家族。
「おせーよ!」
嘉隆達が海を満喫して家に戻ると、居間のソファーには達也と嘉隆の父が鎮座している。
「何だよ、達也も暇なら来れば良かったのに。」
「あのな〜、俺は早朝から漁に行ってたんだよ。」
「頭が下がるわ。お疲れ。」
「お、おぅ!」
達也は、嘉隆の労いに嬉しそうにする。
「それにさー、海ではもう遊びたいと思わないわ。」
「何でだよ?」
「・・・・海を見ると地獄を思い出す。仕事以外の時は海から離れたい。」
達也は、ブルッと体を震わせた。
「達也は漁師やめたいのか?」
「まぁ、地獄の様な毎日だが、やりがいってやつはそれなりにあるからな〜。
今のところは大丈夫だ。
・・・今のところは。」
達也は俯いた。
「今のところはとは?」
「嘉隆、俺は4月から漁師見習いになっただろ?」
「あぁ。」
「冬の海をまだ、俺は知らない。
想像するだけで涙が溢れ出しそうだ。
・・・かじかむ手。
・・・冷える体。
・・・荒れる海。
・・・・容赦なく吹き付ける氷の様な風。
どうだ?俺の恐怖が分かるか!」
「達也、気合だ!」
隣りに座る嘉隆の父が達也の肩を強く叩く。
「おっちゃん、痛いって!全く、この島の男達は、力加減と言うものを知らないから困る。」
「あはははっ!」
居間は、楽しい雰囲気に包まれる。
しばしの歓談の後、零はキッチンに向かった。
「お母さん、夕食の準備手伝います!」
「あらあら、零ちゃん。ありがとう。」
零は、薄手の長袖を腕まくりしながらキッチンにたった。
「ゆっくりしてていいのよ?」
「・・・私、こんな風にお母さんと話しながら料理したかったんです。」
「そう。じゃあお願いするわ!」
嘉隆の母は、嬉しそうに笑った。
「あー!楽しいし、うまかった!」
夕食を食べ終え、達也は満足気だ。
後片付けも終わり、居間でおのおのくつろいでいた。
ブーブー。ブーブー。
「誰かスマホ鳴ってない?」
唯が微かな音に気づいた。
「零のカバンだよ?」
ソファーの横に置かれたカバンを取り、唯は零に渡した。
「誰だろ?私のスマホを鳴らす可能性がある人はここに全員いるはずなんだけど。」
零は、不思議そうにカバンからスマホを取り出し画面を見た。
「・・・・・。」
ブーブー。ブーブー。
「零?でないのか?」
嘉隆は不思議そうにする。
画面を覗くと、「母」と表示されている。
「お母さんだな。」
「・・・うん。」
零が固まっていると、静かにスマホを震わせていた振動が鳴り止む。
「いいのか?」
「・・・私、ちょっと外で話てくるね。」
零は立ち上がると、玄関へ向かった。
「俺、様子見てくる。」
「何で?」
ただの母親からの電話で、変な雰囲気の零と嘉隆を見て、唯達は不思議そうにしている。
「・・・俺から話す事じゃないけど、零、親とあんまり上手くいってないみたいなんだ。心配だし、見てくる。」
「そ、そうなんだ。」
唯は心配そうに俯いた。
零は、玄関を出て庭に歩いた。
海を見下ろす位置に置かれたベンチにゆっくりと座った。
気が進まなかったが、深呼吸してスマホを耳に当てる。
もしもし。
電話の向こうで母は不機嫌そうにしているのが伝わってきた。
「お母さん、ごめん。何だった?」
特に用はないわ。
生存確認よ。
「そ、そう。」
じゃあ、忙しいから切るわよ。
「う、うん。」
プープー。
「・・・久しぶりに電話した親子の会話とは思えないな。」
零は、スマホを握り膝に下ろすと、俯いた。
涙が溢れ出してくる。
「なんでだろ?
・・・・慣れてるはずなのに。
嘉隆の家族が温かすぎて、比べてしまった?」
零は独り言の様に呟いた。
「零はもう、うちの家族みたいなもんだ。」
後ろから話しかけられて、零は振り向いた。
「嘉隆。」
「ごめん。心配できた。」
「見てたの?」
「うん。」
「寂しい家族でしょ?お母さんと久しぶりに話したのに、生存確認だけ。」
「そうだな。」
嘉隆は、零の隣りに座り腕をまわすと抱き寄せる。
零は、嘉隆の胸に顔を押しつけた。
「うぇ〜ん!」
零はこらえきれずに泣き出した。
「よしよし。」
嘉隆は優しく零の頭を撫でる。
零はしばらく泣いた後、顔を上げて口を開いた。
「私、嘉隆に全部話して無かったの。」
「何を?」
「家族の事。」
零は、嘉隆の方に頭を置いて、空を見上げた。
「私は望まれない子なの。」
「どういう事だ?」
「お父さんとお母さん、二人とも仕事ができるみたいで、二人は自然に惹かれ合って結婚したらしいんだけど、お父さんは跡継ぎが欲しいと思ってて、お母さんは働きたいから子供をつくるつもりは無かったみたい。
でね、二人は話し合って、一人だけ子供を作ることにしたの。
生まれてきたのが、女の子でお父さんは落胆したみたい。
で、家族を諦めたお父さんは、家に寄りつかなくなった。
仕事してるのか、他の女の人といるのか分からないけど。
お母さんは、体の調子が戻ると、物心付かない私をベビーシッターさんに預けて仕事をしだした。
最初は、仕方なく早く帰ってきてたんだけど、家でも仕事してたし、甘えたり、かまってもらったりした記憶がない。
私が一人で大丈夫だと思ったのか、小学生になる前には、夜はほとんど一人ぼっちだった。
お母さんが一人リビングで仕事をしてた時に呟いた事を今でも覚えてる。
子供なんてつくらなければ良かった。って。
全部本当かは分からない。
私を不憫に思ったのか、家政婦さんが教えてくれた事だから。」
「そっか。辛かったな。」
「うん。寂しかったよ。
それでも私は、お父さんとお母さんと家族になりたいって思って、一生懸命勉強した。いい子でいた。
・・・でも、ダメだった。
お父さんとお母さんが離婚しないのは謎なんだけど。
こんな風になるなら、結婚しないで欲しかった。
私を産まない」
「零!」
嘉隆は、零の言葉を遮る様に抱きしめた。
「その先は言うな。言わないでくれ。
俺は、零の親はひどいと思う。
でも、零を産んでくれた事だけは感謝してる。今まで寂しかった分、これからは俺がそばにいる!ウザがられても絶対そばにいるから!」
「・・・グスン・・・ありがとう、嘉隆。」
嘉隆は、零を抱きしめながら、優しく何度も頭を撫でた。
「零。」
「はい。」
「落ち着いたか?」
「うん。ありがとう。」
「うん。じゃあそろそろ。」
「何?」
「そこの4人!」
嘉隆と零をこっそり見ていた大和達は、ビクッとする。
「お、俺達も心配だったんだよ。なっ?」
大和は同意を求める。
「盗み聞きみたいになってごめんね。
でも、嘉隆だけじゃない!
私達だっているからね!」
少し涙目の唯が叫ぶ。
「ありがとう、みんな。」
零は、照れくさそうに、頬の涙目をぬぐった。
「青春だね〜。」
「あぁ、青春だ。」
「俺も高校行きたくなるわ〜。」
4人の更に後ろでは、達也と嘉隆の両親も見守っていた。




