポジションデバタイ」 

 杏樹の後ろが開き、しゅっしゅっ、飛び出したワインレッドの服に包まれる。

 杏樹は戦闘態勢のポジションデバタイ姿。襟付きベストに、ふっくら膨らんだ胸は、いかにも武器らしい先端の穴。切れ込みの深いスリットのある長いスカート、腰に回る太いベルトへ剣を下げる。ゴーグルで覆われた目から視線も窺がえない。

「捕獲して調教してあげる」

 言うと跳んで草地へくるが、今までと違い、距離を置いて、離れている。振り返り対峙する久美。

「なるほど。戦士なのね、昔のアニメみたい」

 文明が人類主導期の日本では流行ってもいたらしいと久美は思いだすが、杏樹は本気らしい。「2次元で遊んでるんじゃないよ。覚悟しなさい」

 胸元を、くいっ、と持ちあげると尖った先から、しゅっ、ガスの噴き出す音がして、炎の玉が久美へ向かって飛ぶ。

「危ないわねー」

 横に避ける久美。ハニャーが足にかかり、よろけた。

 蛸も驚き動けないらしい。

「痛いだけじゃないよ。熱さで小動物は、まる焼きになる」

「いったい何をするのよ。怒ったから」

 久美も態勢を整えて相手を睨む。しかし杏樹は、目が合うのを持っていた。スカートのスリット部分を大きく開くと、青白い閃光が走り久美を照らす。

 久美は思わず目を閉じる。昼間でも眩しい強烈な光。目を閉じても、ちかちかするが、次の炎の玉が襲う。

「いっ。ひいぃ」

 久美は腹に受けた熱さに悲鳴をあげてうずくまる。杏樹を本気にさせたら、ちょっと敵う相手ではない。

「魔進。捕獲」

 杏樹がいうとキリンみたいな頭を、くいっ、と久美へ向けて口の部分が開き、飛び出して広がるのは網だ。

 今度は頭上から網が被さってきた久美。がちゃがちゃ、と網の先に付けた磁石がくっつかって行く。これで、袋状にするつもりだ。

「捕獲したわよ。聞き分けのない危険生物に教えてあげるから」

 杏樹は安心したようにいうと、一歩ずつ久美に近づく。

「消炎剤はないの。気の利かない人だね」

 痛くても強がる久美。はだけた開襟シャツ、腹が腫れて赤いのが見える。そこへハニャーの足が伸びてくる。ひんやりと冷たいし、じんじん、と痛みが和らぐ。体温がかなり低い生物だ。暑いのがお好きな生物でもある。成り行きで、へんなことになったが、久美も自然界は予想外のことがある、と学習している。ただ、攻撃を仕掛けるヒューマノイドは思いつかなかった。


 杏樹は一段落したと、説明もしたいようす。

「少しは私の話を聞く気になったかしら」

「つまりは。この星の自然を守るために存在していると」

「なんだ。ちゃんと分かっているのか」

 杏樹は、久美が聞いてないようで、趣旨を理解していると判断する。

「話は早い。人類はタウンの中で生活するようにマザーコンピューターから指示はなかったのか」

 ロボットの元締めは地球で誕生したマザーコンピューターだ。杏樹もその影響を受けている。「タウンというか、あの狭い元宇宙船で住むのは生物として無理があるのよ」

 狭い空間もそうだが、その中での人間模様が煩わしく思う久美。饒舌になるのも、日常に満足する他人には理解されない思いが溜まっていたから。そして、補助脳が半ば喋ってもいる。


 杏樹は、人類の我儘だと思っている。

「それを選んだのであろう、人類は」

 合理的に快適と安全を求め、科学力を利用して快適な空間を創造したのは、地球でも20世紀のころから。21世紀のAI主導期から人類の迷走が始まる。

「都市という檻を作っていたらしいよね」

 自然は破壊され尽くされたと思う久美。ビルが並び舗装路で埋める地球人類の生活圏は檻に思えた。

「だからさ。ここでは繰り返させない」

 杏樹も、分かっているじゃん、と安心したようす。

「人類が特別な生命体ではないのよ」

「それは。うん、生き物は多いから」

 久美は笑ってしまう。宗教家ならともかく、科学力を信じる者にも、人類は特別、と考えている人はたまにいる。

 杏樹は口元が緩み、笑顔になっているようだ。

「それじゃあさあ。私に同意できるでしょ。人類は、メタフォーの小さなタウンという巣穴で生きてればいいの」

「でも、私はメタフォー人だし。ここで自由に棲むのよ」

「だからマザーコンピューターの最終使命を分かってないんでしょ」

「生き物なら快適を求めるはず。それで。失敗したのが地球の人類なのは確かよ」

 久美も杏樹のいうことへ分かる部分もあるが、行動を制限されたくない。真面目なようで、やりたいことは、禁止事項も無視して進める。生きるのに必要なことを守れば良いとの思い。

 杏樹も久美のタウンへの不満は感じ取った。

「しばらく隔離して調教してあげる。使えそうな考えはしているね」

 杏樹は、タウンの中で賛同するものを、求めてもいる。


 ただ、久美は惑星メタフォーで自由に生きるというのを譲れない。

「もっと精神的に成長すれば、人類も過ちを犯さないと思う」

「いつまで待つ。人類は科学力を信仰して、滅びないで地獄へ歩いていったのがすべての結果でしょ」

「オールオバーアゲンでしょ。やり直すのよ」

「すべてだよ。地球の生命体は、同等のスタートラインにいる。移民してきた人類は、あとからしゃしゃり出てきたんだから」

「だから。人類の計画だって」

「マザーコンピュータのでしょ。勘違いしているよね。隔離して教えてあげる」

 どうやら話は平行線だ。杏樹は中継所へ連れて行くことにする。ロボットのメンテナンスを行う場所が今も稼働している。

 網がすぼまり引き上げられる久美。

(とことん知りたいけれど。タウンへ戻れるかなー)

 いくら能天気でも不安になる。

 しかし、腹に張り付いていたハニャーが足元へ降りると、足を、くいくい、と伸ばして繋がれた磁石を押し開く。

「ありがとうね」

 久美はかがんで網を潜り抜けて網を掴む。引き上げられながら、ブランコの要領で杏樹へぶつかる。

 よろける相手。久美は振り子の原理で退く。相手が体制を立て直す前に、再び戻る網から手を離して突撃。杏樹は仰向けに倒れた。


 久美としては落とし前をつけさせたい。

「服が溶けちゃったでしょ。どうすんのよ」

 相手へ覆い被さるが、杏樹は屈伸して跳ねのけて起き上がる。

「服は邪魔なだけよ。この星は暑いし、メタフォー生まれでしょ」

 いうと剣を腰から抜き取る。刃物が切れるのをあまり把握してない久美。

「そうじゃないでしょ。謝りなさいよ」

 恐れない久美へ杏樹は逆に警戒する。

「なにかできるかしら。私が何故あなたへ、謝るの」

 なにか隠し技がないか考える杏樹。

 この女は、と睨む久美。

 ハニャーが網を遊び道具としてブランコのように揺れて二人の前を横切る。杏樹は何かある、と思った。

「この陸棲蛸が久美のアイテムか」

 杏樹は両手で剣を構えると、目の前を横切る長い蛸の足へ振り下ろす。

「このタコがあっ」

 吸盤の付いた足は根元の近くから、すぱっ、と切れて落ちる。はにゃはにゃ、縮まる7本の足で、向こう側へ揺れて逃げるハニャー。

 久美はハニャーが痛くなかったか気になるが、杏樹に尋ねたい。食物摂取に生命体は必要とも考えるが、相手は生命体なのか。

「食べるの。ロボットなのに。お腹を壊すよ」

 ヒューマノイドは太陽エネルギーだったはずだし、この惑星でも恒星をエネルギー源としている。人間みたいに生命体を食料としないはず。

 ここで呑気なことを、と呆れてもいる杏樹。

「必要悪よ。久美のアイテムなんて、こんなものかしら」

「今からなるよ」

 久美は、鞭だと思いつき、素早く蛸の足を拾い上げる。

「かたき討ちだよ」

 ちょっと太いが両手で構える。まだ蠢いていて逆に指へ馴染む感じ。

 格好つけたがる杏樹。

「ほほう。なんでも武器に」

 久美が蛸の足を振り回す。

「する、と、おい待て」

 蛸足の鞭が杏樹の剣を両手首から巻き付けた。やっぱり、久美は人の話を聞かない。

「あらっ。腕力は意外と弱いのね」

 引っ張り合いで久美は感じる。一歩足をずらす杏樹。2足歩行は苦手でもある。元々は人間が惑星メタフォーで耐えられるか試すために製造されたのがAll weather typeヒューマノイド。

 久美としても、これからどうするか考えてないが、剣で切られたら痛いだけじゃ済まないと気づいた。

(蹴飛ばすしかない)

 というより、ぶつかるとかしか思いつかない。

「強いところを見せなさいよ」

 両手で強く蛸の足を引き付ける。

 杏樹も力が入る。

 蛸の足を緩めると、反り返り倒れる杏樹。

 そこで相手の腹へ蹴りつける。

「仕返しだからね」

 目の前で揺れる剣が太陽光を反射して光る。

 またか、と久美は杏樹の手首を思い切り蹴りつける。

 眩しく輝く剣が、くるくる、輪を描いて岩場に落ちる。光源砲のパワーをこの姿勢の腕では抑えられなかったらしい。

「ふんっ。武器なんか要らないからね」

 杏樹の身体が丸く縮まる。弾けるように伸びると宙に浮き、立ち上がる。さすが人間型の全天候性ヒューマノイド。そのままが一番に危ない存在だろう。


 久美は蛸の足を鞭として構えるが、炎の玉と光源砲は防げないだろう。やはり接近戦。

 杏樹は、天然ボケみたいな久美が仮のすがたと判断する。

「ほかの生命体を操るとは面白い。陸棲蛸の能力は未知だが、次は倒してあげる」

「帰っちゃうの。その前に謝ってね」

 ちょっと柔らかく言いすぎだが、服を溶かしたり、蛸の足を切ったりして、このままは済まさないつもりの久美。

 そこへハニャーが前に出る。一本足で立って、ほかの足は広げている。直径4メートルほどの巨大円盤の生物だ。

 久美の後ろで、この姿でいたから、杏樹も警戒していた。見たことのない格好のハニャーは足を切られて怒っているらしい。剣を手放した相手は怖くもない。広げた足が杏樹へ伸びる。

「なるほど、その手に乗るか」

 杏樹は素早くジャンプして蛸の足に捕まるのを危うく避けた。

「私の邪魔をするなってこと。自然界は理不尽なこともあるのよ」

 杏樹は言うと魔進へ跳び乗る。

 剣が吸付かれるように飛んで魔進の後方へ納められた。これも磁力を応用している。

「お判りかしら。どうせタウンのシステムは止まるから。人類も、それまでの命さ」

 杏樹は魔進に乗って跳んで去っていった。

 タウンも永久機関ではない。空気に触れては、メンテナンスも限界がくる。人類は気づいていながら、お終いの日、は無視していた。


 確かに真空で持ちこたえたバリアも失った元宇宙船は、大気に触れて腐敗していく。危険でも、ここで生き延びなければならない。

「杏樹の本当の使命はなんだろう。邪魔をすることか。ヒューマノイドはマザーコンピューターが作ったのよね」

 人類を取り除く作戦か、とも思う。 魔女は空想の産物か、何かの例えと認知されているが、ヒューマノイドが存在しているのだ。惑星テラフォーミングセンターが今も稼働している証拠で、何者かが作動させたと考えた。

(違うか。まだ移住から20年。継続している)

 補助脳からの垂れ流す情報で気づいた。便利な時もあるらしい。


 久美はカタバミの広場へ戻る。石ころが当たり、あっちこっち痛いし、暑さで汗が滲む。

「さっきの簡易音声モニターに頼んでみるか」

 新しい服が必要だし、さっそく琴音から貰った皮膚治療軟膏が必要だ。ポシェットから取り出した。

「はあっにゃー」

 足元でハニャーがのんびり鳴く。跳ねながら一緒についてきている。

「くっつけられるかな。いや、また足が生えるか。どうだろう」

 この星で地球の常識は通用しないし、同じだとは限らない。 舗装路、つまり第4環状道路の土手に座り、ハニャーを横に招くと、手にしている蛸の足がくっつけられるか試す。

「もう固まっているね」

 切られた部分は、周りと同じ膜が覆う。人間の医療でくっつけても不自然になるはず。

「はにゃはにゃ」

 切られた短い部分を振り、元気だよ、というような響きの声を発する。

「杏樹がいったように危険生物から身を守るのに、鞭も必要か」

 鞭として使用することにする。タウンは、すべてのものを加工して再利用する技術を備えている。長い宇宙旅行で『物質すべて』再利用してきた。

「ハニャの分身だね。助けてくれたお礼に、使うよ」

 久美へ答えるように、跳ねて一回転する。言葉を理解するというより、感情の動きへ反応できるぐらいの知能はあるらしい。

「ほかのハニャーたちとは違う、私の恩人だね」

 ペットをタウンの中へ連れて行くのも問題だが、工夫してペットを見つけている人も増えていた。星間移民して20年のいま、生活が変わろうとしている。 

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