それぞれの幸せ。嘉隆と零
暗闇を満点の星空が彩る。
波の音だけが響く、海風の気持ちいい夜だ。
「零。」
「なんですか〜?」
零は、ムスッとしている。
「零が悲しそうにしてたのって、ヤキモチみたいな事か?」
「う〜ん。ちょっと違う。」
「じゃあ何だ?」
「不安、焦り、敗北感・・・とか?」
「何故、疑問形。零らしいまとめ方だな。」
「可愛くないって事ですか〜。」
「機嫌直せよ。」
「・・・私、沙菜に敵わないなと思った。
嘉隆と長い間この島で暮らして、嘉隆の事が大好きで。沙菜はずっと嘉隆と一緒にいたんでしょ?
私なんて・・・まだ出会って半年。
それなのに、そんな私を放ったらかしにして、嘉隆は沙菜と仲良くよろしくやってたんでしょ〜?」
零は不機嫌そうにする。
「お前・・・よろしくって・・・。」
「何よ!嘉隆のバカ!」
零は珍しく声を荒立てる。
「・・・俺、沙菜にちゃんと言おうと思って家に送ったんだぞ。」
「何を?」
零は少し不安な表情で嘉隆を見つめる。
「俺が零を大好きだって事を。」
嘉隆は、照れた様に俯いた。
「何よ・・・それ。告白は?
沙菜、嘉隆に告白するって言ってた。」
「されてない。というか、させてやれなかった。」
「・・・嘉隆って、たまに酷いよね。
唯の時もそうだったけど。」
「まぁ、唯の場合は、話した事も無かったし、本当の好きじゃないんだろうなと、思ったから。
沙菜の気持ちは、東京に行く前からなんとなく気付いてた。
今日、零に対する態度で、確信を得たんだけどな。
しばらく泊まるんだし、零が嫌な気持ちにならない様に、沙菜とは付き合ったりするつもりはないし、ああ言う事をするのはやめてほしいって言った。
・・・・そしたら、告白する前にふるなバカ!って言われて、泣いて走って帰ってったわ。」
嘉隆は、俯いた。
「そう。」
俯く零の顔は、まだ曇ったまま。
沙菜への罪悪感の様な物に戸惑っていた。
「正直、幼なじみと言うより、毎日一緒に育って、兄弟みたいに思ってたから、キツイわ。」
「ごめん。」
「何で零があやまるんだよ。」
「・・・分からない。でも、なんとなく口から出た。」
「嫌な思いをさせて悪かった。」
「うん。ちゃんと、沙菜に言ってくれてありがとう。」
零は、嘉隆を見つめて微笑んだ。
「そ、その。」
「何?」
「宿題の件だけど。」
「・・・?・・・あぁ、付き合うにはどうしたらいいかって話?」
「そうだ。」
「何か名案でも生まれましたか〜?」
零は気持ちを切り替える様に、両手を前に出して、体を伸ばしながら、深く呼吸をした。
「零の両親に会いたい!」
「えっ?」
「だ、ダメか?」
「付き合ってもないのに会うの?」
「うん。と言うか、零もうちの親に会ってるだろ?」
「う〜ん。男の子の親と女の子の親は重みが違うと思ってた。」
「同じだろ。」
「同じか。」
「会って、零と付き合う許可をもらいたい!そしたら・・・。」
「そしたら?」
「上手く言えないけど、ちゃんとした事になると思った。」
「考えておくね。
私、親とあんまり上手くいってないというか・・・・ほとんど話した記憶がないんだよね。」
「えっ?」
嘉隆は不思議そうにする。
「うちはね、嘉隆の家族をみてると、嘉隆が考えもつかない様な家族です。」
「どんなふうに?」
「私の両親は、仕事ばっかり。
小さい頃は、お手伝いさんが朝来て、夜帰る。夜は毎日ひとりぼっちだった。
お父さんもお母さんも、たまに帰ってくるけど、私には興味無さそうにするし、話すらしないで仕事してた。
だから私は、こんなに卑屈な人間になりました。
寂しかった。ずっと。」
「・・・零。俺も、俺の家族も、零の事大切に思ってる。
だから、零はもう一人じゃない。」
「うん。ありがとう。」
零は嬉しそうにしながらも、俯いた。
「あ〜ぁ。答えは見つかったけど、難問です。果たして、私の為なんかに帰国してくれるかな?」
「頼んでみないと分からなくないか?」
「そんな風に思えるのは、私の家族を知らないからですよ〜だ。」
「す、すまん。」
「いいですよ〜。
・・・帰ったら、連絡してみるね。」
「うん。頼む。」
しばらく二人は、星空をボンヤリと眺めていた。
沈黙が流れる。
嘉隆が、零の手を握ると、零は、嘉隆の指に自分の指を絡める。
二人でいると、沈黙も心地がいい。
「嘉隆〜。」
「なんだ?」
「せっかくこんなにいい雰囲気の所に来てるのに、何も無しで帰るのは嫌だな〜。」
「何が御所望ですか?」
「何それ〜。
・・・そうだな、嘉隆が今日特別にしても、明日からは頑張れるギリギリを御所望です。・・・キャ!」
「う〜ん。やっぱりこれが限界。」
嘉隆は、勢い良く零を抱き寄せた。
「もぅ、急すぎ。びっくりした。」
「ごめん。」
「やっぱりここまでか〜。」
「そうだな。
零が頑張ってお父さんとお母さんを呼んでくれたら、俺が頑張って・・・そしたら。」
「そしたら?」
「二人にご褒美をあげよう。」
「・・・ご褒美、しっかりあげないとね。」
「お、おぅ。」
嘉隆は、零のしっかりが何なのかと思うと、ドキッとした。
「何、何?どんな事想像したの?」
「ば、バカ。ちょっと黙れ。」
「はぁ〜ぃ。」
二人は、しばらく抱きしめ会いながら、ずっとこうしていたいと思った。
「みんなが待ってるかもしれないし、そろそろ帰るか。」
「そうだね。唯も心配してるかもしれないし。」
二人は立ち上がると、ゆっくりと歩き出した。
ウッドデッキから道路に出ると、大和と真子が視界に入った。
「あらあらお二人さん、何があったのかしら?」
零は、真子と真子をお姫様抱っこする大和を見つけ、声をかけた。
「わぁ〜。早速見られた〜!」
真子は恥ずかしそうにする。
「海に入って靴がな。」
大和も照れくさそうだ。
「明日泳ぐんだから、我慢しろよ〜。」
嘉隆は呆れた顔で真子を見た。
「だって。興奮しちゃったんだもん。」
「夜の海は危ないからな。明日からは自重しろよ。」
「はぁ〜ぃ。」
真子は、この状況に慣れてきたのか、平然としている。
「おーぃ!」
道の向こうから、唯が手を振っている。
「帰ってくるタイミング同じすぎて笑える〜。」
楽しそうな唯の右手は、慎太郎に繋がれている。
零はそれを見て察した。
「唯、もしかして?」
「はい。私達、付き合ったよ。」
唯は!少し照れながら、嬉しそうに報告した。
「おめでとう。」
零は、素直に喜んだ。
「ありがとう。次は零の番だよ。」
唯は、零の耳元に顔を近づけると、小さく囁いた。
零も唯に近づいて囁く。
「光が見えたよ。頑張るね。」
「光?」
唯は、不思議そうに首をかしげたが、今は聞かないでおこうと、引き下がった。
6人は、ゆっくりと坂道を登り、
嘉隆の家に帰って行った。




