初めてのお泊り。
「零、おはよ。」
「おはよう。」
嘉隆と零は、玄関の前で挨拶を交わし、零は荷物を差し出す。
そして、学校に着けばおはよう地獄からの、クラスメイトの質問地獄。
いつもの様に二人は、王子様とお姫様を演じる。
学校が終わり、決まり事の様に嘉隆は自分の家で着替えた後、零の家に行く。
そして、零の作った晩御飯を堪能する。
「あー!今日もうまかった!零は料理上手いな〜。」
嘉隆は幸せオーラを全開に放っている。
「あ、ありがとう。」
(今日はそんな幸せそうなお前にプレゼントがある。
ふっふっふ。昨日を超える地獄を思いついた。さぁ存分に苦しむがいい。)
零はニヤニヤとしている。
「どうかしたのか?」
俯いた零を嘉隆が覗き込む。
「い、いや。その。」
「また肩こりか?」
「そ、そうだ。」
(自ら墓穴を掘るとは、マヌケな奴め。)
零はニヤニヤとしている顔を隠す様に、俯きながらシャツのボタンを外し始めた。
嘉隆からは、照れているような仕草に見えていた。
嘉隆は昨日と同じ様に、零の後ろに立った。
(こっ、こいつ!下着を付けてない?!)
嘉隆は、煩悩が爆発しそうになるのを堪えながら口を開いた。
「お、お前。下着は?」
「そ、その。昨日肩の部分のが邪魔だっただろ?だから・・・外した。」
「は、外すなよ。」
「い、いいから。頼む。」
「・・・。」
(ダメだ!ダメだ!ダメだ!俺にはできない!無理だ!もう、その、頭がクラクラと・・・・?)
人間と言う生き物は、追い込まれすぎると、稀に冷静になる。
(待てよ。零、こいつ・・・これはまさか?!宣言無しの報復じゃないのか?
そもそも、肩を揉むのに服を着てようが着てなかろうがどっちでもいいだろ!
いや、むしろ普通は服を着たままだ。
やられた・・・とんだ辱めを・・・ふっふっふ。ここからは俺の番だ。
男と二人きりでこんな事をしたんだ。俺の煩悩の半分を叶えさせてもらうぞ!そして同時にお前を辱める方法を今思いついた。さぁ!反撃の時間だ!)
「どうしたんだ?」
中々肩を揉んでくれない上に、黙っている嘉隆に、零は問いかける。
「いや、何でもない。」
(この沈黙さえも作戦に組み込む。
我ながら、自分が恐ろしい。)
嘉隆は、零の肩を揉み始める。
「・・・あっ。」
(わざとらしく変な声を。だが、もう騙されないぞ。とは言え、晩御飯のお礼はしっかりしないとな。)
嘉隆は、律儀に零の肩を揉み続けた。
零が満足気にしだすと、嘉隆は手を止めた。
「ありがとう。楽になった。」
ドスッ。
零がシャツのボタンに手をかけようとすると、それを静止させるかの様に勢い良くベッドに座り、わざとらしく俯き、呟く。
「父さん、母さん・・・。」
零は、振り返り心配そうにする。
「ど、どうした?」
「いや、父さん、母さん、島のみんなに会いたいなと急に。」
「ホームシックと言うやつか?」
零は、ボタンを止めるのを忘れ、はだけた胸元に気づかないまま、嘉隆を心配そうに見つめる。
「寂しいな。」
「わ、私が・・・いるのだが?」
「そうだな。ありがとう。」
嘉隆は俯いたまま動かない。
「何かしてやれることはあるか?」
嘉隆は、俯いたままニヤッとした。
「小さい頃、俺が泣いてると、母さんが俺を胸元に抱き寄せて、頭を撫でてくれた。心臓の音が聞こえて落ち着いたな。」
「わ、私にそれをしろと?」
零は顔を赤くする。
「いいよ。こう言う気持ちになる事が、たまにあるんだ。そのうち治る。」
嘉隆は俯いたまま答えた。
顔はニヤついている。
(これは流石にやりすぎか?やっぱりやめておこう。)
嘉隆は我に帰り、顔を上げた。
だが、遅かった。嘉隆の視界には、零の胸元が。
「ど、どうだ?」
嘉隆は、零に抱きしめられながら動揺している。
(や、柔らかい!いい匂いがする!やばい!不味い!やりすぎた!)
嘉隆は後悔しながらも、ドク、ドクと聞こえる零の鼓動に安らぎを感じた。
(こ、このまま、ずっとこうしていたい。)
下心も煩悩も超越する幸福観が嘉隆を包みこんでいた。
しばらくそのまま、二人は黙って停止していた。
(嘉隆、こんな事をさせやがって。
・・・私は何故こんな事を?
不思議だ。嘉隆は男だぞ?私はいったいどうしてしまったんだ?
・・・こんな事をして嫌ではない・・・これはまさか・・・恋・・・なのか?)
零は、嘉隆への気持ちに気づいてしまった。
(俺は、零に何をさせているのだろう。
最近の俺はおかしい。こんな事他の女子にさせようと思うか?
・・・思わない。させようとしたんじゃない?して欲しかった・・・のか?
零に対する特別な感情。
これは・・・恋・・・なのか?)
嘉隆も自分の気持ちに気づいた。
「よ、嘉隆。どうだ?」
「うん。満たされた。」
「そ、そうか。」
零は、嘉隆から離れると、恥ずかしそうに胸元を隠した。
「零、ごめん。変な事させて。」
嘉隆は反省していた。
そして、報復はもうやめようと誓う。
「いや、大丈夫だ。嘉隆以外にはしたくないが、お前になら嫌だと思わない。」
「あ、ありがとう。」
(どういう事?零も俺の事?)
「あ、明日は休みだな。」
「そ、そうだな。」
「そ、その、まだ寂しいなら今日は一緒にここで寝るか?」
「・・・そ、それは不味い。」
「そ、そうか。」
零は少し残念そうに俯いた。
「じゃ、じゃあ今日はもう少しいてもいいか?」
「いいぞ!」
零はあからさまに嬉しそうにする。
「映画でも見るか?」
「そうだな。今日は何の映画だろうか?」
二人は、ベッドにもたれて並んで座る。
そして、映画は、よりによって少し過激な恋愛もの。
嘉隆は少し気不味そうにしている。
嘉隆が必死に平然を装っていると、嘉隆の方に、温もりのある重みがかかる。
嘉隆が恐る恐るみると、零は嘉隆の肩に頭を乗せている。
「・・・。」
(こ、こいつー!どういう心境でそうなってんだよ!)
「スー。スー。スー。」
「えっ?寝てる?」
嘉隆は零の顔を覗き込む。
「可愛い寝顔だな。俺の晩御飯と弁当まで作ってくれて。疲れさせてしまってんだろーな。起きるまで待ってやるか。」
嘉隆は、天井を見上げるとまぶたが重たくなった。
そして、眠りにつく。
微睡の中嘉隆の意識は戻りつつあった。
部屋の中が明るい気がする。
なんだか外の音が、騒がしい。
嘉隆は目をゆっくりと開けた。
「おはよ。」
少し照れた表情の零の顔が横にあった。
「おはよ。結局座ったまま寝たんだな。」
「そうみたいだね。」
「話し方、どうした?棒読みだぞ?」
「か、可愛く話す練習。」
「今のはできてた。」
「ありがとう。」
二人は、しばらくそのまま動かないでいた。
気持ちに気づいた二人は、初めてのお泊りの余韻に浸るのだった。




