ご挨拶。
付かず離れずの嘉隆と零。
気づけば、夏休み間近になっていた。
いつもの様に、晩御飯を食べ終わった二人は、ベッドにもたれてゆっくり過ごしている。
「零は夏休み、親元にいくのか?」
「・・・行かないかな。
両親は海外の色々な所を転々としてるし、日本と休み合わないから、行っても迷惑かなって。」
「迷惑なんて思わないと思うけどな。」
「かもね。でも、ここにいるよ。
・・・嘉隆は帰省するんだよね?」
「母さんがうるさいから、帰らないといけないな。」
「そっか。」
零は少し寂しそうにしている。
(寂しいな。でも、嘉隆には気持ち良く帰省してもらわないと。)
「零、もし良かったらなんだけどさ、一緒に来るか?」
「・・・えっ?」
(行きたい!でも、でも!彼女じゃないのに?ご両親と?緊張するー!
どうしよう、どうしよう。)
零は頭の中が荒れている。
「実はさ・・・ご飯ちゃんと食べてるかって言う話題から、ご飯作ってもらってる事、口を滑らせてさ・・・根掘り葉掘り聞かれてさ・・・零を連れて来いといわれている。」
嘉隆は、俯きながら言う。
「そ、そうなんだ。
ふふっ。」
零は堪えながらも、少し笑った。
「なんで笑うんだよ?」
嘉隆は不満そうに零を見た。
「だって、私がどんなに報復しようと頑張ってもやり返されて、勝てなかった嘉隆が、お母さんには、根掘り葉掘り聞かれるし、連れて来いって言われて誘ってるし、お母さんには敵わないんだなー、って思って、笑えた。」
「そうだな・・・母さんには敵わない。
零も一緒に来てくれるならそれなりの覚悟が必要だぞ。」
「・・・覚悟。」
零は恐れながら呟く。
「覚悟だ。多分疲れると思う。」
「頑張ってみる。」
「来てくれるのか?」
「うん・・・・でも、私、彼女じゃないでしょ?」
「うん。」
「変じゃない?」
「付き合わないと行けないって事か?」
嘉隆は、困惑した様子で問いかける。
「それが一番嬉しいけど・・・。」
「ゔー。」
嘉隆は悩んでいる。
「ちぇー。」
零は、口をとがらせて、天井を見上げた。
「あわよくばと思ったのにな〜。
本当は、真子達も誘わない?って言う提案をしようとしたの。
あっ!人数増えるから、お母さん大変かな?
あっ!私、お手伝いはするよ?」
零は少し興奮ぎみだ。
そんな零を見て愛おしいと思った嘉隆は、つい口から心の声が漏れる。
「零・・・抱きしめたい。」
「いいよ!」
零は嬉しそうに両手を広げる。
「ごめん。抱きしめない。」
「ちぇー。」
零はまた口をとがらせた。
「みんな誘っていいか、母さんに聞いて見る。」
「うん!今から楽しみだ!」
零は切り替えて、嬉しそうに笑った。
「えっ?嘉隆?」
「何?」
「今聞くの?」
嘉隆は既にスマホを耳に当てている。
「早くしないと、大和達の予定がうまるだろ?」
(嘉隆。誰と話してるんだい?)
「・・・しまった。」
零と話していた嘉隆の声が、母には聞こえていた。
「な、なんでもない。それよりさー。」
(ちょっと待って、すぐにかけ直すわ!プープープー。)
「切られた。」
嘉隆は不満気に零を見た。
「あはははっ!」
「面白くないだろ。」
「面白いよ!」
零は笑いが止まらない。
ブーブーブー。
「かかってきた。って!・・・・。」
嘉隆は、スマホを見ながら固まっている。
「どうしたの?出ないの?」
零は不思議そうにしている。
「いきなり切った魂胆が判明した。」
嘉隆は、スマホの画面を零に見せた。
「・・・テレビ電話だね。」
「・・・・テレビ電話だ。」
「・・・・切れないね。」
「・・・・出るまで鳴らし続けるつもりだろうな。」
「すごいね、お母さん。」
「零、顔出しの許可は貰えるか?」
「う、うん。」
「出るぞ。」
「はい。」
零は崩していた足が、自然と正座に変わる。
「なんだよ。」
嘉隆は、気だるそうにテレビ電話に出た。
「よーしーたーかー!
嘉隆ー!」
画面には、画面を取り合う様に、母親と、父親がアップで写っている。
「もぅ、むしろ、あんたはいいわ、早く、早く零ちゃんを写しなさい!」
嘉隆の父と母は、零の顔をみないと収集が付きそうにない様子だ。
「零が困るだろ?勘弁してくれよ。」
嘉隆が困惑していると、
「おー!」
「まぁ、綺麗な。」
嘉隆の父と母は電話の向こうで目をこじ開ける様に画面からこちらをみている。
「どうしたんだよ?」
嘉隆が不思議そうに聴くと、肩に何かが乗る感触。
嘉隆が横を見ると、嘉隆の肩に零の顔が乗っていた。
「零、なんとか阻止しようと思ってたのに。」
あまりの顔同士の近さに、嘉隆は照れながら画面に向き直りながら言う。
「いいよ。」
零は嘉隆に小さく呟く。
「西園寺零です。よろしくお願いします。」
「よろしくね〜。」
「よ、よろしく。」
嘉隆の父と母は、嬉しそうにしている。
「と、所で零ちゃんは、その、何か大病を患っているのか?」
嘉隆の父は、聞きにくそうに言う。
「ちょっと、お父さん!」
母も、いきなり聞かないでと言わんばかりに申し訳無さそうにする。
「ふふっ。あはははっ。」
「あはははっ!」
嘉隆と零は、顔を見合わせて笑った。
「・・・何で笑ってるんだ?」
父は不思議そう言う。
「俺も零と初めて会った日に同じ事を聞いて、一度嫌われたんだよ。」
嘉隆は少し前の事を思い出す様に言う。
「・・・という事は、大病と言う訳じゃないのか?」
父は不安そうに聞いてくる。
「うん。零は、ハーフなんだよ。
髪は、白髪じゃなくて、銀髪。
生まれつきみたいだ。」
「・・・ハーフ?そ、そう言ったら、瞳も青いな!」
父は、母が画面からフェイドアウトする程に、画面に近づいて零を見ている。
「ちょっと、お父さん!私が見えないでしょー!」
母は、父を押しのける様に画面に現れた。
「零ちゃん、いつもありがとうね!」
母は、零をみつめながら言う。
「いえいえ、料理作るの好きなので。
それに嘉隆は美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐もあります。」
「零ちゃんが近くに居てくれて安心だわ。二人は付き合ってるのかしら?」
「ちょっと!母さん!」
嘉隆は焦って会話を遮る。
「付き合ってないですよ。」
零は少し寂しそうに言いながらも、何か思いついた様な表情をした。
(これは!チャンス?お母さんに付き合う様に誘導して頂く作戦を決行します!)
零は、悪い顔をして、嘉隆をチラッと見た。
「なんだ。残念だわー。嘉隆の事は好みじゃないかしら?」
母は期待に満ちた表情で聞いてくる。
「好きです。嘉隆の事。」
零が、少し顔を赤くしながら言うと、
「本日に?!」
父と母は、顔を見合わせて喜びの表情をしている。
「ちょっとストップ!」
嘉隆は必死に会話を止めようとする。
「嘉隆!こんなべっぴんさんに好きと言われて、お前は何をしとる!」
父は、嘉隆を叱るように言う。
「はぁ。」
嘉隆は、頭を抱えて俯いた。
「あのさ、べっぴんさんだからだよ。
俺達、毎日一緒なんだぞ?
零のご両親に、顔向けできないような事できないだろ?」
『・・・・なるほどな。』
父と母は声を揃えて残念そうに言う。
納得した様子の二人は、ようやく落ち着いた様だ。
(ちぇー。ご両親をも説得できてしまう理由なんだな。残念。私はいつまでも待ちますよーだ。)
零は無言で少しスネた。
「母さん、本題に入るぞ。」
嘉隆がここぞとばかりに話題を変える。
「何よ?」
テンションの下った母は、不機嫌そうに言う。
「夏休みだけどさ、零と、あと友達も連れていきたいんだけどいいかな?」
「もちろんよ!任せなさい!零ちゃん来てくれるのね?!」
母は嬉しそうな顔に戻った。
「はい!おじゃまします。」
零は、嬉しそうに頭を下げた。
「母さん、零合わせて5人誘いたいんだけど大丈夫?」
「5人?!」
母は少し涙ぐむ様に俯いた。
「やっぱり多いか?」
「バカ!大丈夫よ!母さんは、嘉隆に5人も友達ができた事に感動してるの!
どんと任せなさい!」
「そ、そうか。ありがとう、母さん。」
「楽しみにしてるわね!」
母と父は、見つめ合い嬉しそうに笑っている。
「じゃあ、また。」
「気をつけて帰ってくるのよ。」
「うん。ありがとう。」
嘉隆は、少し疲れた表情で電話を切った。
「あ〜、疲れた。零、ごめんな。」
「大丈夫だよ。挨拶できて嬉しい!」
零は、満面の笑みを嘉隆に向けた。
「ありがとう。
よし!じゃあ大和達を誘わないとな。」
「うん!」
早速、6人で作ったグループに、メッセージを送った。
「みんな、夏休みに俺の実家来ないか?零は来てくれるそうだ。」
ブーブー。
真子と俺は行く!
大和からすぐに返事がきた。
どうやら二人は一緒にいる様だ。
ブーブー。
王子様の国、私と慎太郎も行く!
「おっ!みんな来るって!」
「良かったね!楽しくなりそう!」
零は嬉しそうにしている。
「ねぇ、ちょっと事情聴取必要案件じゃない?」
零はニヤニヤしている。
「何が?」
嘉隆は不思議そうだ。
「真子達はともかくとしてよ?
何で唯が慎太郎の予定を答えるの?
こんな時間に二人が一緒ってどういう事か、問い詰めないとね!」
「・・・確かに!」
嘉隆は、ハッとして叫んだ。
「楽しみは明日に取っておいて、明日取り調べしよー?」
零は悪い顔ををしている。
「そうだな。」
嘉隆と零は、何だか楽しい、ワクワクした感情で、見つめ合って笑った。




