第二章 白鷺 ♯04
「敵影は?!」
「複数です、数は推定16機以上」
海堂は眠気眼で管制室上部のモニターを睨みつける。
「信じられん、二日ほど前に来たばかりだぞ・・・カゲロウは?!」
「スクランブルは既にかけていますが通常に比べ発進が遅れています」
「明け方に奇襲をかけて来るのは今までなかった・・・軍で言えばついに本腰入れて落としに来たという事か?」
上部モニターには編成飛行をするUAVが最大望遠で映し出されていた。
距離まであと十数キロと表示されている。
「クソ、全武装型とは・・・カゲロウは何機出せそうだ?」
海堂は前のコンソール席に座るオペレーターに声をかける。
「6機です、神谷機・綾瀬機・稲木機がスタンバイレディ、後続いて柊機は指示の武装を換装次第出せます。
ホープ機が二機、これはもう給油のみで飛ばします」
「・・・・・・・三宅機は?アイツの機体はマシだろう」
海堂がふと疑問を抱き質問する。
「それがまだパイロットが来ておりません、招集はもう何回もかけているのですが」
「三宅の部屋と付近を非番の隊員に探させろ、対空機銃も全部出せ!外気温は?!」
「現在45℃、上空約3300フィート」
海堂は少ししかめ面をしながら顎に手を当て、少し思案したのちパイロット達に無線コールする。
「スタンバイ機に聞こえるか?明け方の奇襲は戦争では”ガチ”だ。全員会敵後は、モード解放を許可する」
”陽炎モードで行くのね?ならホープはかなり危険な目に合うわよ?”
綾瀬がガラになく少し心配そうに海堂に問いかける。
「やむを得ない、ところでお前ら三宅は見なかったのか?」
”解りません、非常招集の際も姿が見えませんでした。いま、相部屋の人間に探させていますけどどこに行ったのやら・・・”
神谷がコクピット内で不覚ヘルメットを被りながらボヤク。
「解った、三宅はとりあえず後からすぐに上げる。敵はかなり高度を上げてこちらに向かっている、空爆の可能性もある。
早期決着を頭に入れてろ。終わった頃に基地が無くならん様にな」
海堂の台詞にコクピット内に入る面々は舌打ちやらため息をつく。
「全機準備完了です。カタパルトエレベーター移動開始」
美しい声のオペレーターがサイレンを鳴らす。
「出撃だ!行ってこい!」
「全く、こっちは無理やり目覚まさせられてイライラしてるってのに・・・」
綾瀬がヘルメットのコードが鬱陶しいのか無理やり肩の後ろへもっていく。
「三宅が気になるな・・・おい、お前ら三宅は見てないんだな?」
神谷が他のパイロットに尋ねるが返答はなかった。
「仕方ない、いいか?ホープは俺達の後方には絶対”ついて来るな”。今回は俺と綾瀬と稲木三人で行こう。
柊機、聞こえるか?」
神谷が訪ねるが応答がない。
「柊!返事をしろ!」
「・・・・・・は、はい!柊機!」
「早朝だからってボケっとするなよ、いいか?お前の機体には”特製”マイクロミサイルが搭載されている。
俺達三人が最大出力であいつらに突っ込むからUAVの動きが鈍くなったと同時に打ち込め。"多分おおよそ"当たるはずだ」
神谷は機体がエレベータに固定されるのを確認すると目視で隣の柊機を確認した。
(気のせいか?とても寝起きの感じがしないようだが・・・)
”全機カタパルトエレベーター固定完了、カウント開始、5、4、3・・・”
「いい?最初から”手慣れ”は最大出力。高度は出来るだけ寄っているUAVに合わせて。あと、柊」
「・・・・なんですか”副隊長”」
あえて棘のある様に柊は返事をする。
「期待してるわ」
「・・・嫌味ですかそれ」
”2、1・・・今!”
美しいアナウンスと共に全機がカタパルトで上昇を開始した。
空は既に朝焼けを過ぎつつあり、青空が垣間見えていた。
最初の4機に続き、ホープの2機も急上昇を開始する。
青空に描かれる、6本の雲尾。
カゲロウ機は戦場に到着した。
”距離800M、敵UAV速度上昇を確認”
「時間が無い、飛ばすよ!状況開始」
綾瀬が声を上げ、神谷機、綾瀬機、稲木機そして後尾柊機を付けてダイヤ形編隊を組む。
これらはカゲロウリンクによるものである。
4機は一気に速度を上げてUAVへ向かって直進する。
後ろに付く柊はしかめ面をしていた。
(何よ多分おおよそ当たるとか・・・しかも動画で見たけどこんなおもちゃみたいなミサイルが敵を撃破できたりするのかしら)
柊は半信半疑にミサイルの発射ロックのオンオフを繰り返す。
”柊機、遊ぶな。こちらでは全機の状態を監視しているんだ、無駄な行動は慎め”
「・・・・・・了解了解」
柊はそういうと軽く舌打ちした。
”UAV先頭集団、会敵まであと300m”
「これよりカゲロウモードを発動する、柊機は速度を落として距離を取れ!綾瀬、稲木、行くぞ!」
神谷の合図と共に3機はそれぞれお互いの距離を取り、両翼についているヨーと呼ばれる制御板が展開し、
歪な形をした尾翼が扇の様に開かれる。
”陽炎モード発動・・・1秒,2秒,3秒・・・”
「嘘・・・何これ・・・・」
柊は思わずため息をついた。
カゲロウ機の後方よりオーロラのような現象が現れる。
空気が揺らいでいるのだ。
青空に広がるオーロラ、それはまるでキャンパスに広がる鮮やかなグラデーションマップの様でもあった。
そのオーロラに飛び込んだUAVはたちまち速度を下げ、機体の挙動が明らかに不自然になる。
「柊機全弾発射!急いで!発射後急旋回!」
綾瀬の声が無線で響く。
「くっ!柊機、スウォーム・パターン展開!」
”柊機、コード:M-Scatter、実行”
柊機の両翼に取り付けられたマイクロミサイルポッドから無数のミサイルが発射される。
動きの鈍くなったUAVに無数の超小型ミサイルが襲い掛かり次々と連鎖爆発していくが原状復帰したUAV数機は巧みにかわしてゆく。
”UAV8機・スプラッシュワン”
「クソッ!8機かよ。全機散開、個別対応だ」
「隊長、3機が高度を上げて直進してる。基地に向かう気よ」
綾瀬は急速旋回させて基地に向かう3機を追う。
「綾瀬頼む。残り5機は俺達で何とかするぞ、管制塔、海堂さん、三宅はまだ出ないんですか?!」
神谷は焦りを隠しきれず、捲し立てるように管制塔に尋ねる。
”もう少し待て、今全力で探している!―――おい、三宅はまだ見つからんのか?!放送で懲罰もんだと伝えろ!”
管制塔の海堂も怒号を上げて辺りに捜索の指示を出している。
「しょうがないわ、綾瀬機、UAVアルファ以下3機に張り付きます」
”了解。綾瀬機、レールガン弾倉の手配が間に合わず予備の一発のみ搭載している、十分に留意せよ”
「ばっかじゃないの・・・いいわ、やってやろうじゃない」
綾瀬機は操縦桿を強く握り直し素早く上昇した。
「柊機、バルカンで対応しろ!ホープは俺と一緒についてこい、敵を翻弄する!」
神谷はカゲロウリンクを使いホープ機と連携させてUAVの周りを迂回する。
柊機はそれを追うようにUAVの尾へ張り付いた。
「勝手な事言ってくれちゃって・・・。バルカン砲って言ったって数秒撃つと切れるんでしょコレ?
それでどうやって5機もやっつけんのよ・・・」
柊は焦りながらもターゲットマーカーを必死にUAVに合わせる。
ピ、ピ、ピ、ピ、ピッーーー!
「今ぁ!!!!」
おもむろにトリガーボタンを握り込む。
5秒(88%)・・・4秒(64%)・・・3秒(44%)・・・・2秒(21%)・・・1秒(8%)・・・BalkanAmmo0%
ボッ、ボッ、ボッ・・・ドンッ!!
「当たったぁ!」
”柊機、バルカン砲弾数残りゼロ”
「馬鹿柊!むやみに全弾撃つ奴があるか、まだ四機もいるんだぞ!」
神谷の叱責が柊機のコクピット内に響く。
「だ、だってこうでもしないと当たんない・・・」
「待てっ!ホープ機、旋回しろ、操縦桿を倒せ!早く!」
神谷がモニターに映るUAVを見てとっさに声を上げるが時すでに遅し、ウチの一機がUAVの放った小型ミサイルの餌食となる。
”ギャオオオオオオオオオ”と悲鳴のような音を上げ、ボロボロのホープ機は爆炎を上げ地面へと堕ちて行った。
”ホープ機カゲロウ2、スプラッシュアウト”
「くそ、クソ、しまった・・・」「・・・え、嘘、私のせい?」
ほんの一瞬の出来事に呆然とする柊。
その時ロックオンアラートが鳴り響く。
”柊機、ミサイルアラート。回避せよ!”
「柊ぃ!」「嘘っ、間に合って!」
柊は操縦桿を急ぎ切るがUAVのミサイルは正確にその尾を追尾する。
”三宅機、カタパルトエレベータースタンバイ”
「三宅か?!お前遅いぞ何やってたんだ!」
「・・・スマン遅くなった、言い訳はしない」
無線から聞こえた三宅の声はいつものトーンの高さとは違い、弱々しいような、控えめの声だった。
”三宅機、カタパルトカウント、3・・・2・・・1・・・今”
バァアアアアン!
三宅機がカタパルトエレベーターから勢いよく上昇する。
瞬く間に上空へとたどり着くと三宅機は出力を全開にして柊機の方へ機首を向ける。
そのすぐ近くでは綾瀬機も苦戦を強いられていたも関わらず脇目も触れず飛んでゆくのを綾瀬は信じられない様子で見る。
「アイツ・・・後で覚えてなさいよ!・・・このっ・・・いい加減しつこい!」
綾瀬機は尾についていたUAVを交わすとすれ違いざまバルカン砲で2機を瞬く間に撃墜した。
「み、三宅っ。助けて!」
「待ってろ!・・・このっ!」
”三宅機、コードレッド”
三宅機には隊長の神谷機と同じく2基の小型ミサイルが搭載されている。
ダ―ン!”発射!”
三宅機の放ったミサイルは柊機を追うミサイルへ直撃し、事なきを得た。
「あ、ありがと三宅っ!」
「ありがとう、”三宅”か・・・あなた達が仲良くなった件は帰ってからじっくり聞かせてもらうわ」
無線を聞いていた綾瀬が棘のある言い方をする。
「三宅、残りはお前がかたずけろ!解ってんだろうなっ!」
神谷はそう言いながら旋回するUAVにありったけの弾薬を打ち込み三宅にアピールする。
その動きはまさに寸分たがわぬ隊長機さながらの動きであった。
「隊長っ、わ、解ってるよっ・・・見てろよ俺の腕をっ!こんぐらい瞬殺してやらぁ!」
そういうと三宅は残り一機となったUAVの尾を追いかける。
(クッソぉーいつもなら寸で追いつけんのにっ)
三宅機は必死に追うがUAVの巧みな軌道についていかない。とそこへ。
「ほらっ来なさいよ!ビビってんの!?」
柊機が下降よりUAVの軌道上に割って入る。UAVは柊機をかわそうと速度を落として急旋回をした。
そこに尾を追いかけていた三宅機が迫る。
「ナイス柊!」三宅機はバルカン砲を起動してありったけの弾薬を撃ち込む。
ダラララララッ!ボンッ!!!!
穴だらけになったUAVは火柱を上げ、キリモミ墜落した。
全機撃墜、脅威は去った。
敵機のいなくなった大空でカゲロウ機が集結し、墜落した一機のホープ機の上空まで接近して黙とうをささげる。
「ごめんなさい・・・また今日も救えなかった・・・」
”三宅機、UAVスプラッシュアウト。レーダー上敵機無し、状況終了”
管制室から美しい声の作戦終了コールが響く。
”よし、作戦は終了だ。一同、厳しいコンディションの中よくやった・・・三宅、帰投後は作戦室に顔を出せ”
海堂のドスの利いた声が無線に響く中、三宅は只コクピットの中でうなだれるのであった。




