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仕方なく「イケメンで高身長な異国の王子様」を俺は演じる。  作者: 蓮太郎


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19/29

母親。

「よし!俺はもう行ける!」

「私も何とか。慎太郎、私を支えて。」

フェリー乗り場のベンチで休憩に休憩を重ね、ようやく大和と唯は動けるまでに回復した。

「本当に大丈夫か〜?」

嘉隆は心配そうにする。


「大丈夫だ!」

「大丈夫!いざとなれば、慎太郎におんぶしてもらう!」


「えっ?俺、自信無い。」

慎太郎が申し訳なさそうに言うと、

「私が重いっていってるの?

それとも、私が他の誰かにおんぶされてもいいのかな?」

唯は、慎太郎に詰め寄る。


「もう元気そうだな。残念ながら、唯をおんぶしてくれるのは慎太郎だけだぞ。」

それを見て、嘉隆は呆れる様に言う。


「九鬼くんは口を挟まないで。」

唯は、頬を膨らませ、慎太郎を見る。

「が、がんばるよ。唯は俺がおんぶしたい。」

「宜しい。まぁ、頑張って歩くけどね!」

慎太郎の返答に満足した唯は立ち上がって腕に絡みついた。


「さぁ!王子様のお城へ行きますか。」

大和も元気を取り戻し、立ち上がった。


6人は歩き始める。


「ほぉ~。こりゃまたシャレた奴らじゃな〜。」

ポツポツと立ち並ぶ家の一件の縁側に座る老人が声をかけてきた。

「おー!やまじぃー!」

嘉隆が声をかけると、老人は目を細めてこちらをみている。


「・・・おぉ!嘉隆か!」

「久しぶりだな!」

嘉隆は嬉しそうに、老人に歩み寄る。

「山じぃー、こいつらは俺の高校の友達だ!しばらく泊まる予定だからよろしくな〜。」


「そうかぃ・・・よろ!」

老人は、零達に右手を上げた。


「よ、よろしくお願いします。」

零達はあっけにとられながらも、恐る恐る、挨拶する。

「みんな、こっちは山田のじいちゃん、通称やまじぃーだ。

小さい頃から色々世話になった。今はこんなだけど、伝説の漁師と言われている。」


「そうなんだ。」

零は、やまじぃーに会釈した。

「じゃぁ、やまじぃー、また!」

嘉隆は元気よく手を振ると歩き出した。


「こんな感じで、島の人はみんな家族みたいな感じなんだよ。」

嘉隆は嬉しそうに足を進めた。


(嘉隆、嬉しそうだな。

嘉隆が嬉しそうだと私も嬉しい。)

零は、にこやかに嘉隆を見つめた。


こんなやり取りを出くわした島民と繰り返し、ようやく嘉隆の家にたどり着いた。

「着いたぞ、ここが家だ。」


「デカいな。」

「デカいね。お城じゃなかったけど、豪邸だ。」

大和と真子は、驚いている。


「まぁ、ご先祖様繋がりってやつで、家だけはデカい。古いけどな。」

嘉隆は、あまり気にしない様子で、玄関に向かう。

「ま、待って。」

零は、嘉隆のシャツの裾を掴んだ。

「どうした?」

「こ、心の準備が。」

零はモジモジしている。

嘉隆は足を止めて、零の心の準備ができるのを待つ。


「大丈夫か?」

嘉隆が心配そうにすると、覚悟を決めた様に、零は深呼吸した。

「もう、大丈夫。」

「よし、じゃあ行こう。」

「うん!」

零が微笑むと、嘉隆は、玄関の引き戸を開けた。


「ただいまー!」

嘉隆が叫ぶと、奥からドタドタと足音が聞こえる。

「嘉隆ー!」

嘉隆の母は、嬉しそうに嘉隆に抱きついた。

「ちょ、ちょっと母さん、どうした?」

嘉隆は、零達を気にしながら恥ずかしそうだ。

「あんた、ずっと一緒にいた息子を一人東京にやった母親の心配する心が分からないかね?」


「分かったから、友達もいるんだからさ。」

嘉隆の母親は、はっとした様に嘉隆から離れた。

「零ちゃーん!やっと会えたわ!」

嘉隆の母は、零に気付くと嬉しそうに、両手で零の右手を握る。


「よ、よろしくお願いします。」

零は、緊張しながらも挨拶した。


「母さん、乗り物酔いの重症者が2名いるからさ、とりあえず上がっていい?」


「あら、それはいけない!

さぁ、上がって、上がって!」

嘉隆の母は、手招きする様に、居間へと向かった。


「みんな、とりあえず適当に座ってくれ。」

嘉隆は、ソファーに座ると、安心した表情でくつろいでいる。


「嘉隆!あんたはこっち来なさい。

お茶運んで。」

嘉隆の母は、嘉隆に手招きする。


「えー、長旅で疲れてんだよ。休ませてくれよ〜。」

嘉隆は、立ち上がる気配がない。


「わ、私、お手伝いします。」

零は立ち上がり、キッチンへ向かう。

「零、気を使うと疲れるぞ〜。」

嘉隆は、零によびかけたが、零はキッチンへ行ってしまった。

「全く。零も疲れてるだろうに。」

嘉隆は、イヤイヤ立ち上がり、キッチンへ向かう。

キッチンでは、零がいつもの様に手際良く動いている。


「零ちゃんは座ってていいのよ。」

嘉隆の母は零を気遣う。

「大丈夫です。荷物を嘉隆が持ってくれたので、私がお手伝いします。」


「まぁ、しっかり尻にしいてるわね。

あの子を尻にしける子なら安心だわ〜。

あはははっ!」


「そ、そんな事はないんですよ。」


「お付き合いの事かしら?」


「・・・それもあります。

主導権は嘉隆にありますよ。

私も、男は尻に敷くタイプだと思ってましたけど。」


「あはははっ!零ちゃんは正直者ね!

ますます気に入った!」

コップにお茶をつぐ零の背中を嘉隆の母は優しく撫でた。

「ハンドルは嘉隆に付けておけばいいのよ!零ちゃんがそのハンドルを操るのよ!」

母は嬉しそうだ。

「なるほど。」

零は、少し考え込む様に、天井を見上げた。


「人聞きの悪い話してるな。」

キッチンの入り口で聞いていた嘉隆が、話に割って入る。


「嘉隆、あなたは零ちゃんに感謝しなさいよー。」

母は、皿にお菓子を盛り付けながら言う。


「・・・分かってる。と、言うか、感謝してる。ものすごく。」


「バカ。」

零は嬉しそうに俯いた。


「このお茶運べばいい?」

「そうね、お願い。」

コップに注がれたお茶の乗ったお盆を嘉隆は持ち上げると、居間に歩いて行った。


「零ちゃん。」

母は少し真面目な顔をして零を見る。

「はい。」


「お付き合いしないのは、あの子なりのけじめだと思うの。本土に比べてこの島の男は頑固だからね。でも、それは零ちゃんを大切にしたいとか、零ちゃんのご両親に対する誠意だと思うの。

だから、愛想つかさないであげてね。」


「は、はい。嘉隆の気持ち、分かってます。

ところで、お母さんはこの島出身じゃないんですか?」


「どうして?」


「本土に比べてこの島の男は、って言ったので。」


「なるほど。そう、零ちゃんと同じ東京出身。」


「そうなんですね!どうやってお父さんと?」


「良くある話だけど、色々嫌になった時に、旅行に行こう!と思ったの。選んだのがこの島だった。

旅館に泊まってたんだけど、外の店でご飯は食べようと思って、行ったお店にお父さんがいたの。

そこからは良くある話の流れよ。」


「へぇ〜。素敵ですね。」


「そうね。楽しかったわ。」


「楽しそう!」

零は、少し想像して笑った。

「・・・そ、そのいつか嘉隆と付き合えたら・・・末永く、よろしくお願いします。」


「あはははっ!改まって。

末永くよろしくね。

私とお父さんは、もう零ちゃんの事は家族同然に思ってるわよ。」


「えっ?嬉しい。ありがとうございます。」

零は少し照れて俯いた。


「お〜ぃ、お菓子は準備できたか?」

嘉隆がなかなか戻ってこない零の様子をみにきた。


「ごめん、ごめん。零ちゃんと話すのが楽しくてね〜。」

母は、お菓子を盛り付けた皿を嘉隆に手渡した。


「零をあんまり困らせるなよ。」

嘉隆は、目を細めて母を見た。


「あはははっ!もう私達は仲良しよね?」

母は、零に微笑む。

「は、はい!」


「母さん!そう言うの!」

嘉隆は少し不機嫌そうに居間に戻って行った。


「零ちゃん、また話しましょうね〜。

疲れてるだろうから、居間でゆっくりしてて。

あっ、忘れてたわ!」

母はニヤリとする。

「嘉隆にナイショで、連絡先教えて。」


「はい、もちろん。」


零は、嘉隆の母と連絡先を交換したあと、少し俯いた。


「嫌だった?迷惑なら連絡はしないから安心して?」

俯いた零を見て、母は少し寂しそうにする。

「ち、違います!

・・・楽しいな、嘉隆はいいなって思って。

私、お母さんとこんなに楽しく話した記憶が無くて。」


「そうなの?」


「はい。ずっと寂しかった。

小さい頃はお手伝いさんが居てくれたんですけど、お手伝いさんは朝来て夕方には帰ってしまうので、夜はいつも一人だった・・・だから、楽しくお話しできるお母さんができたと思うと嬉しいんです!」


「私も、可愛い娘ができて嬉しいわ。

寂しくなったらいつでも連絡してね!」


「はい!」


二人は微笑み合った。

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