王子様の国へ。
と、まぁ昨日は幸せすぎて、心が満たされたし、零の事は好きだ。
だからってこの状況は許せん!
嘉隆は、大きめの肩からかけるタイプのカバンをタスキがけにして、キャリーバッグをゴロゴロいわせながら引きずっている。
嘉隆の荷物といえば、キャリーバッグの上にちょこっと乗った小さめのバッグだけ。
「零・・・昨日より荷物増えてるよな?」
「あはは。」
「笑って誤魔化すなよ。」
嘉隆は、荷物無しで凛とした佇まいで歩く零を見て不満気だ。
(だが、ワンピース姿。可愛い。可愛いすぎる。荷物を持たせないでずっと見ていたい。)
「ごめんね。嘉隆が帰った後、嘉隆が荷物持ってくれるっていうから、諦めた荷物が諦めきれなくなって、カバンがふたつ増えました。」
「別に重くはないけどさ、流石にこんなにカバン持ってるの恥ずかしいわ!」
「一つ持ちます。」
零は、カバンに囲まれた嘉隆のマヌケな姿を見ながら、笑うのを堪えるのに必死だ。
「いいよー。でも笑うなよ〜。」
嘉隆は、こんな状況でも楽しいなと、思っている自分が不思議だった。
ブーブー言いながらも楽しく歩いて、二人は駅前に着いた。
「あはははっ!マヌケな姿ー!」
嘉隆は、駅前に着くと、先に着いていた4人に笑い者にされた。
(前言撤回!不愉快だー!)
嘉隆は、心の中で叫びながら駅の中へ進んだ。
一行は、電車に新幹線、バスを乗り継ぎ、ようやくフェリー乗り場に着いた。
「フェリー初めて!楽しみー!」
珍しく真子がはしゃいでいる。
「俺も楽しみ。」
慎太郎もワクワクしてモジモジしている。
「旅とは不思議だな。
いつも大人しい目の二人がはしゃいでいる。」
嘉隆は一人、呟きながら大和と唯を見た。
「で、お前ら二人は大丈夫か?」
大和と唯は乗り物酔いが激しい様だ。
「フェリーはもっとキツイと思うが、少し休んで次のフェリーにするか?」
嘉隆は二人を気遣う様に言う。
「大丈夫だ!」
「大丈夫よ!」
二人は気を遣っている様で、フェリーに歩き出した。
「ホントに大丈夫?」
零は二人を追いかける。
「やばい!」
「私も!」
大和と唯は、平常心を失った様で、堤防に走る。
遠くからも見えた。
口から出るキラキラが。
「唯、大丈夫か?」
「大和、大丈夫?ちょっと休も?」
慎太郎は唯の背中を、
真子は大和の背中を、
優しくさすっている。
スッキリした大和と唯は振り向いた。
『嫌いにならないでください!』
同時に、切実に訴えた。
『ならないよ。』
真子と慎太郎は、心配そうにしている。
「落ち着いたか?ちょっと休もう。」
嘉隆は、自販機で飲み物を買ってきた。
「ほら、二人はスポドリ。」
「あはははっ!まるでパシリだぞ!」
カバンをタスキがけにし、ゴロゴロカバンを横に置き、ペットボトルを6本抱えた嘉隆を見て、5人とも笑っている。
「零まで・・・やっぱりやらない。」
嘉隆は、スネた。
「嘉隆、ごめん。」
零は、申し訳なさそうにしながらも、口元が緩い。
「はぁ。」
ため息混じりに嘉隆は諦めた様な表情でジュースを差し出した。
「嘉隆、すごいな。」
「何が?」
嘉隆は、突然褒めてきた大和を怪訝そうに睨む。
「いや、酔ってる二人のスポドリはともかく、みんなの好みが分かるのが。」
「今までそれぞれ飲んでたのを見てきたから、なんとなくだ。」
嘉隆は褒められて満更でも無さそうだ。
「統計?記憶力もいいんだな。
人の事も良く見てる。
すごいな!」
大和は嘉隆を過剰に褒めたが、口元が緩い。
「お前なー、やっぱりこのフェリー乗るか?」
嘉隆は不機嫌そうだ。
「すまん!悪かった。
ちょっと休ませてくれ。」
大和は、空元気だったようで、唯の座るベンチの隣りに座った。
大和と唯は、ぐったりした様子だ。
「すまないな。乗り物酔いする二人には長旅きつかったな。」
「大丈夫。来たかったから。」
唯は、しんどそうにしながらも、来れて良かったと思っている。
「右に同じく。」
大和も、来るのは楽しみにしていた。
しばらく海風に吹かれて、二人は元気を取り戻した。
「よし、行けるか?」
嘉隆は、大和と唯に問いかける。
「行けるかも!」
「俺も!」
「・・・かもなんだな。
あと少し、がんばれ。」
嘉隆は、心配そうにしている。
6人はフェリーに乗り込む。
「甲板にいよう。
中よりはマシだろうし。」
ブーーー。
フェリーが進み出すと、風が気持ちいい。
「気持ちいー!」
零ば風に吹かれてご機嫌そうだ。
風に吹かれる、膝の辺りまでのワンピース姿の零を見て、嘉隆は近づくと、後ろから太ももの辺りに触れた。
「えっ?えっちー!
昨日だけじゃなかったのかな?」
零は、少し照れた様に、喜んでいる。
「ち、違う。・・・その、スカートが。」
「安心して下さい。履いてます。」
零は、嘉隆の言いたいことに気づいた零は、少し嬉しそうだ。
「そ、そういう問題じゃない。
スカートが風で舞い上がるのが嫌だ。」
零は、ニヤリとして、嘉隆を見た。
「何?ヤキモチみたいなやつですか?」
嬉しそうな零が微笑むと、嘉隆は不満気だ。
「ヤキモチみたいなやつだ。他の奴に見られたくない。」
嘉隆は正直に答えた。
「分かった。零は、嘉隆の手を引くと、船内に向かう。」
「零、ちょっと待て!」
嘉隆が切実に叫んでいるので、零が振り向くと、船内はカバンをタスキがけにしている嘉隆には狭かった様だ。
入り口でつっかえている。
「あはははっ!」
零は、嘉隆を見て思わず笑ったが、気不味そうにして繋いだ手を離すと、口を両手で抑えた。
「ギリギリ許してやるよ。」
不満気にする嘉隆に、零は手を出した。
「だから、入れないんだよ。」
嘉隆は不機嫌そうに言う。
「違うよ。カバン、こっちの下さい。」
「え?あぁ。」
嘉隆は、零にカバンを手渡した。
「ちょっと待ってて。」
零は、嘉隆からカバンを受け取ると、トイレに入って行った。
「何だ、トイレ行きたかったのか。」
嘉隆は、船内に入るドアの前でしばらく待っている。
「お待たせ〜!どうですか?」
零は、少し照れながら嘉隆を見つめる。
ワンピースから、零は白いズボンとヒラヒラした黄色の上着に着替えた様だ。
「か、可愛い。」
(零、わざわざ着替えてくれたのか。)
嘉隆は嬉しそうに、零を見つめた。
「ありがとう。」
褒められて、零は嬉しそうだ。
「こっちこそ。ありがとう。」
「うん。」
「ワンピースも可愛いかったけど。
その、ごめん。」
「いいですよ〜だ。あのワンピースは部屋着にしま~す。」
「か、風が吹かない所なら。」
「嘉隆、めんどくさいよ?」
「ひどいな。まぁ、そうだろうな。」
嘉隆は落ち込んだ様だ。
「そんなに落ち込むなよ。嘉隆が私の下着に興味津々なのは嬉しかったよ!」
零は、嘉隆を励まそうとする。
「ば、バカ!俺は・・・興味があるのは否定できない。」
嘉隆は少し恥ずかしそうにしている。
「でしょーね。
あの二人が心配だから、戻ろ。」
「そ、そうだな。」
嘉隆と零は、大和達の所へ戻った。
「二人は大丈夫?」
「何とか耐えている状態だ。」
零が声をかけると、慎太郎が心配そうに答えた。
「あと少しだ。頑張ってくれ。」
嘉隆は少し申し訳なさそうに二人にに声をかけた。
大和と唯は、言葉を発することなく、片手を少しあげた。
「あれ?零、着替えたの?」
真子が零の服が変わったのに気づいた。
「うん。どう?」
「可愛いー!」
「ありがとう!」
零は褒められて、また嬉しそうだ。
「でも何で?」
真子は不思議そうにしている。
「こちらの昭和の叔父様が、ヤキモチみたいなのを妬いていらっしゃったので。」
零は、嘉隆を意地悪な顔で見つめる。
「はいはい、俺はどうせ昭和の叔父様だよ〜。」
嘉隆は、少し照れた表情で誤魔化した。
「九鬼くん以外と独占欲強め?零は苦労しそうだな〜。」
真子が、笑いながらいうと、
「ほっとけ。」
嘉隆はスネた様に俯いた。
「いっぱい独占していいよ。」
零は、恥ずかしそうに嘉隆の耳元で囁いた。
「あーーー!!地面だ!」
「地上だーー!!」
ようやく島にたどり着くと、大和と唯は感動の涙を流しながら喜んでいる。
「やばい。」
「私も。」
大和と唯はまた堤防へ走り出し、
海に向かってキラキラを産み落とす。
「お疲れ様。」
嘉隆は、そんな二人を労う様に声をかけた。
「ここが嘉隆の育った島か〜。」
零は、大和と唯を心配しながらも、抑えきれない喜びの中、島を見渡した。




