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第一章 陽炎 ♯04

綾瀬はカタパルトエレベーターの射出によって襲い掛かる重力に必死に耐えた。

顔が苦渋に歪む。

もう自身は何度も経験しているはずなのだが、慣れることなどない。

それがまだ少女の身体ともなればなおさらである。

両左右に後方に続くカゲロウに乗る、隊長神谷、三宅ほか少年少女達も皆一様に恐怖と苦渋に満ちた

表情を浮かべた。

”高度300m到達まで残り僅か―――”

「マニュアル切り替え、エンジン出力最大!」

綾瀬の操るカゲロウのハイブリッドエンジンが凄まじい音を上げて機体がより加速が増す。

本来ならば作戦宙域までは衝突などの危険性もあるため皆オートモードに任せるが綾瀬は違う。

彼女はいつも怯えているのである、空に出た途端に撃たれでもしたらと。

カゲロウ・綾瀬機を始めとし、次々と地下から飛び出したカゲロウたちがまるで湧き上がってくる噴水の様に勢いよく飛び出してくる。

空に上がってはエンジンから火柱を上げ、各機はそれぞれ散開する。

数は総勢14機―――。

これから始まるのは紛れもなく戦争であり、殺し合いであるのだが、高温とはいえ澄み渡った大空を舞う

カゲロウの姿は、まさに名前の通り寸分たがわぬものであった。

”各パイロットへ、全員無事に上空に出たことを確認した”

格納庫でも聞いた美しい声色の男性の声がコクピット内に伝わってくる。

”これより海堂司令官より作戦要綱を伝える、各人そのまま上空で待機の事”

僅かな沈黙ののち、海堂司令官の声が聞こえた。

”海堂だ、今回も作戦というものでもなんでもない、只の迎撃戦だ。全員死なないように足掻き続けろ”

”・・・・これが、作戦とでもーーーー説明を――――”

僅かだが無線から小紫の声が聞こえてきた。

格納庫から管制塔まで取り急ぎ上がってきたのだろう。

”―――失礼したな。綾瀬、今回は5名がホープだ。お前があやしてやれ”

”ほー綾瀬だけに?”

”コラ突っかかるな、三宅!綾瀬のやつ絶対キレてるぞ”

”・・・・・・・・・・”

”うわーなんか反応してくれないと鳥肌立ってくるよ・・・あ、そうかこれは副隊長からの少しでも熱を冷まそうと言う”

”黙れ”

綾瀬は暫く黙っていたが三宅があまりにも口うるさいので一蹴した。

”お前ら、解ってると思うがあんまり浮かれるなよ。戦場はすべてが一瞬で終わる、それは人生にも同じことが言えるからな。

緊張感を持て、異常だ”

海堂は半ば呆れた様子で無理やり会話を閉める。

”続いて瀬戸内観測所より収集した敵情報を伝達する。敵・戦闘型UAV6機、偵察機3機、いずれもスマート無人型第4世代である。UAVは3機が武装、残り3機は非武装の為陽動、もしくは神風(特攻)であると推測される。現在敵機はこちらに向かって

急速接近中、10キロ圏内。作戦宙域をHMDに表示する、侵入と同時に各個に敵を撃破せよ”

一通りの説明を聞いた神谷が無線で各機に激励を出す。

”隊長の神谷だ。聞いての通りだ、いつもの事だが俺達のカゲロウの方が性能は段違いに上だ。飛び回ってりゃ絶対に死なない。

不安ならAI・・・カゲロウリンクに全部委ねろ。敵は手慣れの俺達がやる。今日初めて上がった奴がいるな・・・おい坊主、泣くな、無線に響く・・・いや・・・泣いて気分が晴れるなら好きなだけ泣いてろ。あーいいか、お前らは”ホープ”、銃の一つもついていない紙ヒコーキ。

飛び回ってるだけでいい、それだけで俺達の助けになるんだ。だから絶対無理すんな、絶対だ、ただ飛び回ってろ!”

神谷が必死に訴えるが、いわゆるホープ(初戦闘)の面々からの返事は無い。

只すすり泣く声や、叫び声、もしくは何の反応もない声の無い返答だけであった。

そんな中、綾瀬は出撃前より気になっていた泣きじゃくって出撃を拒んでいた少年へとコールする。

”少年、聞こえる?綾瀬よ。あなたの事は聞いてるわ、良い?泣きじゃくってもいい、叫んでもいい。だけど今握っている操縦桿とヘルメットだけは絶対外しちゃダメ、死ぬよ。私が全部やっつけるから、あなたは言うとおりにしてて”

綾瀬の言う事を理解したのかすすり泣く声が小さくなっていくのがスピーカーから確認できた。

”神谷?敵の内二機がやたら遅い。何か孕んでる(爆弾搭載)かも”

”了解した、こちらでも確認している。三宅と後二人・・・ノボルと稲木一緒に来てくれ。後は頼むぞ”

”帰りのお迎えはキスだけでいいぜ、みんながいると恥ずかしいからな”

三宅が余計な一言を入れると綾瀬は呆れた様子で三宅の無線だけを切る。

神谷隊長はカゲロウリンクでシステムの連携を取り、隊長を始めとした手慣れの四人のカゲロウ機は高度を上げて別行動をとった。

”綾瀬機より、ゼロへ。そちらにUAV爆撃機が襲来する可能性があります、対空システムを―――”


綾瀬機より連絡を受けた管制塔作戦本部、海堂はすぐさま基地のメンバーにアナウンスする。

「管制塔より活動班へ、至急対空戦闘配備!担当を当たっていない非・活動班は付近の非常口から避難所待機・・・いや待て、今週入ってきた奴らに機銃の使い方を教えてやれ、横で見てもらうだけでいいから経験させろ!」

地下からせり上がってくる砲台、対空機銃AA8型。

そこにエアコンジャケットを着た工員や少年少女、更にはまだあどけない子供まで腕を引っ張られて必死に走って向かって行く。

その様子を作戦本部のモニターで見ていた小紫は、確信を持って海堂に尋ねる。

「海堂司令官、ここは未成年の少年少女達を戦闘に参加させていますね」

「その通りです小紫監査官。ここは少年少女の戦場なのです」

「信じられない・・・あなた自分のやっていることが解っているのですか?!日本の法律では収まらない、国際法違反ですよ!

監査官権限により貴方は本日をもってーーーー」

ものすごい剣幕で司令官に詰め寄る小紫の前にずいっと割って入り、話を遮ったのは榊原だった。

「まあまあ、小紫監査官。今は作戦中ですから、ね。そう言うのは後でーーー」

「そう言うのって・・・そう言うどころの話じゃない!!今だって死と隣り合わせにされている子供達が目の前に!」

そう言ったとき今度は榊原の身体を押しのけ、司令官が小紫の前にものすごい剣幕で詰め寄る。

「”死と隣り合わせ”だって?笑わせる!死と隣り合わせなのはあの子達だけじゃない、俺達も同じだ、基地にいる全てが同じだ。今震えながら機銃席にいる人間も、避難所で震えている連中も、全員な!まあ、白鷺の連中は違うようだがな!」

「なんですって?!」

海堂の挑発的な物言いに小紫は触発された。

周りに向かって行動を止めろ、白鷺シェルターに連絡を取って迎撃部隊を寄越してもらえ等色々喚き散らす。

小紫の様子に呆気にとられる一同、このままでは収拾がつかないと榊原はおもむろに小紫の両肩をグイっと掴む。

「痛ッ!何すんの―――」

「小紫、よく聞け。いいかこのゼロ基地のシステム全体を作ったのは―――」


「お前の盲信する先生だよ」

「!!!」

バァアアアアアアアアアアアアアン!!!


管制塔の天窓を火柱を上げたUAVが横切る。

やがて地上に激突したのか凄まじい爆発音が聞こえる。


”UAV-2、スプラッシュワン”

「一機撃破、この前の奴より俄然動きが良い。レールガンがあって助かった噂通りね、まるでミサイルみたい」

綾瀬機の右翼に取り付けられたレールガンの銃口から煙が漏れ出ている。

先程の撃墜は綾瀬機のモノであった。

(でも3発しか撃てないって少なすぎない?!あと残ってんのはお決まりのバルカン砲ぐらいよ)

綾瀬はレールガンの性能に感嘆を上げつつもあまりにも取り回しの悪さに舌打ちした。

その時、無線から悲鳴が上がる。

”いや、嫌だ。もう嫌だ!やっぱりやめたい!帰りたい、誰か、お願い、停めて!停めてこれ!”

ホープの一人である女の子が叫び、泣きじゃくり、おもむろにヘルメットを外して操縦桿を握りただ震えた。

それは綾瀬のカゲロウリンク・システムにすぐさまエラー表示され、事の重大さが露呈される。

「駄目!ヘルメットを外したら脳波が読めない!被って!早く!」

綾瀬が必死に訴えるも女の子は聞く耳を持たない。

瞬く間に女の子が乗るカゲロウ機は空中で静止する様にその動きを止めてしまう。

それを見逃すことなく一機の武装UAVが彼女の機へ急接近し、小型ミサイルを無数に放った。

バラララララッ!

飛距離こそ短いもののその威力は強力で機動力に趣を置いているカゲロウは一瞬にしてその餌食と化す。

「間に合わないっ!」

急ぎ、女の子のカゲロウ機へと向かうが時すでに遅し、綾瀬の目の前でそのカゲロウは爆炎に飲まれ

まるで悲鳴のような音を上げながら墜落していった。

「クソッ!・・・・・・・・・・当たれぇえええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

綾瀬は眼光に怒りをみなぎらせ、UAVの尾翼を追いターゲットマーカーに入ると同時に掃射する。

ダララララララッ!バァアアアアアアン!!!!

”UAV-4、スプラッシュワン”

「聞こえるホープ、あなた達もああなるわよ!絶対に私の言うこと聞いて!」

しかし、その訴えもむなしくまたカゲロウ機が一機いぶかし気な動きをする。

そこへ一機、手慣れのカゲロウ機が接近し、なだめようと視界に入って合図を取るが全く応じることもなく

しかもいきなり急加速を取る。

”う、嘘でしょ?!ちょっと待ってーーーーーーーーー”

ホープのカゲロウ機はまるで助けを請うように手慣れのカゲロウ機へ急接近し、そして衝突。

そのままキリモミしながら墜落してゆく。

その様子はさしずめ溺れた人間を助けようとして共に波にのまれてしまった哀れな者の様であった。

「そんな、真緒、美玖丸?!」

綾瀬の叫びもむなしく響くばかりである。

会敵と同時に味方は数機撃破され、もはやこちらにはホープ2機を含め残り4機。

先発の神谷たちは未だ交戦中。

未だ刃を交えているUAVは3機も残っている。

(真緒・・・ごめんなさい・・・このままでは分が悪い。どうする?!)

”もしもし?副隊長、私、UAVってやつ引き付ける自信ある”

不安と恐怖が押し寄せる中、不意に綾瀬に無線が入る。

「チャンネルナンバー・・・あなた、ホープの一人・・・確か柊さん?!」

”柊ひより(ひいらぎひより)、私、シミュレーションのテスト、トップだったの!副隊長、私の飛行機武器が無いから私が

囮になる。どうせ他のホープも囮目的で飛ばしてるんでしょ?!じゃあ私自らやってやるわ!”

「柊さん、待ってーーー!」

綾瀬が制止する間もなく、他の機種よりもエンジンに追加装備を盛り込んでいるカゲロウ・柊機が出力を全開にして不規則に飛び交うUAVに突っ込んでゆく。

それを察知したUAV3機が瞬く間に柊機の尾翼を追う。

(先月の人員補充の時・・・一番年少だった少女・・・たしか13歳で全然しゃべらない印象だったけど)

綾瀬は彼女に会った時の事を鮮明に思い出していた。

他の人間に比べ、可愛らしい顔立ちでとても気が強いような感じではなかったが

パイロットとしての命を伝えられた時は微動だにしなかった。

人員補充の際には必ず一人はいるのである、才能と言うべきか、先天的と言うべきか、呑み込みが早く洗練されてゆくパイロットが。

”来なさいよ!こっちは死ぬのも上等なんだから!!”

柊はその見た目とは裏腹に敵に向かって怒号を上げながらスピードを下げることなく何と高度を下げ始める。

「ああっ、そんなことしたら落ちるわよ!」

通常なら恐怖で慄くものの柊はやってのける。

そして、何の感情も無い無人のUAVも高度を下げ、柊を追ったとき柊機はその動きを急旋回させ高度を真上に上げた。

(なっ・・・・!)

綾瀬は驚愕した。明らかに高等技術である。綾瀬はパイロット歴としてはゼロ基地では最も長い人間ではあるがホープにしてこの動きをするのはビギナーズラックでは説明がつかない。

反応速度に機体性能が追い付かないUAVはウチの一機が軌道を変えることが出来ずに枯れ果てた大木に激突し、そのまま墜落した。

”副隊、見とれてないで早く!”

「くっ、解ってるわよ!」

綾瀬はハッとしてすぐに気を取り直す。

目の前には今まさに上昇中である柊機とそれを追い上昇するUAVが映り込んだ。

ターゲットマーカーが入り、ビープ音が鳴る。

「真緒たちのかたきぃいいい!」

バラララララッ!

バルカンを掃射する。元々小ぶりのカゲロウは搭載するバルカンの弾もわずかであり、HMDには瞬く間にBalkan_ammo-0%と表示される。

ポツ、ポツ・・・ドォオオオオオオオン!

2機のUAVから火柱が上がる。

綾瀬はエースの呼び名に恥じぬ仕事ぶりを見せた。

”流石副隊長ね・・・命かけてよかったわ・・・”

「あなた・・・帰ったらあなたと、柊と話がしたいわ。とても十三とは思えない度胸ね」

”今年で十四よ・・・間違ってなければね”

その時、海堂から連絡が入る。

”よくやった。敵残存兵力はゼロ、作戦成功だ。先程神谷たち別動隊から連絡が入り敵脅威を無力化に成功したらしい。

カゲロウリンクをHQーautoへ。着陸専用路に機首だけ振っといてくれ。後、柊。お前の機体はボロボロだが今は無き先輩が使っていたVTOL機能搭載型だ。その追加スラスターを含めた全推力を使ってUAVを振り切る急上昇したな?誰の入れ知恵だ?”

海堂の詰問に柊は押し黙る。後ろめたい事でもあるのだろうか。

”・・・まあいい。お前は今日から腕利きだ。こちらから武装も提供して報奨金にも今回の功績もかねて色を付けてやろう”

海堂は嬉々として伝える。相手が何者であれ久しぶりの逸材であるからだ。

暫くするとやがて向こうの方角から別動隊の姿が見えてきた。


ーーーーーーその機数は3機であった。


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