通じ合った心。
嘉隆と零は、気持ちを隠しつつも、一緒に過ごす時間が増えていった。
いつもと変わらない放課後。
「零。」
嘉隆は、零に手を差し出し、荷物を受け取ろうとした。
「あ、ありがとう。」
零が荷物を渡そうと、荷物に手をかけた。
「九鬼くん!」
見慣れない女子が、廊下から嘉隆を呼び、手招きしている。
「何?」
嘉隆は、廊下へ向かって歩き出した。
「あっ。」
零は、見覚えのある顔につい声が出た。
「なに?」
嘉隆は振り返った。
「・・・何でもない。」
「そう。」
俯く零を気にしながらも、嘉隆は女子の元に向かう。
(あの子、美人で有名な子・・・佐藤唯だったか。告白とかじゃないよね?)
零は心配そうに、嘉隆の背中を見つめた。
「で、何かよう?」
嘉隆が問いかけると、唯は嘉隆の腕を掴み引っ張った。
「えっ?何?」
「ちょっと場所変えよ。屋上いこっ!」
「ここでいいだろ?もう帰りたいからさ。」
「大事な話なの。」
唯は、嘉隆の腕を引き歩き出した。
「ちょっと待っててくれ。」
嘉隆はため息混じりに振り向きながら、零に告げて歩き出した。
「まずい、まずい、まずい・・・絶対告白だよね?」
零はブツブツ言いながら、誰もいない教室をクルクルと歩き回る。
「無理!ダメだと思うけど・・・見に行こう。」
零は二人を追いかける様に教室を出た。
嘉隆は、唯に腕を引かれ校舎の屋上に連れてこられた。
唯は、嘉隆の腕を離すと振り返り、嘉隆を見つめた。
「ハァハァハァ。」
走って追いかけてきた零は、屋上に出るドアから二人を盗み見る。
(・・・私・・・何してるんだろ。)
零は虚しい気持ちで二人を遠目に見つめている。
「九鬼くん。」
「話って、何だ?」
「分かってるでしょ?」
唯は、少しモジモジしている。
「もしかして、告白か?
悪いけど、君とは付き合ったりするつもりはない。」
「ち、ちょっと!気持ちを伝える前にふるのやめてくれる?!」
「もう、いいか?」
「嫌。」
唯は、嘉隆の腕に絡みつき、胸元を押し当てながら嘉隆を見つめる。
「悪い。」
嘉隆は、平然と答え目をそらした。
「何で?こんなに頑張ってるのに。
もしかして!西園寺さんの方が大きいから?」
「何をいってんだ!」
嘉隆は顔を赤くしている。
「変態。」
「ほっとけ。」
「あ、あいつは何を言っているのだ!」
零は自分の胸元を見ながら、一人で顔を赤くして呟いている。
「あーぁ。言うつもり無かったけど・・・嘘の・・・。」
「何だ?」
俯きながら呟く唯に、嘉隆が問いかける。
「嘘の婚約者に本気になった?」
「そんなところだ・・・・何でそれを?」
「私、九鬼の事いいなーって思って、色々聞いて回ったら、婚約者がいるとか言うから、先生に聞いたの。
九鬼くん、田舎の島出身だよね。」
「・・・そうだけど。」
「この事、広まったら嘘つき呼ばわりされて、仲間外れだよ?西園寺さんも。」
「おのれ、あいつ、脅しとは卑怯な。
・・・待て、嘉隆は私に本気なのか?」
零は、心配そうに見守りながらも、心の整理に戸惑っている。
「別にいいよ。
今もちやほやされてるだけで、二人で仲間外れみたいになってるし。」
「あー!そうですか!もう、いい!」
唯は、落胆した表情で走り去っていった。
「好きな相手、脅すなよ。」
嘉隆は、頭を抱えて呟いた。
「西園寺さん。私、ふられたー。」
ドア越しに見ていた零は、突然向かってきた唯に焦って、ドアの横の壁に背中を当てて隠れたつもりだったが、唯には気付かれていた。
「そ、そうか。」
「余裕だね。・・・違うか、ここにいるんだもん。心配だったんだね。」
「・・・。」
「私、どんな手を使っても諦めないから!」
そう言い放つと、唯は階段を走って降りて行った。
「・・・はぁ。」
零は、色々な感情が混じり合い、ため息をついて座り込み、膝を抱えた。
「零、盗み聞きするならもう少し上手く隠れろよ。」
うずくまる零に、嘉隆は声をかけた。
「よし・・・たか。色々と聞きたい事がある。」
「う〜ん。先に言っとく。」
「・・・?」
零は無言で嘉隆を見上げた。
「零の気持ちは分からないけどさ、俺は零が好きみたいだ。でも、今は告白したり、付き合ったりするつもりは無い。」
「なんで?」
「ふ、ふられたら零のごはんが食べられなくなる。」
「・・・ふらない。」
零は、顔を赤くしてうずくまりながら答えた。
「ごめん。一番の理由は・・・俺が男だから。」
(家が隣、親はいない、いつも一緒。こんな状況で付き合ったりしたら・・・俺の理性がもたねー!)
零はまた俯き、何か考えていたが、
ハッとした様に、顔を赤くした。
「そ、そうか。」
「か、可愛く話す練習はやめたのか?」
「・・・忘れてた。」
悲しいのか、嬉しいのか、恥ずかしいのか。複雑な表情で、零は嘉隆に微笑みかけた。
(か、可愛い。)
嘉隆は初めて見た零の表情にドキッとした。
「零。」
「何?」
「帰ろ。」
嘉隆は座り込んだままの零に手を差し出した。
「うん。」
零は嘉隆の手を取り、立ち上がると嘉隆の腕にしがみついて嘉隆を見つめた。
「れ、零?」
「これくらいはいいでしょ?」
「べ、別にいいけど。」
「ふふっ。唯に先を越されたから上書き。ここは私の居場所だから。」
「・・・ぁ、あぁ。」
(この感じで来られると非常にまずいな。)
嘉隆は、この瞬間から先が、不安だっだか、心が通じ合った事を嬉しく感じた。




