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第13章 固い決意と、祝福の言葉

28日目。

遥はアパートの部屋で、ハンマーを握っていた。

部屋は暗く、ストーブの赤い光だけがテーブルを照らしている。

翔平の言葉が、頭に響いている。

右手を、潰す。

描けなくなる。

でも、生きられる。

家族が、助かる。

翔平が、助かる。

遥はテーブルに右手を置き、覚悟を決めてハンマーを振り上げた。

これで、全て解決するんだ……。

でも、手が激しく震えた。

ハンマーが、ピタリと止まる。

……動かない。

絵本のせいか。

生き物としての本能か。

わからない。

涙がこぼれた。

翔平が、家族が、自分が……死ぬ。

遥はハンマーを落とし、立ち上がった。

最後の手段だった。

私が死ねば、本は移動する。

でも、死なずに……でも、方法がない……。

遥はアパートを出て、近くのビルの屋上へ向かった。

屋上に着き、フェンスに手をかけた。

足の震えが止まらない。

ぎゅっと、目を閉じた。

飛び降りる。

今から飛び降りる。

残された人達を守る……。

スマホが鳴った。

翔平から。

遥は、涙を流しながら、出た。

「翔平さん、今から……飛び降ります。

もとは、私の責任ですから」

翔平の声が、興奮していた。

「危ないところだった!

過去に起きている類似の事件を全て調べて、本から無傷で逃れられる理論にようやく辿り着けた! 

本を持って、今からうちに来てくれ!」

住所が伝えられた。

ここから、そう遠くはない。

「翔平さん……ありがとう。私……」

「君が、死な、なくて…良かった」

翔平の声が、急に、不自然になった。

抑揚が、平坦に。

「君、が生きてい、る事を……心か、ら祝いたい」

何かを引きずるような重い音がした。

肉が床を擦るような、湿った音。

翔平の息が、荒くなった。

「お、おいで。……来るな!……おめでとう……」

声に、抵抗するような響きが混じった。

必死で、何かに逆らおうとするような。

ガチャッという音。

何かが落ちる音。

肉がテーブルに置かれるような、鈍い音。

電話が、ぶつりと切れた。


本を握りしめ、翔平の部屋へ駆けつけた。

ドアが、少し開いていた。

押し開け、部屋に入る。

薄暗い。

明かりをつけ、遙は絶叫した。

翔平は壁にもたれかかり、座っていた。

胸は深く裂かれ、テーブルには、まるでパーティ料理のように、「なにか」が並べられていた。

その上に、リボンのついたカードが立てかけられていた。

血文字で

「おめでとうございます。

あと3ページです」


翔平の表情は、不自然な笑顔になっていた。

弱々しく、右手を差し伸べる。

手のひらに、血まみれで破れたメモが載せられていた。

引き裂かれ、読めない。

しかし、メモの残った部分に、翔平の字でこう書かれていた。

「失う必要はない

本から逃——

遥が生——」

それは、翔平の最後の抵抗だった。

遙がメモを受け取ったのを確認すると、翔平は力なく、崩れ落ちた。

翔平の瞳が、開いたまま遥を見つめている。

奇妙な笑顔のままで。

部屋の奥の暗がりから、動物たちの息遣いが近づいてくる。

遙は、振り返らず、部屋から逃げ出した。

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