孤立。友情。
気持ちの通じ合った二人だったが、これまでと変わらない毎日を過ごしていた。
唯の告白の次の日から、変わった事といえば、次第に、朝のおはよう地獄が、二人を遠目に見ながらのコソコソ話に変わったのと、生徒達がだんだん近づいて来なくなった事。
1週間もたてば、二人に挨拶したり、話しかけてきたりする生徒はいなくなっていた。
「零、俺のせいでこんな事になった。すまない。」
少し前とは違う、朝の静かな廊下を歩きながら、嘉隆は零に申し訳なさそうにした。
「別にいいよ。この方が二人きりでいれるから。」
零は、嘉隆に近づき、耳元で囁いた。
「そ、そうか。」
「そ、それに。私が王子様とか変な事言い出したのが始まりなんだし。」
「ははっ。そうだったな。」
零は、嘉隆の前に出て振り返った。
「し、心配しなくても・・・その・・・責任は取ってあげる。」
「そうだな。責任、取って俺のそばにずっといてもらおうか。」
零は、嘉隆をからかったつもりだったが、照れもせずにまっすぐ見つめてくる嘉隆にドキッとさせられ、顔を赤くした。
「なんだよ、からかったつもりだったのか?」
「そうよ。」
零は頬を膨らませて、スネた表情だ。
「か、可愛い。」
嘉隆は、心の声がつい口から出てしまった。
「ば、ばか!」
そんな二人を遠くから見つめる視線。
唯は、噂を広めれば二人の仲が悪くなると思っていたが、二人は前よりも仲良くなっていた。
唯は、色々な意味で後悔しながら二人を見つめる事しかできなかった。
後悔する唯の事を恨んだりする事無く、
二人は正直な所、ホッとしていた。
こうして、二人の王子様とお姫様を演じる日々は終わりを告げた。
その日の放課後。
ほとんど人がいなくなった教室で、嘉隆と零は帰る準備をしていた。
「あの。」
二人が振り向くと、そこには唯が立っていた。
「ごめんなさい!」
振り向く二人に唯は深々と頭を下げた。
嘉隆は少し呆れた表情で、口を開く。
「反省したか?」
「うん。」
「なら、もういいよな?」
嘉隆は、同意を求める様に零を見た。
「うん。唯、私達、実はちょっと感謝してるの。」
「えっ?」
唯は不思議そうに二人を交互に見た。
「王子様とお姫様になって後悔してたし、いつかこうなるだろうなって思ってた。ちょっと楽になったから。」
「そ・・・ぅ。」
唯は、二人に恨まれて罵声を浴びせられると思っていたのもあり、戸惑っていた。
「気にするな。」
嘉隆は、唯の肩に優しく手を置いた。
「優しくしないで。」
唯は不満気に嘉隆の手を払いのけると、少し顔を赤くし、零の後ろに隠れた。
「西園寺さんは、こいつの変な距離感にやられたのね。」
唯は小さく呟いた。
「多分・・・あと、零でいいよ。」
「うん。ありがとう。」
二人は、嘉隆に聞こえない小さな声で通じ合った。
「やっぱりいい奴らじゃん!」
3人は話ていた後ろから話しかけられ、振り向くと、教室に残っていた男子生徒2人と女子生徒1人が立っていた。
「俺達の事分かるか?」
男は、目を細めながら嘉隆と零を見た。
「・・・。」
嘉隆は零以外に興味が無かったのもあり、このクラスメイト3人の名前も知らなかった。
黙っている嘉隆を助ける様に、零が口を開いた。
「知ってるに決まってるよ。
クラスメイトだし。」
「良かった〜。」
女子生徒は嬉しそうにする。
「第三席、大森 大和。」
零は話しかけてきた男を見て呟き、続ける。
「第四席、石田 真子。」
「飛んで第十五席、平井 慎太郎。」
「でしょ?」
零は、嘉隆に伝える様に言うと、嘉隆を見て微笑んだ。
(ありがとう!さすがは零だ!もう覚えたぞ!)
嘉隆は、零と目を合わせて笑った。
「西園寺さんはさすがだな。」
大和は、皮肉を言いながら嘉隆をニヤニヤしながら見た。
(ば、バレてる・・・大三席、侮れない。)
嘉隆は、ごまかす様に口を開く。
「で、村八分の俺達に何かよう?」
「別に、俺達3人はお前ら2人を仲間外れにしてるつもりは無いよ。
だいたい、ちょっと考えたら分かるだろ?
異国の王子様とお姫様がこんな学校に通う訳ないだろ?」
「そうだな。」
「俺達は、他の奴らがお前ら2人を王子様とか言って勝手に騒いで、あげく嘘つき呼ばわりして呆れてんの。
入学してからお前ら2人がいがみ合ってたの見てたら分かったしな。どうせお互いを面白おかしく貶め合ってたんだろ?」
「ま、まぁ、そんな所だ。」
(第三席・・・こいつは中々やる奴だな。)
「でも、でもー!今は違うんだよねー?2人は付き合ったの?」
真子はワクワクした表情で零に詰め寄る。
「う、うん。付き合っては無いけどね。」
「な〜んだ・・・どういう事?」
真子は腑に落ちないという表情で、考えている。
「今はナイショ。」
真子の耳元で、零は呟いた。
「ちぇー。」
真子はつまらなさそうにする。
零と真子のやり取りを見ていた大和は、そろそろ話ていいかな?と、真子を見た。
真子は不満気に頷いた。
「前からさ、お前ら2人には興味があったんだけどさ、休み時間のたびに囲まれてるし近づけなくてさ。さっきのやり取り見ててやっぱりいい奴らだなって思ったんだよ。
・・・って、事で、今日から仲良くしようぜっ!て誘いだ。どうだ?」
嘉隆が零を見ると、嬉しそうにしている。
「あぁ、よろしく。」
嘉隆は、零を代弁する様に答えた。
「で、慎太郎は何でずっと黙ってんの?」
嘉隆は慎太郎に問いかけた。
「飛んで・・・第十五席。」
「あはははっ!傷ついてたのか?
慎太郎、十五席でもすごいと思うぞ?」
嘉隆は、励ます様に慎太郎の肩を叩いた。
「首席のお前に言われてもな。」
慎太郎は俯いた。
「慎太郎はさ、記憶力は俺達よりずば抜けていいんだけど、応用がきかないんだよ。」
大和は、フォローする様に言う。
「応用か。」
嘉隆は、考え込む様に俯き、顔を上げた。
「じゃあ、もうすぐ試験だし、このメンバーで勉強会しようぜ?
慎太郎、俺が応用の何たるかを叩き込んでやるよ!」
嘉隆はやる気に満ち溢れた表情で、慎太郎の肩に腕を回した。
「あ、あぁ。よろしく頼む。」
慎太郎は少しだけ期待した表情で、頷いた。
「あ、あの。」
唯が声を上げる。
「私も・・・いい?」
唯は、全員を見渡す様に言った。
「あっ、私、もう九鬼くんの事はキッパリ諦めたから。
私、ギリギリでこの学校受かったから、正直勉強が辛くて。」
唯は、零を見て補足する様に言った。
「いいよ。一緒に頑張ろ!
私がみっちり鍛えてあげるから。」
零は、やる気に満ちた表情で答えた。
「やったー!」
唯は嬉しそうに叫んだ。
「首席と三席と四席・・・飛んで十五席がいれば心強いよ!」
「・・・飛んで十五席。」
慎太郎がまた、俯いた。
「あはははっ。」
楽しい雰囲気が教室を包みこんだ。
こうして、村八分になっていた嘉隆と零に友達ができたのだった。




