報復の報復は、報復される。
コツコツコツ。
コツコツコツ。
「零、シャーペンで机をコツコツするな。気が散る。」
昼休み、読書をしていた嘉隆は、怪訝そうに零に言う。
「気になさらないで、嘉隆さん。
私は思考をめぐらす時、こうなるの。」
「おっ、いい感じだな。上手に演じてるじゃなか、零。」
コツコツコツ。
「九鬼嘉隆、私を怒らせた事、必ず後悔させてやる。」
「ふっふっふ。まだやり合うつもりか?俺は、お前を追い込む次の一手も用意できている。」
「ふっ、ハッタリだけは上手いようだな。」
「ハッタリかどうか試してみるか?
謝るなら今のうちだぞ?」
「謝る?私がお前に?無理な話だ。」
「そうか・・・考えてみろ。よっぽどの事がなければ、俺が王子様で、お前が俺の婚約者と言うのは覆らない。
この状況で、有利なのは男の俺だ。
分かるか?」
コツコツコツ。
コツ。
「そんな事は既に思案済みだ。
お前は精々油断していればいい。
お前を変態だとか、私のストーカーだとか陥れる事は簡単だが、それでは面白くない。期待して待っていろ。」
「・・・なるほど・・・零。」
「何だ。」
「頼む!陥れるのは禁止にしよう。」
体をのけぞらせ余裕を見せていた嘉隆だったが、零の思考の先を読み、焦っている。
体の向きを変え、零に向き直り懇願する。
「安心しろ。村八分を恐れて金髪にする様な小心者を陥れるほど私の性格は歪んでいない。」
「・・・そうか。」
見下された様な発言に、少し苛立ちを覚えたが、嘉隆は大人しく机に向き直った。
二人は、こうして小声で話ているだけで、教室中から視線を感じていた。
まさに、注目の的。
気を抜けない学園生活は始まったばかり。
二人は少し後悔していた。
キーンコーンカーンコーン。
1日の終わりを告げる鐘が鳴る。
「終わったー!」
生徒達は、開放感に満ち溢れ教室を後にする。
「ねぇ、ねぇ!西園寺さん、一緒に帰ろうよー!」
女子二人組が、零のもとに近づいて来た。
嘉隆がチラッと見ると、零は悪い顔をしている。
(あいつ、何か仕掛けて来るつもりだな!?)
「ごめーん!私、嘉隆と帰るの。
嘉隆ね、私が力が無いからって、私の荷物持ってやるから一緒に帰るぞって。」
零は、わざとらしく恥ずかしそうにする。
「なんだよー!俺たちは九鬼を誘おうと思ってたのに。」
反対側から男子生徒二人が残念そうに言う。
「いいな~。九鬼くん紳士だね〜。」
女子生徒達は羨ましそうにしている。
(どうだ!九鬼嘉隆!お前は今日から私の荷物持ちだ!)
零はニヤニヤしながら嘉隆を見た。
嘉隆は立ち上がり、零の耳元に顔を近づける。
「な、何だ。」
零は少し赤くなり動揺している。
「やったな?覚悟はできてるんだろうな?」
「つ、強がりはよせ。」
「おーい!二人でコソコソ何話てんだよー!」
男子生徒は嘉隆に絡む。
「いやー、零がな、荷物持ってもらう変わりに色々とな。」
「な、なんだよー!色々って何だ!」
男子生徒は興奮している。
「あっ、お前らが今考えてるのはちょっと違うぞ。」
「な〜んだ。」
男子生徒達は冷めた表情だ。
「どうせえっちなこと考えてたんでしょー!」
女子生徒達は幻滅した様に一歩引いた。
「で、荷物持つ変わりは?」
欲しがる男子生徒をニヤニヤと見ながら嘉隆は口を開く。
「俺、料理できないんだけどさ、零が俺の体を心配して、今日から晩御飯作ってくれるんだよ。」
「マジ?いいな〜。」
羨ましそうにする男子生徒を尻目に、嘉隆は続ける。
「零さ、料理上手いんだよ。
明日、写真見せてやるよ!」
「えっ!みたいみたい!」
女子生徒も興味津々で食いついてくる。
零は俯き、敗北感に押し潰されていた。
(おのれ、九鬼嘉隆。私は・・・私はこいつに勝てないのか。)
「零、明日写真見せてもいいか?」
「別にいいけど。」
ここで写真は恥ずかしいから嫌だとか返せば、回避できたが、
零は、敗北感から思考停止に陥り、抵抗する気力が残っていなかった。
「やったー!楽しみー!」
女子生徒は嬉しそうにしている。
目に光を失った零は、黙って嘉隆を見つめている。
嘉隆は、ニヤッとしながらまたあの悪魔の様な形相に変わる。
(こ、こいつまだ私を追い詰めるつもりか?!次は何だ。・・・もう何でもいい。)
零は、この場から逃げ出したい衝動にかられたが、プライドが許さなかった。
そして、嘉隆が口を開く。
「あっ、そうそう、写真もだけど明日から弁当も作ってくれるんだよ!」
(なるほどな・・・私は荷物持ちを手に入れた代償に、専属シェフになるのだな・・・これは・・・敗北だ。
間違いなく私の方が大変になる。)
「いいよなー!俺も彼女欲しー!」
男子生徒は羨ましそうに嘉隆を見た。
「明日、お弁当も見にくるから〜!」
周りを囲んでいた生徒達はワクワクした様子で帰っていった。
「零、帰るか。」
嘉隆は零に手を差し出した。
「な、何だ?」
「荷物、持ってやるよ。」
「あぁ、そうだったな。」
放心状態の零は、カバンを嘉隆に渡した。
「覚えていろ。必ず一泡吹かせてやる。」
「はいはい。」
嘉隆は、軽くあしらうと歩き出した。
「ま、待て。」
零は小走りで嘉隆を追いかけた。




