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仕方なく「イケメンで高身長な異国の王子様」を俺は演じる。  作者: 蓮太郎


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二人きりの夕食。

「九鬼嘉隆。」


「何だ?というかまず隣りを歩いてくれないか?話しかけられるたびに立ち止まって後ろ向くのは面倒だ。それとも亭主関白な夫の後ろ三歩下って歩きたいタイプか?」


「バカを言うな。私は尻に敷くタイプだ。」


「そうかよ〜。とりあえず隣り歩けよ。」

零は少し早く歩いて嘉隆の隣りに並んだ。

「もしかして、歩くの早いか?」

隣りを歩く零に嘉隆は問いかけた。


「少しだけ早いかな。」

零は上目遣いで訴えかける様に言う。

少し大人しくなって言葉遣いが柔らかくなった零に、嘉隆はドキッとした。

「どうしたんだ?」


「何が?」


「いや、いきなり黙ったから。」


「・・・女の子らしい所が見えると、可愛いと思っただけだ。」


驚いた表情で、嘉隆を見ると零は顔を赤くした。

「お、お前は何でも口に出しすぎだ。」


「何?照れたのか?」


「て、照れてない。」

(何故こんな事になってるんだ。

関わりたくなかったのに。

胸の奥がザワザワする。調子が狂う。)


「あっそ。

俺の育った島さ、隠し事とかしないし、言いたいことは言うんだ。

まぁ、全部じゃないけどな。」


「そうか・・・九鬼嘉隆。」


「そのフルネーム呼びもやめないか?

嘉隆でいいよ。」


「・・・わ、分かった。

そ、そこのスーパーに寄りたい。」


「あぁ、いいぞ。」


二人は、スーパーに入った。

「カート押すぞ?」


「大丈夫だ・・・その、よ、嘉隆はカバンを持っているだろ?」


「そうか?別に大丈夫だけど?」


「私も大丈夫。何か食べたい物はあるか?」


「・・・。」

「何故黙る?」

「いや、こうしてると夫婦みたいだなと思って、少しドキドキした。」

「ば、バカ!」

(ふ、ふ、夫婦だと?こいつは羞恥心と言うものがないのか?!私までドキドキしてるじゃないか・・・何故?)

「零の得意料理が食べたい。」


「得意料理か。分かった。」


二人はひと通りスーパーの中を回り、買物を済ませ家に向かい歩いていた。

「ちょっとそこのベンチ行こ。」


「何故だ?早く帰ろう。」


「いいから。」

嘉隆は、ベンチに荷物を置くと、カバンをガサガサあさっている。

「これ。」

嘉隆は、スーパーで零が払ったお金の半分くらいを差し出した。


「別に大丈夫だ。」

「ダメだ。親に仕送りしてもらってる身分だし、全部払ってやるとかかっこいい事は言えないけど、これは受け取ってくれ。」


「以外と律儀なんだな。帰ってからでもいいと思うのだが?」


「すまん。こう言うのはちゃんとしないとと思うと、耐えられなくなった。」


「そうか。受け取っておく。」

零は、嘉隆の差し出したお金を受け取った。


「じゃあ、帰ろうか。」



二人はしばらく黙って歩いていた。

ハッとした様に嘉隆は零を見た。

「なぁ、今気づいたんだけどさ。」


「何だ?」


「どっちの家で晩御飯食べるんだ?」

しばしの沈黙。

零は思考をめぐらし、口を開いた。

「・・・中止だ。」


「ち、ちょっと待てよ!無理だ!

今日の俺の体はもうカップ麺は受け付けない!」


「無理だ。危険すぎる。」


「な、何もしないわ!

俺が言ってたのは、調理器具とか家には何もないし、家では料理できないだろうけど、かと言って零の家に俺が上がるのは抵抗があるんじゃないかと思ったんだよ。」


「別に抵抗は無い。約束できるなら、うちでいい。」


「そ、そうか。じゃあ零の家に行こう!」

嘉隆は嬉しそうだ。


「ま、待て、約束してないぞ?うやむやにして約束してないとかは無しだぞ。」


「分かったよ。」

嘉隆は立ち止まり、買物袋を腕にかけ、小指を立てた右手を差し出した。

「・・・。」

「早く!腕がプルプルしてきた。」

零は恐る恐る、嘉隆の小指に自分の小指を絡ませた。

「約束!」

嘉隆は無邪気な笑顔で笑いかけた。

(こ、こんな顔をするのか?

何だろう。やっぱり私、変だ。)


「よし!帰ろ。楽しみだなー!」


「何がだ?」


「零の作る晩御飯に決まってるだろ!

俺はこっちに来てから、コンビニ弁当とカップ麺しか食べてないんだ!

やり方はひどい事したけど・・・零の家から晩御飯の匂いが、毎日、毎日するから、零の作るご飯を食べたい、食べたいって毎日思ってたんだぞ!やっと食べられるんだ〜と思うと嬉しくて!」

(またこの顔。無邪気な笑顔。

・・・可愛い・・・と思ってしまっている・・・のか?)

「そ、そんなに期待はするな。」

零は少し嬉しそうに顔を赤くした。



二人はこの後、零の家にまっすぐ帰った。


「どうしたんだ?上がらないのか?」


「いや、本当に上がっていいのか?」


「嫌なら帰ればいい。」


「嫌じゃない、気を使ってるんだよ。」


「気を使う必要はない。これから毎日来るんだろ?」

嘉隆は、零の何気ない言葉に、何故かドキドキした。

「じゃ、じゃあ、上るぞ。」


「そこら辺に座ってくれ。

テレビみるなら、リモコンだ。」

零はテレビのリモコンを差し出した。

「ありがとう。」


零は何かに気づいた様で、キョロキョロと落ち着きがなくなっている。


「どうしたんだ?」

嘉隆は不思議そうに問いかけた。

「よ、嘉隆。自分の部屋に戻ってくれないか?」


「はぁー!無理!俺は今日、絶対に零の作った晩御飯を食べる!」


「ち、違う。そ、その、制服だと疲れるから、着替えたいんだ。」


「そ、そうか。すまん。」

嘉隆は少し顔を赤くすると、立ち上がり、玄関へ向かう。


「5分後に来てくれ。」


「分かった。」

バタン。


嘉隆は、自分の部屋に戻り、荷物を置いて、着替えた。

「そろそろ5分だな。」

嘉隆は、零の部屋の前に立ち、インターホンを押した。

「入ってくれて大丈夫だ。」

インターホン越しに、零が返事をした。

ガチャ。


嘉隆は、ドアを開けた。

・・・バタン。

そして、しばし停止した後、ドアを閉めた。

(いや、いや、いや、いや!なんちゅうかっこしてんだあいつ!)


(ふふっ。照れているな。

不意に思いついたこの報復。苦しめ、よ、嘉隆。)


ガチャ。

ドアが空き、零が顔を出す。

「どうした?入らないのか?」

「ば、バカかお前!もっと体が隠れる服ないのか!」

「何だ?照れているのか?」

股下ギリギリの短いズボンに、キャミソール姿の零は、ニヤニヤしながら嘉隆を見る。

「べ、別に。」


「なら入れ。」


「あ、あぁ。」

意地を張り、嘉隆は部屋に入り、さっきと同じ場所に座った。

「顔が赤いが、大丈夫か?」

「赤くない!」

嘉隆は怪訝そうに否定する。


(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経ー!あー!邪気よー!俺の脳から出て行けー!)

嘉隆は目を閉じて煩悩を断ち切ろうと必死になっている。


しばらくそうして動かない嘉隆を見て、零はニヤッとした。


コトン。


テーブルに何かを置く音に、嘉隆は目を開けた。


テーブルにはカップが2つ置かれている。

「嘉隆、後は煮込み終わるのと、ご飯が炊けるのを待つだけだ。」


「もう終わったのか?すごいな。」


「両親共働きで、ほとんど一人だったからな、自炊はなれている。」


「そっか。寂しく無かったのか?」


「寂しくないと言えば、嘘になるかな。」

零は、カップに両手を添えて、滑らせる様に遠ざけながら、ふくよかな胸をテーブルに乗せた。

零は、悪い顔をしながら横目で嘉隆を見ている。


(む、む、胸が!ムニッてなったー!ダメだ!やめてくれー!)

平然を装おうとするが、嘉隆の顔は赤い。

キャミソールの胸元には、谷間がチラッとみえている。


「嘉隆、どうした?」

零はそのままの体制で、上目遣いで問いかける。

「零、頼むから服着ろ。」


「着ているぞ?」

ニヤニヤしながら零は答えた。


「・・・お前、まさか?!わざとか?」

嘉隆はハッとした様に我に返った。


「ようやく気づいたか。

そして、私の魅力にも気づいた様だな。褒めてやる。

これは報復だ。

約束の指切りをした以上、何もできないお前にとって地獄のような光景だろ?

報復とは周りを巻き込まない状況でも行なう事ができるとさっき気付いたのだ。

どうだ!地獄を味わえ。」

零は、両手をテーブルにつき、胸元を魅せる様に、勝ち誇った顔をする。


「・・・いや、天国だ。」

嘉隆はニヤッとした。


「ば、バカか。」

嘉隆の悔しがる顔を見られると思っていた零は、驚いて体を起こした。


「お前さ、何もされないからって、見られるのはいいのか?」


「べ、別に抵抗はない。」


「何でだ?普通嫌なんじゃいの?」


「・・・誰にでも見られていいと言う訳ではないが、お前に見られるのには不思議と抵抗がなかった・・・?

な、何故?・・・そ、そうだ!男として意識していないんだ!なるほど、そうだ!」


「おい、零。人の傷つく事を口に出すものじゃないぞ。」

(報復には報復・・・少し懲らしめてやろう。)


「悪かった。

そろそろ煮込み終わったかな?」

零がキッチンの方をむくと、嘉隆は零の腕を掴み引っ張りながら体を支え、横のベッドに優しく乗せると、覆いかぶさるように零の顔の横に手をついた。


「や、約束はどうなったのだ!」

零は顔を赤くして、涙目になっている。


「そんなカッコを見せられたら、男はこうなる。」

嘉隆は真面目な顔を演じている。


「ま、待て!服はきる。落ち着け。」


抵抗する零を抑えながら、嘉隆はゆっくりと顔を近づける。

零は観念した様に目を閉じた。

(やりすぎてしまった。

・・・でも、不思議と嫌ではない。)

嫌では無かった。

それなのに、何故か零の目尻からは涙が一滴こぼれ落ちた。

数秒間沈黙が流れ、何もされない状況に零は目をあける。


目の前には、悲しそうにする嘉隆が停止していた。

「どうした?」

零は悲しそうな嘉隆に、問いかけた。


「すまん。泣かせて。

・・・ちょっとだけ脅かすつもりだったんだ。やりすぎた。」

嘉隆は体を起こし、立ち上がる。

「やっぱり帰る。」

嘉隆は玄関の方を向くと、俯き、トボトボと歩き出そうとする。

「待て。」

零は、嘉隆の腕を掴もうと手を伸ばしたが、握ったのは、嘉隆の手だった。

「わぁ。」

零は、恥ずかしそうに手を離した。


振り返った嘉隆に、零は口を開いた。

「は、反省した?」

いつもと違う口調で、顔を赤くしながら、見つめてくる零に嘉隆はドキッとした。

「反省・・・してる。」


「そうか。せっかく作ったんだから、晩御飯食べていかないか?」


「そ、そうだな。ありがとう。」


「あ、あぁ。じゃ、じゃあ私が盛り付けるから、嘉隆は運んでくれ。」

零は、立ち上がるとキッチンに向かった。



「頂きます!」

嘉隆は、嬉しそうに零の得意料理、肉じゃがに箸をつけた。

「うっまー!うまいぞ零!」


「そ、そうか。それは良かった。」


「あ〜幸せだー!」

(またこの顔。私は、この顔を見ると心がザワザワする。)


「ごちそうさま!」

嘉隆は満足気だ。

「いやー!うまかった〜。零、ありがとう!」


「喜んでもらえて良かったよ。」


「で、お前さ、いつ服着るの?」


「反省したんだからもういいんじゃないのか?」


「いや、その服装は刺激が強すぎる。」


「・・・お前は、私をどうにかしたいと思うか?」


「・・・そ、そうだな・・・良く分からん。」


「そ、そうか。」

零は立ち上がると、クローゼットからTシャツを取り出して上から着た。

「これでいいか?」


「う〜ん。ギリギリセーフだ。

ズボンももう少し長いとありがたいが。」


「私は、家では楽なカッコがいいんだ。

ズボンは我慢しろ。」


「はいはい。明日からもちゃんと服着てくれよ。」


こうして初めての二人きりの夕食は終わった。


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