嫉妬。
嘉隆達は、移動の疲れもあり、夕方まではダラダラと過ごした。
「なぁ、明日は泳ぐか?」
嘉隆は、明日の予定を考えていた。
「いいね!」
唯が食いついてきた。
(慎太郎を私の水着姿で悩殺してやるんだら!)
唯はそんな事を考えながらワクワクが止まらない。
「じゃぁ、明日は海で決まりな!」
嘉隆はワクワクした表情をしている。
「嘉隆は、早く私の水着姿が見たいのかしら?」
零は嘉隆をニヤニヤしながら見つめている。
「・・・。」
「なぜ黙るのだ。」
零は寂しそうだ。
「話し方、戻ってるぞ。」
「す、すまない。」
「別にいいんだぞ?零は零なんだから。」
「私が嫌なの!」
嘉隆と零のやり取りを、呆れた顔で唯達は見ている。
「全く、どうせなら二人でその辺に立って、夫婦漫才でもしたら?」
「あはははっ!」
零は少し照れた様に俯いた。
楽しい雰囲気が居間を包みこんだ。
みんなが笑っている中、嘉隆は零に近づいて耳元で囁く。
「見たいけど、昭和の叔父様は、他の奴に見せたくない。Tシャツでも上から来てくれ。」
「・・・分かった。」
零は、少し残念そうな、嬉しそうな表情を浮かべた。
「おーぃ、晩御飯は庭でバーベキューだ!」
嘉隆の父は、漁から帰って来て眠っていたが、ようやく目覚めた様だ。
嘉隆が友達を連れてくると聞いて、気合を入れてバーベキューを予定していた。
「おじゃましてます。今日からお願いします。」
大和が立ち上がり、挨拶すると、真子達も立ち上がり、挨拶する。
零は、ちょこちょこと嘉隆の父に近づくと頭を下げた。
「西園寺零です。よろしくお願いします。」
嘉隆の父はニコッとすると、
「知っとるよ。こちらこそよろしくな。」
言葉は少ないが、優しそうな嘉隆の父に、零は安心した表情だ。
「堅苦しいのは苦手でな、気軽にしてくれ。
みんな、バーベキューの準備を手伝ってくれるか?」
「はぁーい!」
嘉隆達、男性陣は庭に出て火を起こしたり、テーブルと椅子を準備する。
零達は、キッチンで野菜や肉、魚の下ごしらえをした。
温まった網の上に食材を乗せると、辺りにいい匂いが立ち込める。
焼けるのをワクワクしながら待っていると、庭の向こうから人影が近づいて来た。
「おっちゃん、バーベキューの匂いがするから来た!」
遠くから叫びながら近づいてくる人影に、嘉隆は立ち上がった。
「達也!」
「・・・嘉隆か!」
達也は、嘉隆が帰って来るのを聞いていなかったので嬉しそうに駆け寄ってきた。
「久しぶりだな!」
「そうだな!どうだ?漁師の見習いは。」
「あ〜。聞くな、友よ。」
達也の顔は曇った梅雨の空の様に重苦しい。
「大変みたいだな。」
「そうなんだよ。まぁ、せっかく会えたんだ、楽しい話ししようぜ!
おっちゃん!俺も混ぜてくれよ!」
達也は、嘉隆の父を見て声をかける。
「おぉ、達也か!食ってけー!」
嘉隆の父は、気前よく言う。
「ありがとう、おっちゃん!・・・ん?」
達也は、ようやく零達の存在に気づいた。
達也は、二人一組の様に座る、
大和と真子
慎太郎と唯
を順番に見て、
一人余った零を凝視する。
「なぁ、嘉隆。あのおきれいな方は?
・・・まさか?まさか!彼女というやつか?!」
「近い存在だ。」
「はぁーー!!お前ふざけんなよーー!俺が、俺が!あんな思いやこんな思いをしていたこの半年間、嘉隆、お前は、あんな思いや、こんな思いをー!」
自暴自棄モードに入った達也は、嘉隆に襲いかかる。
嘉隆が、達也のデコに掌を当てると、達也は両腕をぐるぐる回す。
嘉隆は、面倒になり、軽く達也を押し倒した。
「ひでぇー奴だな!」
達也は、尻もちをついた尻を叩きながら、立ち上がる。
「毎日、あんなに頑張っても、嘉隆には敵わないなんて、自分で自分が嫌になるわ。」
「そう言うな、友よ。」
嘉隆は、達也の頭をポンポンと優しく叩く。
「あーぁ。まぁいいや。」
達也は、嘉隆を避けて、零達の前に出た。
「藤原達也だ!嘉隆の友達は友達って事で、よろしく!」
達也はニコニコと零達に声をかける。
「私、西園寺零、零でいいよ。」
「俺は、大和、こっちは真子。」
「私は、唯、こっちは慎太郎。」
「まぁ、おいおい覚えるわ〜。俺バカだからそんな一気に言われても覚えられない。」
達也は、頭から湯気が出そうな顔をしている。
「あはははっ!何回でも教えてやるよ!」
大和達は、達也に好印象を抱いた。
「ありがとう!流石は嘉隆の友達だ!
いい奴らだな!」
「達也もな!」
大和に言われて達也は、嬉しそうにする。
「そろそろ焼けたんじゃないか?
食べようぜ!」
嘉隆は、皿に盛り付けて零に差し出す。
「ありがとう。」
零は嬉しそうに受け取る。
火が熱いから、男は盛り付け係なー。
嘉隆は、皿を大和と慎太郎に渡す。
「俺にも皿くれよ!」
「あー、もう皿無いわ。」
「ひっでー!」
「あはははっ!」
嘉隆と達也のやり取りに、笑いが起きる。
「嘉隆ーー!!」
ドスッ。
嘉隆が振り向くと、後ろから抱きつかれていた。
「おっ!沙菜も来たのか!久しぶりだなー。」
抱きつかれて、動じない嘉隆を、零は悲しそうな顔で見ている。
「久しぶりー!嘉隆!」
「こいつは、島田沙菜。数少ない同級生だ。」
嘉隆は、抱きつかれながら、沙菜を紹介する。
「沙菜も食べていくか?」
嘉隆は、焼き上がった野菜や魚を皿に盛り付けて沙菜に渡す。
「ありがとう、嘉隆!」
沙菜は嬉しそうにする。
「嘉隆、皿あるじゃねーか!
沙菜、お前はここな。」
達也は、不機嫌そうに叫ぶと、沙菜を見て自分のとなりの空いている席をポンポンと叩く。
「何で私が達也の隣りなのよ!」
不満そうな沙菜を気にせず、嘉隆は零の隣りに座った。
「えっ?」
沙菜はそれを見て悲しそうな顔をした。
「・・・嘉隆、その人は?」
沙菜は力無く問いかける。
「ん?名前は、零だ。」
「じゃなくて・・・彼女?」
「彼女・・・では無いけど、将来を誓い合う中だ。」
零は、嬉しそうにする。
「どういう事?」
沙菜は腑に落ちない様子で、零を見ている。
「ほぼ彼女って事だ。よな?」
嘉隆が零に問いかけると、零は微笑みながら頷いた。
沙菜は、二人を見てムスッとすると、嘉隆の隣りに無理やり座る。
二人がけのベンチだったが、零と沙菜が細めだったので、沙菜はピッタリと零と嘉隆の間におさまった。
「沙菜、どうした?こんな狭いところに座らなくても、達也の隣り空いてるだろ?」
「ここがいいの。」
強引な沙菜に、零は珍しく萎縮していた。
(この子は嘉隆が好きなんだな。
嘉隆と何年も一緒にいて、仲良くて。
・・・私なんてまだ出会って半年足らず。この子と嘉隆の仲に遠く及ばないんだろうな。)
零は、俯いて楽しそうに話す沙菜と嘉隆を横目に写した。
突然の宿敵の出現に、零の心は沈んでしまった。
バーベキューはそれなりに楽しい雰囲気で盛り上がりを見せたが、嘉隆は沙菜に独占されていて、零は寂しい気持ちになっていた。
「俺ちょっとトイレ。」
嘉隆は、立ち上がると家の中へ入っていった。
二人で並んで座る、沙菜と零は、気不味い雰囲気になる。
「ねぇ。」
沙菜が口を開いた。
「何?」
零は、少し不機嫌そうに答える。
「零ちゃん?は、嘉隆と付き合ってないのよね?」
「う、うん。付き合ってはないよ。」
「じゃぁ私、今日この後、嘉隆に告白する。」
「えっ?」
零は不安そうに沙菜を見た。
「私、負けないから。」
そう言い放つと、トイレから出てきた嘉隆を見つけ、沙菜は立ち上がった。
「嘉隆ー!私、帰るから送ってー!」
「ち、ちょっと!」
零は沙菜に声をかけるがお構い無しに沙菜は嘉隆に駆け寄る。
「はいはい。俺ちょっと送ってくるわ!」
嘉隆は、何とも思ってない様子で、沙菜と庭から出て行った。
(嘉隆のバカ・・・・バカ。)
零は立ち上がると、トボトボと歩き出す。
「零、どこ行くの?」
唯が心配そうに声をかける。
「ちょっと散歩。」
振り向きもせずに零はトボトボと行ってしまった。
唯には沙菜との会話が聞こえていた。
唯はこの時、自分が嘉隆に告白した時の様に、心配で後をつけるのだろうと思っていた。
(沙菜ちゃんには悪いけど、この後、嘉隆と零の愛は更に深まる可能性が高いわね。ふっふっふ。キスしたりして?キャー!)
唯は、一人ワクワクしている様だ。
「どうかした?」
慎太郎は、様子のおかしい唯を不思議そうに見つめている。
「慎太郎、私達も後で行こう!」
「どこに?」
「さ・ん・ぽ」
唯は少し照れた表情で慎太郎の手の甲を指でなぞった。
慎太郎は、顔を赤くして俯く。
「慎太郎くん、何期待してんの〜?」
唯は意地悪く慎太郎の顔を覗き込む。
「べ、別に。」
「期待、少しだけ叶えてあげるね。」
唯の微笑む顔に、慎太郎は何も言えずにただドキドキしていた。




