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第一章 陽炎 ♯03

”違う!そっちじゃない、5番だ!5番レーンに載せろ!”

”12号機は?!なんでいつもそうなんだ!あれほど時間あるときに―――”

”邪魔だ邪魔!武装ラインにモノ置くなって言ってんだろっ!ここで爆発させる気か!”

小紫はエレベーターが到着すると同時に聞こえる怒号と、むせかえる様なオイルや機械の焼ける匂いに圧倒された。

あちこちでは、明らかにやせ細った工員達(大人)が血相かいて動き回っていた。

「凄いわね・・・」

「普段は暇なんだがな、まあ有事になるとこんなもんだ。俺はあまり戦争ってのを経験したことが無いが戦争の9割は

暇と苦痛に苛まれ、残りの一割が有事で大概そこで死ぬ」

皮肉交じりの境の戯言を軽く聞き流し、お呼びをかけた綾瀬を探す。

(いた・・・)

広い格納庫の一角。周りの戦闘機とは明らかに一線を画す所に綾瀬はいた。

人混みを縫うようによけ、境と共にその場所に向かう。

綾瀬の戦闘機は他とは少し色が違っていた。

人混みを掻き分ける最中、様々な戦闘機が目に飛び込んできたが明らかに汚れたものや痛んだものが多い。

そんな中でも、綾瀬の戦闘機だけはワックスでもかけたかのようにピカピカに輝いていた。

全体的に白を基調として、所々がグレー、尾翼には赤いリボンのマーク。

二人の工員が急ぎ両翼に細い筒のような兵器をセットしている。

(ウチが持ってきたレールガン。この機体のモノだったのね・・・)

「エース機だからな、ふふん」

境が見とれていた小紫の意図を汲み取ったのか、得意げに話す。

「綾瀬は熱風隊の副隊長だが、撃墜に関してはトップだ。流石、女は度胸ってやつか?」

「その発言は、女性に対するコンプライアンス違反と受け取っても?女男関係なく度胸を持つものはいます」

それを聞いて境はぎょっとした顔をする。

「怖いな・・・まあ、そう怒りなさんな。何でもかんでも嚙みつく様じゃお互い身が持たないのでは?」

「そんなことは解っています、あなたが一言多いからです」

「あはは、前途多難だなこりゃ・・・まあ、いいさ。

小紫監査官、これがゼロ基地で配備されている超小型多目的戦闘機”陽炎カゲロウ”だ」

境がタブレットを小紫に渡す。

予め資料では見たが、実物大は初めてだった。


超小型戦闘機、陽炎カゲロウ―――。

全長約6〜7m、翼幅折りたたみ式で4m以内に収まる設計で12トントラックの荷台にジャストフィット。

これは、出来るだけコストを抑えつつ速やかな運搬、作戦行動を可能にするための小型化である。

次世代戦争が電子戦に移行してからというもの、兵器に関しては小型、スマート化が今や常識である。

軽量素材(カーボン複合材+特殊セラミック)で構成。

ハイブリッドジェットと短距離垂直離陸機能(VTOLは上位機種のみ)。都市部や荒地でも発進可能。

小型バルカン砲、小型ミサイルポッド、電磁レールガン(低出力型)、電子妨害装置などの武装を主に搭載する。

そして何より、特筆すべきなのはAI。AI連携でパイロットの脳波と感情を読み取り、戦術支援を行う「Kagerō-Link」搭載。

更に陽炎の名前の由来となる―――。


「監査官」

「っ?!あ、綾瀬さん?」

不意に声がかかり、タブレットから目を離すと操縦席からこちらを見下ろす綾瀬がいた。

小紫はいそいそと彼女に駆け寄る。

「凄いわね貴方・・・優秀なパイロットですって?そんなに若いのに大したものだわ」

「そう・・・」

綾瀬は褒められても大して嬉しくないように、いや、我関せずとばかりにコンソールに向き直っていた。

「それで、私を呼んだのは何故?何か用があるんでしょ?」

小紫は少し気分が高揚としていた、エースパイロットが声をかけてきたのだ。

きっと勝利のエールをくださいとか言ってくるに違いないと。

しかし、帰ってきた言葉に小紫は胸を貫かれる。

「監査官、あなた、いつまでこんなこと続けるつもりなの?」

「・・・・・・・・・・えっ?」

何を言っているのか理解できなかった、隣にいた境もまるで無表情。

小紫が事を理解できないと汲み取ったのか綾瀬は顎で対面の奥を挿した。

「・・・・・・嘘、どういうこと?」

”ほら、早くしろ!泣くな、大丈夫だ坊主。お前はできる!”

”すごい力だ。おいお前も手を貸してくれっ!とりあえず操縦席まで押し込んでヘルメットつけりゃあ良い!”


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!嫌だぁアアアアアアアアアアアアア!」


子供の声、泣きじゃくる子供の声。歳は多く見積もっても12歳程度だろうか。

顔は涙でぐしゃぐしゃになり、柱に両手で食らいついて大人が引っ張っても離れようとしない。

「坊主、約束だったはずだ!あんだけたらふく食って水も飲ませてやったろ!さあ頑張れ!」

「いや、いや、やっぱりいやだ!乗りたくない!タスケテ!誰か助けて!」

子供は必死に叫ぶも応援の大人も駆けつけあっけなく連れ出され操縦席へと押し込まれ、ヘルメットを被らされる。

その押し込まれた陽炎機は見るからにボロボロで本当に飛ぶのかと不安になる様なものだった。

しかも、武装の類は何一つ無い。

「ちょ、ちょっと何あれ!?今すぐやめなさい!児童虐待防止法違反です!重罪ですよ!」

「・・・・・・なにそれ、ジョークで言ってんの?」

綾瀬はまるで監査官の言ってることが理解できないといった様子で鼻で笑う。

「・・・ランプが黄色に変わった。発進準備が完了した。

”パイロット”以外は待避所まで退避しないといけません、さあ行きましょう小紫監査官」

境が小紫を促すその時、綾瀬が境を呼び止める。

「あ、境さん。レールガンありがと、これ、まだ渡してなかったから、ハイ」

綾瀬はコクピットガードが閉じる前にカードを境に投げつける。

「おう、毎度。今日も乾いてるがこれで潤ったよ」

それはペイカード。いわゆる、金である。

「なっ!!境、どういう事です?!」

「どうもこうも無いですよ監査官、ここじゃ武装は金で買うのが当たり前です。安心してください、この子達には

俺達には到底及ばないほどの報奨金が出ますよ。もちろん、さっきの泣きじゃくってた子供にもね・・・生き残ったらの話だが」

「え、ええ、えええ?!!!そんな。ここは・・・一体?!」

小紫は状況を飲み込めず混乱し、辺りを見渡す。

陽炎に乗り込む面々は皆明らかに子供、未成年だった。

見れば自身を案内してくれた神谷隊長、ベースの兄貴と呼ばれた三宅を始め、少年少女達ばかりであり、

それを見つめているのは、油と煤にまみれたやせ細った大人たちばかりである。

不意に部外者を排除する警笛が鳴る。

「ほら、時間が無い!行きますよ監査官!」

境に手を引っ張られながら半ば茫然自失に小紫はその場を去る。


その小紫の背中に、綾瀬は畳みかけた。

「見てるといいわお嬢様・・・”あなた達が作った”このゲームを」


その言葉を背中に受け、ふと呟く。

「少年少女の・・・戦場・・・?」


格納庫を照らすLEDランプが黄色から赤に変わる。

すると各カゲロウの計器表示は最新テクノロジーを駆使しているためか全てHMD(ヘルメット装着型ディスプレイ)として表示され

パイロットのヘルメットが怪しく光り輝きだす。

”スクランブル発進、各機カタパルトエレベーター(射出機)へ移動開始せよ”

青年だろうか美しい声のアナウンスがスピーカーから聞こえてくる。

小紫と境は工員控室の展望窓から天に向かって垂直に伸びる数々のレールを眺めていた。

「監査官、発進は見物ですよ。見届けたら上の管制塔へ向かいましょう、海堂司令官とお付きの人も待ってます」

「こんな地下からどうやって発進するというの・・・」

小紫が不安げに見守る中、カゲロウ各機が専用スタンドに固定される。

垂直に伸びるレールに移動されるとカゲロウはそのまま真上へと向きを変える。

レールは格納庫中央の巨大な円錐状の柱に無数に這わせており、それはまるで異形の塔の様でもあった。

天井のゲージが次々と解放され、はるか上空からの凄まじい熱の太陽光線が降り注ぐ。

すると突然、周りの工員達が少年少女へ向けて凄まじい激励を出す。

”頑張れよ!”

”生きて帰って来い!”

”俺達が付いてるぞ!”

境がニヤリとしながら小紫を見つめ言う。

「天からのお迎えだよ」

「天・・・」

”全機スタンバイ完了、カタパルト発進5秒前・・・4・・・3・・・”

小紫は唖然としながらカウントを聞きていると、不意に一機のカゲロウに目が留まる。

それは先程の泣きじゃくりながら載せられた少年だった。

涙は枯れ果て目はうつろ、頭に似合わないコードが無数についたヘルメットを装着して、

誰に教えられたかもわからないが震えた手で操縦桿と思しきものを握っていた。

小紫は思わず身を乗り出し、叫んだ。

「待ってーーーーーー」

”2・・・1・・・今!”

バァァァァァアアアアアアアアアアアン!!!


カタパルトの凄まじい音と共に無数のカゲロウが天に向かって今飛び立つ!



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