お母さん。産んでくれて、ありがとう
戦い済んで日が暮れて、開襟シャツとホットパンツに着替える久美。ボタンが取れたブラウスの新しいのを注文したところだ。
「うん。シュシュは、有ったかな」
クローゼットの中から、薄くなった緑のシュシュを取り出す。幼児期のころに指導員たちから配られた物。琴音がわざわざ、髪を束ねてくれたのを思いだす。何人もいる指導員のなか、担当でもないのにやってきたのだ。
「間違いないね」
呟いて、束ねた髪に、古くなったシュシュをつける。これから琴音と会う約束をしている。
久美は幼いころから身体を動かす遊びが好きで、綾香と一緒だった。いつのころからか、芸能、ゲームなどをお喋りしあう仲間たちに綾香も加わる。亜由美が久美にも声をかけたり、取りまとめ役に自然となってきていた。
月乃は絵を描くのを趣味としていて、離れていることが多かった。
「あれっ。私じゃん」
月乃が、前転する久美を描いているのに気づく。
「ただ描いているだけ」
月乃は言う。当時は月乃が他人と距離を置く度合いは強かったし、久美も深く話し込む質ではない。久美と月乃は、同級生たちとの距離の取り方が似ているし、お互いに干渉しないでも分かりあう関係になっていく。
久美が幼いころを回想する間にも、交流センターにつく。すぐ近くの席に琴音が待っている。
「タウンを出て行くのね」
「今はここへ帰って来て眠るしかないけれど。ずっと生活するのが理想」
久美は古代の生活に憧れもある。多分ネットもないし、暑いはずだけれど、人との触れ合いが生まれると気づいている。
「たぶん、いまの世代はタウンと縁は切れないでしょ。子供の世代がどうなるか」
やっぱり不便だ、とタウンへ戻ることも考えられると琴音は思う。しかし、いつかシステムは止まるのも現実。
「狭いタウンよりは生活しやすいでしょ。この、技術の扱い方さえ間違えなければね」
「それを子供へ教え育てるのよ、久美。母性が何か分かるかもしれないね」
子育てゲームで分かったが、実際に母性を感じたこともないはずと思う。
「そうだね。でも、過去の卵子提供者と保育機使用者を照合すれば、だれが産んだか判る」
「マザーコンピューターの許可が必要ですよ。それはしがらみを無くすための規則だから」
親子とか情の移る関係は無くそうという世の中で、それもあり、久美たちは外へ旅立つ。
「私ね。princessのコードを貰ったの。マザーコンピューターへアクセスできるから」
「調べたの」
琴音は不安と期待で尋ねる。
「うん。あとは。さ」
久美も表現する言葉を知らない。それで言う。
「一緒に住む人ができるかもしれない」
「未知留かな。久美の友達から聞かされている」
「おしゃべりな友達たちだよ」
久美も恥ずかしそうにするが、はっきりと知りたい。
「産んだ子供を覚えているのかなー。あの。みんなは、さ」
「母親というのはね。ちゃんと覚えてるものなの」
「そうか。これが母性なのかな」
「なんというか。どうしていいか、わからないけれどね」
久美と琴音は見つめあった。
琴音は言葉を探せない。
久美も適切な表現を分からない。
(素直になろう)
久美は惑星メタフォーで初めて使われる言葉を琴音へ伝える。
「お母さん。産んでくれて、ありがとう」




