未来。
「トリアエズ、コレハ、ソツギョウイワイダヨ。」
零の父は、形の違う2つの箱を、嘉隆と零の前に差し出した。
「零のは、お父さんとお母さんが一緒に選んだの。嘉隆くんのはお父さんが選んだから中身は知らないけど、後で開けてね。」
零は初めてもらうプレゼントを嬉しそうに抱きしめた。
「ありがとう。」
嘉隆も、プレゼントを素直に受け取った。
(えっ?何?めっちゃくちゃ軽いんだけど。)
「俺にまでありがとうございます。」
嘉隆は、中身が空な可能性さえ疑いながらも、素直にお礼を言う。
「零!」
母は少し大きめの声で叫ぶと、父と顔を見合わせた。
「ごめんなさい。」
「ワルカッタヨ!」
突然、零の父と母は頭を下げた。
「お父さん、お母さん、どうしたの?」
零は焦った様子だ。
「今までの事、謝っても許してもらえないと思う。でも、謝りたいと思った。」
「ヨシタカノオカゲデ、イロイロカワッタ。」
嘉隆は不思議そうにする。
「嘉隆くんに罵倒された日から、私達はたまに連絡を、取るようになったの。
あなたの話題でね。」
「は、はぁ。」
「連絡を取るうちに、ディナーに一緒に行こうってなった。
その日にね、色々話したの。
零が産まれた後の事。」
「レイ、オトウサンガ、ウワキウタガッテルダロ?」
「えっ?・・・うん。正直、お父さんは他の女の人といると思ってた。」
「ソレナラ、トックニ、ワカレテルヨ。」
「お父さんが浮気してると、お母さんも思ってた。そのうち離婚するんだろうなって思ってた。
零、何でお父さんとお母さんが離婚しなかったと思う?」
「分からない。」
「本人達が分からない事、分かるはずないよね。お父さんとお母さんは、ずっとお互いを思い合ってたのよ。
お母さんは仕事が楽しかったから、お父さんと相談して一人だけって約束で、子供を作る事にしたの。
産まれて来たのは女の子だった。
お父さんは跡継ぎが欲しかったから落胆して、家にいられないくらいに動揺したみたい。
しばらく帰らないでいたら、帰りづらくなったらしいの。
お母さんはお母さんで、大好きなお父さんが出て行ったと勘違いして、零に向き合えないくらい落ち込んでしまったの。
そんなすれ違いがこんなに長い間続いた。」
「そんな子供みたいな理由で、零はずっと寂しい思いをしたんですか?」
嘉隆は、抑えられずつい口から出てしまった。
「本当に申し訳ないことをしたと思ってる。もっと早くお父さんと話し合うべきだったけど、お互いに話し合えば離婚を切り出されるって思って、触れずにここまできた。
叶うなら、お父さんと零との時間を取り戻したい。」
「良かったよ。」
零の頬には涙がつっている。
「お父さんとお母さんがずっと好き同士で、嬉しいよ。
時間を取り戻すのはできないけど、これから家族になりたい。」
「零。」
零の母は、こらえきれずに零を抱きしめた。
父も、二人を覆うように抱きついた。
「コレカラカゾクニナリタイヨ。」
「なろう。家族になろっ。」
ずっと欲しかった親の愛情に包まれて、零は泣きながら喜んだ。
「ヨシタカモオイデー」
嘉隆の頬にも涙がつたっていた。
「良かったなー!零!」
嘉隆も3人を包み込むように抱きついた。
感動の涙で、しばらく4人で抱き合った。
落ち着いた4人は、なんだか照れくさい雰囲気に包まれた。
「さぁ、邪魔者は帰ろうかしら。」
零の母は立ち上がると、父に手を伸ばす。
「今ね、私達、一緒に暮らしてるのよ。
零、また遊びに来てね。」
「えっ?じゃあ、零も一緒に暮らせば?」
嘉隆は、つい口から出てしまったが、後悔した。
(カップラーメン生活再びだな。)
「ヨシタカー!ソレハデキナイヨ。」
「何でですか?」
「シュウイチノディナー。ソレガヤクソク。レイノソバニズットイルダロ?」
「・・・はい。そうしたい。」
「レイノコト、タノムヨ。」
「はい・・・。」
嘉隆は、認めてもらった事が嬉しかった。
「で、でも零は?」
「私、この部屋出ようと思ってる。」
零は、決意を表明する様に言う。
「えっ?やっぱり一緒に暮らしたいよな。」
嘉隆は少し寂しそうだ。
「うん!引っ越す!隣りの部屋にね。」
「・・・・隣り?そう言う事か!」
「お父さん、お母さん、いいよね?」
「イイヨ。」
「勝手にしなさい。学費とこれまでと同じ額は面倒見てあげる。
二人で暮らして、浮いた分は結婚資金にでもしなさい。
あと、嘉隆くんのご両親にも了解を得ること。」
「うん。」
零は嬉しそうに微笑んだ。
「じゃぁ、また連絡するわ。」
「マタネー。ヨシタカ、ソレ、キョウツカウトイイヨ。」
零の父は満面の笑みで、嘉隆に渡した卒業祝いを指さしながら帰っていった。
二人は、嵐の様に足早に去っていった。
「零、良かったな。」
「うん。嘉隆と出会えて、こんなに幸せになれた。ありがとう。」
「これからもっと幸せになろうな!」
「うん!」
幸せの余韻で、もう一度零に襲いかかる気分になれなかった嘉隆は、卒業祝いを手に取った。
「零、開けてみようか。」
「そうだね。」
「俺の、空箱みたいにかるいんだけど。」
「私のはそこそこ重い。」
嘉隆は、自分がからかわれている可能性を考え、零が開けるのを待っている。
「万年筆だ。」
零は嬉しそうに万年筆を手に取った。
「大切に使う。宝物だ。」
「良かったな。」
「嘉隆のあけてよ。」
「あぁ。」
嘉隆は包を開けて固まった。
「何それ?業界最薄?」
「これは、そういう時に使うやつだ。
俺も今日、買って、カバンに忍ばせている。」
「お父さん、ちょっとズレてるよね。」
「そうだな。空箱じゃなかったけど、卒業祝いにこれかよ。」
嘉隆は、少し寂しそうにする。
「あっ!!嘉隆、違うよ!多分それは、どんなプレゼントよりも心がこもってるよ。」
「どういう事だ?」
「だって、まず、関わりがなかったとはいえ、娘の彼氏にそんなの渡したい父親はいないでしょ?2年半頑張った嘉隆への信頼とご褒美を示したかったんじゃないかな?」
「そうか。考え方を変えれば、これを渡すと言う事は、娘を渡すのに近いな。」
「良かったね。宝物だね。」
「あぁ、大事に使うよ。」
「えー?使うの?」
「使う。使ったら、零を預かった証になるきがする。」
「なるほど・・・・じゃあ、仕切り直しで、今から使う?」
「うん。使おう。」
「じゃぁ来て!」
零は、ベッドの上に乗ると、両腕を広げ、嘉隆を呼ぶ。
「零、大好きだー!」
この日、二人は業界最薄の卒業祝いで、心も体も結ばれたのだった。
ゴーーーーー!!
空港の滑走路を走る飛行機。
車輪が地面を蹴るように飛行機は飛び立つ。
「飛んだー!飛んだぞ、零!」
「嘉隆、おめでとう!」
あれから長い月日が経った。
嘉隆と零は結婚し、嘉隆の肩には、小さな男の子が肩車されている。
夢だった飛行機の設計。
嘉隆主体で設計された飛行機がいま、初めて飛んだ。
「嘉隆。」
「何だ?」
「これからもずーっと一緒にいてね。」
「当たり前だろ?ずーっと一緒にいよう。」
「完」




