おかしな試験結果。
「わー!この学校、こんなに人いたんだ〜。」
人混みを後ろからみながら、唯が呟く。
お疲れ会から何日か過ぎた。
掲示板に、試験の上位30名が貼り出される日。
いつもの6人は、順位発表を一緒に見ようと言う話になり、掲示板の前に来ていた。
前と言っても、人混みの後ろからは、まだ字が認識できない。
「そこのベンチで人が履けるのを待つか?」
嘉隆は、ベンチを指さした。
「そうだな。」
大和も賛成したようで、6人はベンチに座る。
「あー緊張する!私の名前あるかな?」
唯は、確かな手応えに、順位発表を楽しみにしていた様だ。
「お、俺も。少し期待してる。」
慎太郎も、あわよくば、第五席を夢見ている。
飛んで十五席。
未だに気にしている様だ。
残りの4人は、平然としている。
大和と真子は、全科目90点台後半。
嘉隆と零は、全科目満点。
その順位だけは、圧倒的に他と差をつけているだろう。
4人は、特にワクワクする事もなく人混みがはけるのを待っている。
そんな中、嘉隆は一人、外には出さない様にしているが、心の中はざわついていた。
(零、首席をどんな顔で喜ぶかな?)
ただその事だけを考えていた。
「おっ、空いてきたな。そろそろ見に行こうか。」
大和と真子が立ち上がると、嘉隆達も続いた。
6人は、それぞれの思いを胸に掲示板の前に立っている。
首席は、嘉隆と零。
三席、大和
四席、真子
八席、慎太郎
二十八席、唯
「・・・やった。やったー!零!見て!私、ニ十八位!零のお陰だよ!」
唯は嬉しそうに叫ぶ。
「唯が頑張ったからだよ。」
零は、唯に優しく微笑むが、何だが元気がない。
「よしっ。」
慎太郎は、静かにガッツポーズをしている。
「あー、また大和に負けたー。」
真子は悔しそうにしている。
「俺と真子はほとんど変わらないよ。やっぱり嘉隆と西園寺はすごいな。もしかしたらと少しは期待してたんだけどな。」
大和は分かってはいたが、と言う様な表情で少し落ち込んでいる。
「次は頑張ろ!」
真子は、大和を励ます様に腕にしがみついた。
「ありがとう、真子、次は俺達が首席を取れる様に一緒に頑張ろう!」
二人は見つめ会いながら、笑う。
そんな中、嘉隆と零は俯いていた。
(零・・・もしかして、俺の世話で疲れ果ててあの最後の問題を落としたのか?!)
嘉隆は、零が首席のはずなのに、掲示板に、貼り出された結果が、自分と零が道立の首席である事に戸惑いを隠せない。
(教師がキャパオーバーの問題を作ったから、間違えた回答が正解になった?
いやっ、違う。それなら、俺が首席で零がニ席になるはず。
これはどういう事だ。
やっぱり、零を疲れさせて、無理させてるのかな・・・・俺はどうすれば。)
嘉隆は俯いたまま考え込んでいる。
その隣りで、零も俯いている。
時を遡る。
試験最終日、最終科目。
シャーペンを持つ手を止め、零は考え事をしている。
(私は、首席に興味も執着もない。
ただ、前までは憎たらしいと思っていた嘉隆に勝ちたいと、思っていただけだ。
だから、報復したり、されたり・・・
今は・・・好きな人に一番でいて欲しい。そう思う。)
コツコツコツ。
コツコツコツ。
「零、うるさいぞ。」
「・・・ごめん。」
(怒られてしまった。
嘉隆は、私がこの問題を間違えれば、喜んでくれるだろうか。
よし、嘉隆に首席は譲ろう。
・・・嘉隆、どんな顔をして喜ぶだろうか?)
零。
零!れーい!
ハッと零は我にかえる。
唯が心配そうに零の顔を覗き込んでいた。
「す、すまない。考え事をしていた。」
「大丈夫?首席なのに嬉しくなさそうだね。」
「う、うん。少し考え事をしてた。」
(嘉隆は、最後の問題を間違えたのだろうか?嫌らしい問題と言えばそうだったが、嘉隆が間違えるとは思えない。
・・・も、もしかすると、私が付き合って欲しそうにいつもするから、嘉隆は疲れているのか?精神が疲れているのか?!・・・私はどうすれば。)
零は、気づけばまた、俯いていた。
「おーい!お二人さん。俯いでどうした?」
『何でもない。』
二人は同時に、答えた。
「そう、首席なのに俯いて、全くもって憎たらしいぜ!」
大和は、二人が何故落ち込んでいるか分からないが、励ます様に言った。
「教室戻ろうか。」
嘉隆は、零に話しかけた。
「う、うん。」
二人は、お互いに、落ち込みながらも、
相手に元気がないことが気がかりだった。
(今日の夜に聞いて見よう。)
二人は同じ事を思いながら教室へ歩みを進めた。




