最終章 熱風 #08
「オオルリ!フォーメーションを!」
「くそっ超電導域を最大、出力を限界までっ」
「三宅さんっ、ジェネレータが持ちませんよっ」
「全滅よりはマシだ!レオンっ!そっちにも飛び火するぞ!」
「糞、死にたくなきゃついて来いよ空蝉の連中が」
熱風隊が必死になる中、事態を把握したゼロ基地は皆血相をかいてシェルターに駆け込み始める。
”小紫さんっ逃げないと、早くっ!”
”私は管制室に残る、誰か柊を地下に連れて行ってっ!”
管制官が急かすが小紫はそれを拒否し、柊を隊員にゆだねようとするが当の柊も椅子から頑なに離れようとしなかった。
”私は熱風隊よ。隊長を、三宅やひよりを残していくわけにはいかない”
”貴方達はいいわ、生きてたら子供達や隊員のサポートを”
真っすぐ見据える二人のまなざしに管制官たちも足を止め、再び持ち場に着く。
”貴方達っーーー”
”はっと我に返りましたよ。どうせどこ行ったって地獄なの忘れてましたわ”
”どうせ死ぬならここでいいすよ、やり切りましょ、とことんね”
そして最初から持ち場を離れなかった管制官ゼロは熱風隊に告げる。
”熱風隊、こちらの覚悟は完了している!最善を尽くすだけでいい!”
「まだよ!まだ終わらせない!ゼロは朽ちないわよ!」
綾瀬機は管制塔を背に強襲空母・青天井と対峙するような形を取ってホバー状態に入った。
その後方下ではオオルリがうなりを上げて綾瀬機のカゲロウにレーザーを照射している。
「くそっ持ってくれよ!」
「こ、こわいよっ。怖い!綾瀬!」
「綾瀬!俺が高度を上げて奴らのミサイルがお前らに当たる前にエネルギー質量爆弾を投下する。
直前で相殺できれば行けるはずだっ!任せておけ!」
レオンが急速旋回し、急ぎ高度を上げる。
そして、地鳴りを上げていた空母・青天井は一瞬静まり返る。
”ーーーーーーーー来るっ!”
ゼロ基地、熱風隊一同は遥か昔、祈りをささげたであろう、神に祈った。
ダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!
青天井から放たれたそれはまるで無数の矢であった。
空母のありとあらゆるサイロから放たれた戦略ミサイルはゼロ基地並びに綾瀬機ら熱風隊に襲い掛かる。
レオンが投下した爆弾は見事なタイミングで爆破したがそれでも半数以上のミサイルが
その勢い衰える事無く綾瀬の機体に襲い掛かる。
ひとつ、ひとつ、またひとつ。
超電導シールドによってボディに当たる直前に四方へと逸れるがその爆風までは防ぎきれない。
綾瀬の機体は超電導シールドだけでは防ぎきれず、ゼロ基地や綾瀬機のあちこちが爆炎に包まれた。
対空砲火、滑走路、車両、連合の強襲部隊ですらその矢というミサイルによって薙ぎ払われた。
やがてオオルリの機体はシールド出力の許容範囲を超え、ジェネレータから黒煙が噴き出る。
ビービービー!鳴りやまぬ警告音、轟き、そして爆音。
全てが終息し黒煙が熱風で払われた時、
そこにはところどころ黒煙を上げるゼロ基地とそしてボロボロになった綾瀬機が姿を現した。
健在であった、まだ息吹は残っていた。
”・・・さすがだ熱風隊、綾瀬隊長。敵ながら敬意を表する”
夕霧隊一同は綾瀬以下熱風隊の勇猛果敢な姿に敬意を表した。
一方ゼロ基地も、管制塔は衝撃に備え伏せていたものの再び体制を整える。
”・・・まだ、生きてるわ。まだ、戦える!”
小紫は意を決して綾瀬に無線する。
”綾瀬さん!”
「CAMEパージ、緊急分離!!」
綾瀬のカワセミカゲロウを覆っていた煙を上げていた兵装群が次々と切り離され、それは勢いよく空に舞い上がった。
赤い尾翼の機体。その通り名はーーーー赤い尾翼の女。
「空母をヤルっ!あの青天井をっ、あいつをやれば連合は撤退するはずっ!」
”でもどうやって?!とてもミサイル一発二発でやられる代物じゃないはずよ!”
柊は事前取得した青天井のデータを取り急ぎ見るがとてもその頑丈な装甲は並みのミサイルでは歯が立たないのは明白だった。
「でもやらなきゃ、やらなきゃ!」
悲鳴にも似た綾瀬の叫びに、コールが入る。
”聞こえるか熱風隊”
「あんたっ・・・連合の隊長っ」
”青天井はその性質上甲板を持たない、どこぞのロボットアニメのように、ほらあの前前方ゲートが開いてそこから戦闘機やUAVがカタパルトで発艦、もしくは’着艦’する”
綾瀬は突然何を言い出すのかと戸惑ったが、傾聴した。
”もうすぐ青天井は作戦の最終段階でゲートを開いてUAV上陸型を多数輩出するはずだ。
奥は格納庫そのすぐそばに艦の動力炉がある。
ゲートに続く滑走路は前方後方対応できるようにチューブになっているはずだ”
「どういうつもり?」
そこまで聞いて綾瀬は隊長・岩日の意図を汲み取る。
艦をやれというのだ。
”無茶よっ!曲芸じゃあるまいし対空砲火でバラバラにされて艦に衝突しておしまいよ!”
柊が綾瀬に止めに入るが、しかし答えは解りきっていた。
「後悔しないでね、やるわよ、私は」
”ふん、誰が行かせてやるといったか?俺がヒントをくれてやったのは貴様がここで俺に堕とされるからだ
死にゆく人間に何を言っても無意味だろう、むしろ悔しさを抱えたまま、憤りを感じたまま死ぬがいい”
敵に塩を送るもあくまで岩日は綾瀬を堕とすつもりだった。
スロットルを上げ、綾瀬機の後を追う。
「綾瀬、今オオルリから空母の内部情報をいくらか取得できた。ひよりがお前を誘導する、行け!」
「綾瀬隊長、私がサポートしますっ!」
ボロボロになり、もはや滞空するのもままならないオオルリカゲロウの三宅とひよりが軽く機体を傾ける。
「綾瀬、俺は紳士だ。紳士はレディをエスコートするのがマナーだ。対空砲火の掃除は任せろ!」
上空から戻って来たレオンも既に兵装をほとんど使い切り、残っているのはバルカンとレールガン数発のみである。
”綾瀬さん、本気なの!?”
熱風隊の覚悟に小紫は戸惑うが綾瀬の覚悟は決まり切っていた。
「いくわ小紫さん。私の機体も残っている兵装は基地自決用燃料気化爆弾と空対空バルカンのみ。
起死回生の一手があの隊長の言う通りこれしかないなら乗ってやろうじゃない、司令官・・・命令を!」
綾瀬の決意に小紫も意を決する。
”わかったわ綾瀬さん、ゼロ基地を・・・お願い”
「了解」
短く返事をし、大きく旋回すると高度を限界まで下げて青天井の対空砲火に出来るだけかからないように急速接近する。
”エルドラド、三時方向から攻めろ。ビショップ援護を”
「くそっ!やはり振り切れないかっ!」
綾瀬は後方から急速接近する夕霧隊に悪戦苦闘し苦渋の表情を浮かべる。
”綾瀬!ミサイルアラート!緊急回避間に合わんかっ?!”
ゼロが叫ぶと既に岩日とビショップが超速ミサイルを放っていた。
「やばいっ!」
ミサイルがもはや目と鼻の先に迫ったとき、突如誘爆する。
「何事?!」
綾瀬が周りを目視確認するとそこには誘導フレアを放つ空蝉隊、条の機体があった。
”連合の夕霧隊!赤い尾翼の女をやるのは俺だ、誰の断りを入れて堕とす気だ、ああ?!”
連合のすぐ後方を追ってきたのは空蝉隊・志麻だった。
”くそっ空蝉隊か!ビショップ、エルドラド!”
直ぐに夕霧隊の二機が志麻の邪魔に入った。
「こいつは好都合だ!先に抜けるぜ、行け綾瀬っ!」
レオンは集中砲火を浴びせようとする空母青天井のAA(対空砲火)群を次々と潰してゆく。
が、綾瀬の進路上にかかるものをつぶすだけで精一杯である。
既に戦場は混戦を極めていた。
「すぐ目の前なのにっ」
綾瀬は近づきたくても近づけない空母を前に焦りを隠し切れずにいる。
その時。
「開いた!空母のハッチが開いた!」
オオルリカゲロウでモニターしていたひよりが叫んだ。
「!!」
綾瀬はスロットルを全開にして高度ギリギリを攻め、機体をキリモミ回転させながら急速接近を開始する。
”隊長!!”柊は今にも墜ちかねない綾瀬機に気が気でなく、モニターに食い入った。
一直線に突っ込む綾瀬機に無数の銃弾が掠め、爆炎が機体の翼を焼く。
それでもその勢いは衰えることは無く、ハイブリッドエンジンのアフターバーナーは青い炎を勢いよく噴射する。
「熱風隊を・・・ゼロ基地を・・・舐めないでよ!!!」
空母、青天井格納庫内。
”強襲UAV発進準備完了!続いて夕霧隊イーノ機はカタパルトへ”
「急いでまわして!後れを取ったが副隊長が死んだ今、その空席に座るのは私なんだから・・・」
チカガミ予備機のコクピットで出撃の瞬間を刻一刻と待っていた。
「赤い尾翼の女さえやればサポート役の私もーーー」
”な、何事だ?!ーーーおい嘘、いや、退避だっ、総員退避っ”
急に慌ただしくなる艦内の放送にくわえ、エマージェンシー。
「な、なんなの一体どうしたのよ!!カタパルトに早くっーーーー嘘」
矢先、眼前に飛び込んできたのはあの機体。
赤い尾翼の女。
「ーーーーどうりで、小波が夢中になる訳だ」
綾瀬の機体から爆弾が切り離され、バルカンが一斉掃射された。
”綾瀬さん!!”柊が叫ぶ。
空母・青天井は綾瀬機に飛び込まれたのち、一気に大爆発を引き起こして大きな黒煙を上空へと舞い上げた。
「綾瀬!」
「そんな、あの爆発じゃ・・・」
ゼロ基地を包まんとするぐらいの凄まじい爆発と黒煙を目の当たりにした三宅とひよりは絶望した。
「あの女は死なん、俺が抱くまでは」
レオンは爆炎を見ようともせず、退却する夕霧隊や空蝉隊に紛れながらつぶやく。
殺虫剤を駆けられた虫のようにUAVがチリチリになりながら地へと墜ちて行く。
広がる黒煙がやがて収まりを見せつつあっても綾瀬機は姿を見せなかった。
”綾瀬さん!綾瀬---!”「うるさいわね・・・」
小紫がかすれたような声を上げたとき、弱弱しい声が無線に飛び込んできた。
収まりかけた黒煙から、一筋の機体が飛び出る。
機体全体が煤にまみれ、両翼が傷だらけになりながらも、その赤い尾翼は変わらぬ色彩を放っていた。
綾瀬はすっかり憔悴しきっていたがそれでも少し微笑むと誰に向けるでもなくそっと呟く。
「・・・守ったわよ、神谷隊長」




