出発前夜
「何だが緊張してきた・・・胸の辺りが重い。何かが居座ってる様な。」
零は、荷物を詰めながら項垂れている。
「大きいのが居座ってるからな。」
嘉隆は、胸元を見ている。
「ば、バカ!どこ見てるのよ!
・・・見たい?」
「・・・見たいけど、我慢している。」
「バカ。」
零は恥ずかしそうに胸元も腕で隠した。
「それはそうと、荷物多すぎないか?」
キャリーバッグをパンパンにしている零を見ながら、嘉隆は呆れ気味だ。
「女の子は色々入り用なの〜。」
零は、口をとがらせながら、パンパンになったキャリーバッグを閉じた。
「ふぅ。終わった。
嘉隆は、もう準備できてるの?」
「うん。多少カバンに荷物は積めたんだが・・・零達には悪いけど、俺はサイフとスマホ持って帰れば何とかなるんだよな。」
「まぁ羨ましい。久しぶりに荷物持ち復活させようかな。」
零は、目を細めた。
「いいぞ。というか最初からそのつもりだし。」
「いいよ。自分で持つ。」
「たまにはいいだろ?
別にそれくらい苦じゃないし。」
「ありがとう・・・じゃあ明日はお願いしようかな。」
「任せろ!」
嘉隆は頼られて嬉しそうだ。
「うん。」
零は、嬉しそうに、ベッドにもたれて座る嘉隆の横に座る。
「零。」
「何?」
「近い。というか、くっついてる。」
「うん。」
「うんじゃない。」
「いいでしょ・・・明日からしばらく二人きりじゃないんだし。」
零は、嘉隆の腕に絡みついた。
「・・・まずい。まずいよ?」
「がんばれ。」
零は、居心地が良さそうに、嘉隆の肩に頭を置いた。
「・・・今日だけだからな。
・・・ごめんな、零。
俺の気持ちも分かってほしい。」
「うん。分かってる。だから毎日我慢してます。」
「ありがとうございます。」
「私も、ありがとうございます。
大切に思ってくれて。」
「うん。大切に思ってるよ。」
二人はゆっくり流れる時間を堪能するように、無言でしばらくくっついていた。
零は不安そうな顔で口を開く。
「私、嘉隆のご両親にどんなふうに思われたかな?
ハーフだし、見た目派手だし。
こないだテレビ電話した後、初めて普通が良かったって思ったんだ。」
「普通がいいのか?零はハーフで見た目派手だけど、中身も普通とは言えないけど、普通じゃないから・・・俺は好きになったんだと思うぞ。
初めて人を好きだと思った。
零は、自信を持てばいい。」
「・・・それ、褒めてる?
ふふっ。でも嬉しいよ。
私も嘉隆が大好きだよ。」
「・・・ダメだ。」
嘉隆は、大好きと言われてこらえきれなくなった。気づけば零を抱きしめてしまっていた。
「嘉隆?」
「今日だけ。」
「うん。今日だけ。」
零は、嬉しそうに微笑んだ。
嘉隆は、腕の中の零に静かに囁く。
「零。」
「何?」
零は、照れた様な、嬉しい様な、初めて見せる雰囲気で、嘉隆に問いかけた。
「母さんからさ、テレビ電話の日から毎日電話かかってくるんだ。
零と居る時は無視して、帰ってからかけなおしてるんだけどな。」
「ふふっ。お母さん可哀想だよ。」
「でも、毎日、毎日、零と話したいってうるさいんだよな。
心配しなくても、母さんも父さんも零に会えるのを楽しみにしてる。」
「そっか。私もそれを聞いて楽しみになってきた。」
「良かった。」
嘉隆は、零を抱きしめた腕をほどいた。
二人は向かい合って、見つめ合う。
「もう、終わりですか?」
零は、寂しそうな顔をする。
「・・・じゃぁ、もう少しだけ。」
嘉隆は、零をもう一度抱きしめた。
今度は、零も嘉隆のに腕を回して、優しく力を込めた。
「これ、まずかったかも。
幸せ過ぎてクセになりそうだ。」
嘉隆も、後悔と、幸せを感じながら零を抱きしめた腕に優しく力を込めた。
「そうだね。私は毎日でもいいよ。」
「うん。毎日したいな。」
「がんばれ、嘉隆。」
「がんばるよ・・・これは今日だけな。」
「うん、今日だけ。」
二人は、幸せで胸がいっぱいになった。
「充電できたか?」
嘉隆は、零に問いかける。
「うん。充電完了。」
二人は名残惜しそうに腕をほどき、向かい合って見つめ合った。
「明日朝早いしそろそろ寝ないとな。」
嘉隆は、残念そうな表情で言った。
「そうだね。」
「じゃぁ、帰るな。」
「うん。」
「・・・。」
「どうしたの?」
「こんな時、恋人はキスしたりするんだろうなと思って。」
「うん。そうだね。
今度、恋人になるには。
について、討論しましょ?」
零は、これ以上はまずいと思って、冗談めかしく言った。
「ありがとう。ごめん。」
「うん。」
零は少し寂しそうに俯いた後、顔をすぐに上げた。
「討論、ホントにしようよ!
宿題ね。」
「あ、あぁ、考えとく。」
「うん。」
零は、満面の笑みで嘉隆を見た。
「じゃぁ、帰るな。
また明日。」
「うん。おやすみ。」
「おやすみ。」
いつもの様に、零は玄関で嘉隆に手を振った。




