ズレた気遣い。
コツコツコツ。
コツコツコツ。
「零、うるさいぞ。」
「・・・ごめん。」
試験最終日。
最後の科目。
嘉隆は、不思議に思いながらも、零が考えるときにする机をコツコツするクセを小声で注意する。
試験開始から約15分。
嘉隆は、最後の問題に手をつけていた。
(零の奴、何を考え込んでるんだろう・・・確かにこの問題は嫌らしい。
恐らく、俺達二人が満点を取れない様にする教師の策略だろう。
必死に考えて作った問題なのだろうが、俺には通用しない。
勿論、零も同じだろう。
だが、零も恐らくだがこの問題を今解いているはず。
この問題に何か考え込む必要があるのだろうか。何か他の事で悩んでるのだろうか?)
嘉隆は、零の事が気になりシャーペンを置いた。
チラッと零を見ると、零もシャーペンを置き、何か考えている様だ。
答案用紙は、最後の問題の所だけ空白の様に見えた。
(零・・・。)
嘉隆が心配そうに見ているのに気づいたのか、零はハッとした様にシャーペンを持ち、回答を進めた。
嘉隆は安心して、問題に目をうつした。
(・・・零にはいつも世話になってるからな・・今回は首席を譲ってやろう。)
嘉隆は、シャーペンを握る手に力を入れると、教師の思惑通りであろう回答を記入した。
(零・・・喜ぶといいな。)
嘉隆は、首席の座には特に興味が無かった。
毎日、世話を焼いてくれる零にせめてもの恩返しのつもりだった。
そして、試験が終わる。
生徒達は嬉しそうに教室を後にする。
「嘉隆、帰りにスーパーに寄りたい。」
零は荷物をカバンに詰めている嘉隆に歩み寄る。
「うん。じゃぁ行こうか。」
嘉隆は、零のカバンに手を伸ばす。
「そ、その。カバンはもういいよ。」
「なんで?俺は零の料理が食べられなくなるのは嫌だぞ?」
嘉隆は少し焦っている。
「大丈夫、ご飯は作ってあげるよ。
・・・でもカバンは自分で持つ。
カバンを持たせる嫌な女はもう嫌なんだ。」
零は少し顔を赤くしてモジモジしている。
「そ、そうか。」
可愛いすぎる零の要望に、嘉隆は素直に引き下がった。
「じゃぁ、帰ろうか。」
嘉隆が、声をかけると、零は嬉しそうに頷いた。
「見てるこっちが恥ずかしいわ!」
後ろから声をかけられ振り向くと、大和達がニヤニヤしながら立っていた。
「な、なんだよ。盗み聞きか?」
嘉隆は照れ隠しする様に、大和に突っかかる。
「いゃ〜、声かけようとしたんだけどさ、余りに二人の世界だったから見守ってた。」
「なんだよそれ。」
嘉隆は、恥ずかしそうに視線をそらした。
「まぁ、それはどうでもいいとしてだ、これから嘉隆の家で試験お疲れ会しようぜ?」
嘉隆は、零をチラッと見ると、
零は、微笑みながら頷いた。
「いいぞ、じゃぁみんなで帰るか!」
嘉隆は嬉しそうにしている。
「あっ、帰りにスーパーよるからな。」
「了解〜!」
大和達も、嘉隆と零の後ろを並んで歩き出した。
「かんぱーい!」
嘉隆の家で、いつもの6人はジュースで乾杯する。
「いやー!試験の後のジュースはたまらないな〜。」
「くすっ。おじさんみたい。」
酒を飲む様にジュースを飲む大和を見て、真子が笑っている。
「そ、そんな事ないだろ?」
大和はショックを受けた様に俯いた。
「よしよし。おじさんじゃないよ。」
真子は、大和の頭を優しく撫でた。
「お二人さん、そう言うのは二人きりの時にしてもらえるか?」
嘉隆は、零をチラッと見て気不味そうに言う。
「なんだ?お前も西園寺にしてもらいたいんだろ?」
「違うわ!」
「して欲しくないんだ。」
嘉隆の強めの否定に、零が悲しそうにしている。
「い、いや、その、されたいよりは・・・したい?」
嘉隆は、零の悲しそうな様子に焦ってつい口からでてしまった。
「きゃー!じゃあ、してもらいましょうか!ねー、零?」
唯が興奮気味に零に寄りかかる。
「う、うん。」
零は明らかに欲しがっている。
嘉隆は、顔を赤くしながら、零の頭をぎこちなく撫でた。
零は、嬉しそうに嘉隆をみて微笑む。
(か、可愛いい。)
嘉隆は、人前と言う事を忘れてしまう程に零に見惚れている。
「ところでさ。」
それを見て満足した唯は、話題を変える。
「お、おい!やりっ放しで放置かよ?!」
我にかえった嘉隆は照れながら唯に突っ込みを入れる。
「えっ?二人の願望が叶ったんだから良かったじゃない。」
唯は、興味が薄れた様に、大和に向き直る。
「はぁ。」
嘉隆は、照れた表情でため息混じりに頭を抱える。
その隣りで、零は嬉しそうにしている。
「で、なんだ?」
大和は、唯に問いかける。
「さっきの話の流れ的に、大和君と真子は付き合ってるの?」
「うん。付き合ってる。」
大和と真子は顔を見合わせて、少し照れた様に微笑み合う。
「えー!やっぱりそうなの?!」
「そういえば、西園寺と佐藤には言って無かったな。」
嘉隆は、恐怖の取り調べを思い出し、ブルッと震える。
「いいなー!いいなー!ねー、零?」
唯は、わざとらしく零に問いかけながら、嘉隆を見た。
嘉隆は、唯に目を合わす事なく俯く。
「ちっ。」
唯は不機嫌そうに舌打ちした。
「わ、私は・・・待ってる。」
零は、恥ずかしそうに呟いた。
(そ、そんな事を言われたら、俺はどう答えればいい?零・・・すまない。)
「・・・なんかごめん。いらない事言っちゃったね。」
唯は、申し訳なさそうに謝った。
「み、みんな試験はどうだった?」
気不味い空気を感じて、慎太郎が話題を変えた。
「聞いて、聞いて!私、ヤバいくらいできたんだけど!もしかしたら、張り出される上位30位の中に入ったかも!」
唯は嬉しそうに報告する。
「お、俺も!今回は恐らく10位以内には入る気がする!」
慎太郎も嬉しそうに報告する。
「ありがとう!」
慎太郎は嘉隆に、唯は零に心からの御礼を伝えた。
「俺と真子は満点とまではいかなかったからな・・・首席から四席までは、入学の時と同じだろうな。
猛勉強した強敵が現れない限りは。」
「・・・。」
嘉隆は、わざと1問落としたとは言えずに黙っている。
零をチラッと見ると、零も俯いていた。
嘉隆は、自信家の零が黙っている事に不思議だと思ったが可愛くなるためにあえて黙っているのだろうと思った。
試験お疲れ会は盛り上がった。
騒がしい後の静寂。
嘉隆と零は、ベッドにもたれて並んで座っている。
「静かだね。」
「あぁ。騒がしい奴らだけど、楽しかった。」
「うん。楽しかった・・・なんだか贅沢だね。」
零は、嘉隆をまっすぐに見つめる。
嘉隆は、透き通った青い瞳に吸い込まれそうになり、ドキッとした。
「何が?」
「大和と真子は今頃別れを惜しんでるんだろうなと思うと、私は嘉隆とずっと一緒にいる事もできるから。」
「・・・ずっとはダメだぞ。」
「は〜ぃ。」
零は、分かっていると言わんばかりに、少し寂しそうに俯いた。
「明日も学校だし、そろそろおひらきにしようか。」
「うん。」
零は、寂しそうにしている。
「零。」
「何?」
「そ、その。
・・・・また、頭撫でてもいいか?」
嘉隆は、寂しそうにしている零のためというのもあったが、純粋にもう一度撫でたかった。
「うん。」
嬉しそうに微笑むと、零は嘉隆の肩に頭をおいた。
「えっ?零?」
「ちょっとだけ。」
零は目を閉じて、頭を撫でられるのを待っている。
嘉隆が零の後ろに腕を回すと、零の頭は、嘉隆の胸の辺りに移動してくる。
零の髪の香りが嘉隆を包みこむ様に優しく香る。
嘉隆は、零の頭を優しく撫でた。
しばらく嘉隆は零の頭を撫で続けていた。
「零。」
「・・・何?」
「そろそろまずい。色々まずい。」
「ふふっ。」
零は、静かに微笑むと、体を起こし立ち上がった。
「ありがとう。」
嘉隆に向かって微笑むと、荷物を手に持った。
「じゃぁ、また明日。」
零は少し顔を赤くしながら、嬉しそうにしている。
嘉隆も立ち上がり、玄関まで零を見送った。
「はぁ。俺はどうすればいいんだろう。
このままでいいのだろうか。」
嘉隆は、自分の心に問いかける様に小さく呟いた。




