添い寝。
ブーーー!
「気おつけてなー!」
「唯、大和!頑張ってね〜!」
大きく手をふる嘉隆と零に、
フェリーの甲板から、4人は手をふる。
フェリーは、みるみる小さくなった。
「行ったね。」
「行ったな。」
嘉隆と零は、少し寂しそうに笑い合った。
「大和と唯大丈夫かなー?」
「大丈夫じゃないだろうなー。
遠い所まで来てもらって申し訳がないな。」
「・・・そうだね。でも、みんなもきっと楽しかったと思うよ?」
「そうだな。俺も、すごく楽しかった。」
嘉隆と零は、嘉隆の家にゆっくりと歩いて引き返す。
零以外の4人は、お盆は家族との予定がある様で、ひと足先に帰っていった。
嘉隆の父は、今日から漁を休む様だ。
「今日はお墓参りにいくぞ?」
「う、うん。何だか緊張するな。」
「ご先祖様に零の事を紹介しないとな。」
「う、うん・・・やっぱりお墓参りって大切だよね。」
「俺は毎年行くけど、人によるんじゃないか?」
「そうなんだ。
・・・私ね、お墓参りした事ない。
お墓があるのかさえ知らない。」
「そうか。俺も頑張るからさ、これから零の両親とも仲良くなって、いつか零のご先祖様のお墓に一緒に行こう!」
「ありがとう。私も、いつか、嘉隆をご先祖様に紹介したい。」
「あぁ、頼む!」
「うん!」
「おー!嘉隆!出発するぞ!」
家の前で、嘉隆の父が手を振っている。
「待たせてたみたいだな。零、行こうぜ!」
嘉隆は、零の手を掴むと、零を気にかけながら走った。
零は、嘉隆の家族に加わり、お墓参りを無事に終えた。
嘉隆の父は、零に島を案内がてらに、島を車で回った。
展望台や、行きつけの店での昼食を終えると、家に帰ってきた。
今でゆっくりとしていると、心地が良い。
家族の時間。幸せな時間を、零は初めて味わった気分だった。
「あの、今日はありがとうございました。私が混じってしまってごめんなさい。」
零は、家族の時間を邪魔したのではないかと気にしていた。
「もぅ、零ちゃん。謝らないの。
零ちゃんは家族だと思ってるのよ?
これから毎年、お盆だけじゃなくて、お正月も来てほしいわ!」
「あ、ありがとうございます。
絶対来ます!」
零は嬉しそうにする。
「家族か。私、幸せです。」
零は、嘉隆に出会えた事を心から良かったと思った。
それから、夕食を嘉隆の母と作り、4人で食べ、風呂に入り、布団の中に零はいた。
「今日で終わりか。もう少しいたかったな。」
零は、布団の中で呟いた。
もうすぐ非常に強い台風がやってくる。
零の安全のために、嘉隆と零は明日帰る事になった。
「眠れない。」
零は枕を持って立ち上がった。
「・・・いいよね?」
零は、客間を出て嘉隆の部屋に向かった。
ガチャ。
「嘉隆〜。」
「零?」
嘉隆は、ベッドに寝転がり天井を見上げていた。
「眠れない。なんだか・・・ホームシックかも。」
「どこにだよ。」
嘉隆は、大体分かったと言う表情で、ベッドの端により、空けたスペースをトントンと叩く。
「ありがとう。」
零は嘉隆の隣りに横になると、嘉隆に背中をむけた。
嘉隆も、零に背中を向けている。
「嘉隆。」
「何だ?」
「私、嘉隆の家族が大好きになったよ。」
「嬉しいよ。いつか、零も家族になってくれると嬉しいな。」
「うん。是非お願いします。
・・・もう少しいたかったな。」
「また来ればいい。」
「うん。絶対来る。」
「ありがとう。」
「・・・。」
「・・・嘉隆。」
「何だ?」
「ぎゅってしたい。」
「俺も。」
嘉隆は、零の方に向き直り腕を回して抱きしめた。
零は、嘉隆の方を向こうとする。
「零、こっち向くのは禁止。」
「ゔ。・・・分かった。」
零は、自分を抱きしめる嘉隆の腕を抱きしめる様に顔を当てた。
「嘉隆、おやすみ。」
「あぁ、おやすみ。」
カチカチカチカチ。
スー。スー。スー。
時計の音と零の寝息だけが聞こえる静かな部屋。
(零のバカヤロウ。気持ち良さそうに寝やがって。俺は、今夜、一睡もできないだろう。でも、幸せだ。)
「零、俺は、零と出会えて幸せだよ。」
嘉隆は、零のサラサラな銀髪をみながら呟いた。
そして、一夜が明けた。
窓から朝日が差し込む。
零は、差し込む光に目を覚まし、嘉隆の方に向き直った。
「おはよ。」
「うん。おはよ。」
「嘉隆、顔が疲れてるけど?」
「そうだな、一睡もしてないからな。」
「ふふっ。」
「笑うなよ。」
「ごめん。ありがとう。帰り道は寝てて。乗り換えの時は私が起こすから。」
「助かる。」
「じゃぁ、帰る準備しよっか?」
「そうだな。」
零は起き上がると、身支度をしに客間へ戻っていった。
「全く。」
嘉隆は、眠気をこらえながら、身支度を始めた。
ブーーー!
「零ちゃん!また来てねー!」
「はーい!ありがとうございまーす!」
零は、嘉隆の両親が見えなくなるまで、名残惜しそうに島を眺めていた。
「さっ、嘉隆、中に入ろう。」
「いいのか?」
「眠いでしょ?」
「大丈夫だよ。そうだな、乗ってる時間の長い、電車では膝枕でもしてもらおうかな。」
「うん!もちろん!」
零は、膝枕を想像して電車を待ち遠しく思った。




