独裁者との対決
すっかりみんなから未知留のことで冷やかされるが、久美のシュシュから、ぴっぴっ、と鳴る音。
「何かあったみたい」
急を要する緊急事態の知らせだ。調査の仕事では滅多にないはず。グライダーを呼んで、座席のマイクで報告を受ける。ジャンヌから直接だ。
「kurejiiタウンが戦争宣言だ。惑星管理局は説得しているが、念のため来てくれ」
kurejiiタウンC地区らしい。詳細はグライダーに乗ってからということ。
「ますます、可笑しくなるね、人間は」
呟くと、すーっ、と座席と一緒にグライダーへ吸い込まれていく久美。
「えっ。いま、戦争って」
みんなは状況が呑み込めない。しかし、タウンの生活も危ない、と実感しだしてきた。
kurejiiタウンC地区へ近づく久美。タウン議会会長のチブルタランは戦車を3台製造して、惑星管理局を脅迫したという。資源調達ラインを独占したいのだ。それで、ほかの都市を攻撃すると脅している。
「火薬を製造して爆弾を作るつもりだ」
ジャンヌは深刻な感じで喋る。
「それで。C地区で説得を試みると。了解」
久美は答えるが、面倒くさくなる。
「もう、やっちゃえ。早く終わらせてkizunaタウンへ行こう」
猛獣に襲われたら反撃するのは当然。タウンから出る準備に忙しいのに、邪魔をされるのが一番に嫌だ。
久美はジャンヌと待ち合わせた広場へ降りる。ユミヤとイーシナゲルはすでに来ていた。
「その。戦車は壊せないの」
単純すぎる久美の疑問にユミヤが答える。
「見張りがいつもいた。矢では壊せないし」
チブルタランを狙ったが、阻止されたという。
「今まで周りの警護兵と戦車に守られて、暗殺は無理みたい」
イーシナゲルがため息を吐く。それで、今日は作戦もあるらしい。考えれば、怖い話まできている。ジャンヌも最終通告だという。
「ここで、惑星管理局の忠告に応じないと、全タウンがkurejiiタウンへ攻撃をしかける」
それでも武器らしいのはない。殴り合いなどの喧嘩だ。
「チブルタランは安全な場所に座っていると。困ったね」
久美は、猛獣より厄介なのは人間だと呟く。何回も感じている。
そこへばりばり、と草むらを踏みつける音。がらがら、キャタピラを響かせて戦車が広場に現れる。
ぴゃーっ、小動物の悲鳴が聞こえてキャタピラに潰れた兎の身体が回る。タウン間道路も無視したやりかただ。
3台の戦車が近くへ停まる。大きなキャタピラで箱型の胴体を挟む形だ。砲台はあるが、まだ爆弾は製造されてないらしく筒は取り付けてない。
戦車から、薄いマントを羽織り大柄の男性体形が降りる。必要以上に筋肉の盛り上がる腕を見せびらかせるチブルタランだ。5人の兵士が長槍をもって左右に立つ。いずれは鉄砲を持たせる予定だろう。
「話は聞こう。俺も聞く力はあるぞ」
顔をゆがめて笑うチブルタラン。
ジャンヌは、資源調達ラインの重要性と戦争での被害を説明する。
「あなたのタウンだけなら、市民の意見も必要だろう。賛成なら口を挟むこともしない。ほかのタウンへ迷惑はかけないで欲しい」
「みんなの総意だ。俺に反対するのは一人もいない」
チブルタランが自慢気にいう。
「話は聞いた。これで良いだろう。我がタウンの多数決で、俺のやりたいことをすることに決定した」
「何をしたいんだチブルタラン」
「俺は王様になる。しもべになりたいなら今のうちだぞ。これから戦争開始決起集会だが、参加すると良い」
チブルタランは言うと戦車へ乗る。兵隊も続き、3台の戦車はタウン内へ向かう。
ジャンヌは考える風にしてから話す。
「集会か。戦車から降りるはず。やはり作戦通りに、そのとき壊せるか」
「コントロール装置を破壊すれば。蓋板と違ってもろいはず」
イーシナゲルが繊細なコンピューターと予想する。ユミヤも頷く。
「何人か残るはずの見張りを。外に居るならやっつけられる」
そのあと騒動になるはずだが、もう戦争は始まった、という思いが一致している。
「あれっ。久美は」
戦車のあとを追って走って行く久美の、後ろ姿を見送る3人だった。
久美は力なく歩く人々を見ながら走る。集会場へ向かうらしい。みんな歓迎はしてないようだ。戦車に踏み荒らされた跡をたどれば、小さな門番小屋と停められた戦車。
「4人か。4隅に離れてるから、一人ずつ」
小屋の後ろに隠れて、作戦を考える。
そこへ魔進が跳びこむ。
「さっきのお礼だ」
杏樹がいうと魔進の胸が開いて、蝶々の群れが飛び出す。
「魔女だ。いや。なんだ」
すぐに立ち去る魔進。飛び交う蝶々を見上げて兵士たちは戸惑うようす。
「眠り姫蝶々。まさかね」
久美は杏樹が、ここで手助けするとは考えなかった。小屋の裏から飛び出すと、魔進が待機する柵へ近づく。眠気を呼ぶ眠り姫蝶々の鱗粉で兵士たちは眠そうにうずくまる。
「杏樹。ありがとうね。あとは戦車を壊すから」
「まあ、待て。小屋に、もう一人いる。逃げて報告されたら大騒ぎになる」
杏樹は中央の戦車に跳び乗り小屋を睨む。さすがに鱗粉を帯びて眠りたくはない久美。
ユミヤとイーシナゲルも駆けつける。
「今は戦車のところへ来ると眠くなるから」
久美は説明すると、小屋に居る相手をどうするか相談する。杏樹は任せたと言うそぶり。
「あの隙間から様子を窺っていると思う」と久美。
「アーチェリーは悟られるかな」
ユミヤはその気がないと矢を準備しない。
「任せて」
シーナゲルはスカートの襞から小さい球を取り出す。
「狭い場所なら。弾力で飛び跳ねる、この球よ」
牽制球みたいに素早く球を小屋の隙間へ投げる。
「うあっ」
驚く声。なっ、なっ、と騒ぐ声が響く小屋。3人が扉を開くと一人の兵士が目の下を赤く腫らして、呆然としている。
「安心して。助けに来たよ」
ユミヤが声をかける。
「このタウンの情報は集めたから。脅されているんでしょ」
「なにを。俺は」
「良いのよ」
イーシナゲルが兵士の言葉を遮る。
「全人類はあなたの味方。戦車も壊れたわ」
多分ではあるが、杏樹が炎の玉で鉄を焼き尽くす匂いが漂っている。
「それより。傷の手当」
久美はリュックから兵士の目の下へ瞬間湿布薬を塗る。
「あ。あなた方は」
兵士は少し俯くが意を決したように喋る。
「拳銃だ。議会会長は、拳銃で脅している」
銃器類は製造が惑星管理局で禁止されているモノだ。
「ネズミを目の前で撃って、銃口を向けられたら怖くて」
犠牲者を晒してみせるわけだ。
「あの体格で、喧嘩して脅しているわけではないと」
久美は腕力や暴力ではないと感じた。
「喧嘩も強い。ただ、臆病だ。それは言わないでくれ」
「言わないよ。と、いうより。支持してる人はいるの」
「強いのに憧れるやつはいる。卑怯で狡賢いのを知らない。そうだ。妖魔だ、へんなお化けに操られている」
兵士はそれでも、これが知れたらと怯える。そこへジャンヌが現れる。
「タウンから出してあげる。同じ思いなら、みんな連れてゆく」
ジャンヌは笑顔でいうと外へ合図する。ソーラーカーが待機していた。準備の良い人だ。
そろそろチブルタランの演説が始まるらしい。
「この事実を暴いてやるのよ。それにしても妖魔。出て来るかしらね」
ジャンヌはこれからの予定を話す。
「うんとね。ちょっと話してくる」
久美は外へ出るとグライダーを呼ぶ。
「無茶はしないでよ」
みんなが揃って言う。
「大丈夫。話し合うだけだから」
決めたら、ほかの言葉は聞かない久美。また、後方支援をすることになる3人。久美の話し合いも、相手によっては喧嘩になるはず。
一段高い壇上でチブルタランは演説の準備をする。タウンの畑が戦車で荒らされてデコボコのところ。雛壇を囲む半円を描くように群衆があつまる。
久美はグライダーで雛壇へ近づき、座席で降下する。
「誰なんだ、おまえは」
薄いコートを羽織るチブルタランが見上げて叫ぶ。
「あの。ちょっとだけ話があって」
座席から降りる久美。2メートル四方の狭い舞台で少しづつ距離を詰める。
「演出か。許可を取ってからにしなさい」
「長い話じゃないよ。脅したり悪いことしたと、みんなに謝ってくれない」
「何を言ってるんだね。こいつをつまみ出せ」
下に待機する兵隊へ命じるチブルタラン。すかざず久美は言う。
「一人じゃ何もできないんだね」
久美は笑顔で笑う。チブルタランも、相手は若い子だ、と考え直す。
「私は選ばれたものだ。ちょっと二人だけで話そう」
コートを少し開けて、筒状のものを見せる。ほかの人に見られないように脅迫するつもりだ。その御託など待たないのが久美。
「スピン」
手を合わせて見つめるだけで、相手へ向けてジャンプしながら3回転。
「スマッシュ」
チブルタランの筒状の物を持った手を蹴り上げる。
「くそっ」
やはり拳銃らしい。壇上に転がるのを、拾おうと急ぐチブルタラン。
「話って、言ったでしょ」
久美は拳銃を蹴って下へ落とす。
「拳銃で脅すのが、あなたの話し合いなのね」
それに反応したのは前に居る群衆たち。
「まさか。拳銃」
「最低だよな」
まともな市民らしい。チブルタランを応援する人々が最前列にいるはず。腕力とか、喧嘩が強くて憧れる者は多い。理想が崩れたのだ。
「チブルタラン。今のうちに過ちは謝ったほうが良いと思う。私のお願いはそれだけよ」
久美は優しく微笑んで言う。
「まだ話は終わってない」
チブルタランがマントを脱ぎ、開襟シャツも脱いだ。筋肉を見せびらかせたいらしい。腹も割れていて、鍛えられたふうだ。
「俺が強い証拠をみせよう」
両腕を振って、ぽかぽか、音を響かせる。
「俺に逆らうのは、このようになる」
久美の肩を掴もうと襲い掛かるチブルタラン。
「無防備よ」
久美が男の急所を膝蹴りする。
「あぐっ」
チブルタランが太腿の付け根を、今更ながら両手で塞ぐ。今だ、と久美はチブルタランの手から両方の小指を掴んで捻り上げる。
「くっ」
力を入れると、余計に痛くなるのが捻られた指。特に小指は力が入りにくい。
「なるほど。あなたに逆らったら、こうなるのね」
久美は足の爪先を相手の急所へ突っ込む。声にならない音を発するチブルタラン。
「ここは気持ち良いんじゃないのかなー。女にはわかんないや」
呑気にいう久美。チブルタランの小指を放して解放する。
「あの。悪いことしたんだから。ごめんなさい、してね」
「な。なにを。このおー」
チブルタランが身体ごと久美へぶつかる。
「人前で失礼でしょ」
久美は急所を一点攻めしたい。相手の股座を掴んで握ると、身体を捻って回転。遠心力で押しやる。
「ひょんあっ」
チブルタランが壇上から転がり落ちて、地面で悶える。
「こんなものか」
兵隊たちが呟き、槍を放り投げる。
「目が覚めた。許してくれ」
兵隊たちも脅されたのだろう。群衆へ頭を下げる。久美は一安心と帰り支度。邪魔をするな、と言いたいぐらいだ。
「医療ロボットに任せるから。もうみんなも自由にして良いね」
その時に銃声が轟く。猛スピードで雛壇の下へ来ると、ジャンプして壇上へ来たロボット。鉄仮面に口腔穴と視覚の突起が付く。右手は改造銃になって、左手で小柄な男を抱える。
「元議会長を人質にしているのを忘れたか。愚かな人間よ」
銃口を元議会長へ向けながら仁王立ち。
人々は恐れて声もでないらしいが、兵隊たちは懇願する。
「妖魔様。もう無理です」
「愚かな。我を怖れよ」
銃を乱射して威嚇する妖魔。
「命は助けよう。喧嘩で散らせろ」
久美は黙っていない。
「生物じゃないのね」
短剣で後ろから切りつけるが、金属に当たる音。
「小娘が。玩具など痛くも痒くもないわ」
無視する妖魔は元議会長を立たせる。
「戦争は続行する。隣のタウンへ殴り込め。逆らうと元議会長の命はないぞ」
群衆は声も出ない。
「元議長よ。きさまを議長にしてあげよう。これから宣戦布告をしろ」
ロボットは、議長に権限があると、タウン条例は守っているようなことを喋り、行動を正当化し始める。
ユミヤとイーシナゲルは群衆の先頭に出て来る。ロボットの右斜め。
「ロボットを刺激しないぐらいで、手を動かして」
イーシナゲルが周りの人たちへ合図する。調査員が何か考えている、と悟ったか、何気に動く人たち。
ユミヤは声には出さないが口を動かし、右へと手を動かしながら言う。久美は、この動きに気づく。周りに誤魔化されてロボットは合図に気づかない
。(右後方から。鞭で。そうか)
イーシナゲルが左手で鞭を振る仕草をするのを見て気づいた。
「賛同の手招きをするものおる」
ロボットは、前のいる何人かが、掌を上に指を曲げるのを確認にして解釈する。
「早く行動せんか。でないと」
元議会長へ向けた腕を、いかにもすぐ撃ちそうな仕草をする。
どよめく群衆。
イーシナゲルは素早く鋼鉄の球を投げる。
鉄仮面の右目の突起へ球が当たり、突起がひしゃげる。「
逆らうのは誰だ」
ロボットは銃口を、球が飛んできた前列へ向ける。伸びた腕へ、びゅんっ、鞭が巻き付く。
久美は必死に引っ張る。開いたロボットの身体。
「隙あり」
ユミヤがアーチェリーの矢を射る。しゅんっ、風を切り口腔穴へ跳びこむ矢。機械が壊れる金属音、小さな火花が溢れる口元。矢は挟まったか小刻みに揺れる。
「タアイナイ、アソビカ」
音声が旧式機械音に変わり、ロボットは引き抜こうと、左手を動かす。
元議会長はゆるんだ腕から転がるように抜け出した。
久美は叫ぶ。
「ハニャ。アタック」
ハニャーが大きく足を広げてロボットへ覆いかぶさり巻き込む。
「オロカナ、タミヨ。ワレヲタスケロ」
愚かな、民よ。我を助けろ、と倒れながらロボットは叫ぶ。
「ワレワヨウ。マダ。ゾ」
我は妖。魔だ。ぞ。ちょっと音声がおかしくなり、何かが弾ける音。
「爆発する。逃げなさい」
呆然としていた元議会長が、我にかえり、急かす。
「爆発。あわわわっ。逃げろっ」
久美は雛壇から降りるが、熱くなるロボットが心地良いらしいハニャーはふにゃー、とくつろぐ。
「来なさいってば」
久美は壇上にあがり一本の足を手繰り寄せる。イーシナゲルとユミヤも壇上へ、蛸の足を一本ずつ引き剥がして引っ張る。
「にげろー。みんなも逃げて」
群衆へ叫ぶ三人。元議会長が、慌てないで急いで、と誘導する。
「ばしゅっ。じゃわー」
壇上で音が響く。
「杏樹」
久美は魔進が吐き出す、粘り気のある液体に気づく。
「不発弾処理バリアだよ。まったくモォ」
言うと魔進とともに跳んで、遠くに着地。
くぐもるような爆発音。
固まり切れないバリアは弾ける。ダンスをするような動きが小さくなり、ロボットの塊を包むだけのバリアは石膏のように白く固まる。
杏樹は久美に近づく。
「科学力は怖いね。こういう兵器も作るから」
「だね。でもさ。杏樹は違うと思う」
「分かったようなことを。久美は他人の気持ちを理解できる能力はある。不器用なだけかな」
「知らないけれど。慈しみが必要って気づいた」
「最初から久美には有るじゃないの」
さてねー、と惚けるふうの久美。本気で気づかないのかもしれない。
「あっ、グライダーがきたから。ハニャ行くよ」
久美は言うと座席に乗り、グライダーへ引き上げられて行く。




