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播磨熱風隊―Passion, Innocence, and the Sky War―  作者: かがみひこ
最終章 熱風(ネップウ)
37/43

最終章 熱風 #03


「ど、どうして私が出撃するのが駄目なのよ!三宅!あんたも何か言ってよ!」

「俺が頼んだんだよ。頼む」

翌日、熱風隊の各隊員がそれぞれの機体の説明や指示を受ける一方で柊が自らの機体に赴くと

既にボディ全体にシートが張り巡らされており、テープで縛り上げられている。

テープには開封現金(厳禁)と書かれている。

「ふざけないでよ。乗らなくていいと思えば乗れというし、乗るといえば乗らなくていいというしっ!」

「私の独断よ」

「綾瀬・・・副隊」

隊員や工員達が集まる中、それを押しのけて綾瀬が割って入って来た。

柊はバツの悪そうな顔をする。

「柊、あんたご懐妊なんでしょ?ならもう乗らなくていい。前は白鷺の連中がーー」

「そんなこと言ってんじゃないの!だってもうゼロ基地や白鷺云々の話じゃないんでしょ?!だったら」

「聞いてくれ柊」

三宅は盲目者用に開発されたレーダー地形探知装置を照射しながらゆっくりした足取りで柊に近づく。

「俺は父親という面じゃない。ましてや大人でもなければまだクソガキだと思ってる。

しかも俺は仲良くなったお前のここを抜け出したいという思いに付け込んだだけのスケコマシだ」

三宅の表情はうかがい知れない。だがその表情は誰しもが悲壮に満ちた表情だと安易に予想できた。

「それでもだ、なんか俺も実感はわかないけど・・・それはすごく意味があって、大切なものだと思う。

俺は親とも呼びたくもない奴らに早々に売られたから解らないけど、その、もっとその、その子を、大切にすれば

変わるんだと思うんだ」

全員が三宅の一字一句を聞き逃すまいと静寂を守る。

「変わるって、何がよ・・・」

柊は俯き加減に三宅に尋ねる。

暫く思念した後、答えた。

「未来だよ。お前の名前と同じようにな。なんか、さ。大切に育てばきっと俺達のような目に合わないし、合わせないと思うんだよ。誰かが止めなきゃこんな地獄ずっと繰り返すんだよ」

「私も、三宅君の意見に賛成だわ」

「小紫かん・・・司令官」

奥から騒動を聞きつけた小紫も歩いてきた。

「柊さん、貴方は今。未来を背負っているの。それは貴方を売った両親の復讐なんかじゃないわ。この地獄から抜け出すための・・・三宅君と一緒にね」

「三宅・・・陸翔りくとと一緒に?」

柊は思いもがけない台詞に驚いた。

「この局面を無事に生き残ったら白鷺に掛け合うわ、だからお願い。それに力になるのは何もカゲロウに乗るだけじゃないわ。

ね、ゼロ?」

小紫は防犯カメラに向かって目線を送る。

すると、カメラの向こう側の人間はぎょっとしたのか、慌てて基地内放送で弁明し始める。

”ひ、柊。私がサポートするっ。管制官として共に熱風隊をフォローしてくれ!”

「ったくゼロの奴、コソコソ見てないでこっちに直接来なさいよ」

綾瀬はすっかり白けた様子だった。

「でも、私、いいの?みんなの・・・」

「柊・・・いや、未来」

三宅は柊の前に立ちゴーグルに表情が窺い知れなくとも緊張しているのがその場にいる全員が感じ取った。

ギャラリーの一人が何かを予想したのか思わず唾を飲む。

「好きだ、一緒に生きようーーー」

「陸翔・・・陸翔、陸翔!!」

柊は三宅の胸に飛び込んでその勢いで思わずしりもちをついた。

その場にいた全員が喜びに湧きだった。

小紫がこのゼロ基地に来て以来、初めての事だった。

いや、ゼロ基地設立以来だったのかもしれない。

何となくすすり泣く声が、管制室の館内アナウンスから漏れ聞こえているのは言うまでもなかった。


その日の夜更けの事ーーー。

ピッピッ・・・。

非常灯だけが照らし出されるゼロ基地の廃工場屋上。

ここは基地が作られる際、増改築に適さなかった事からほぼ手付かずのまま放置されている。

その縁に腰掛け、綾瀬は一人月夜に照らされながらタブレット端末に目を通していた。

夜更けとはいえ外気温はまだ38度を超え、エアコンジャケットは必須である。

もしくは全裸か。

「やはりここにいたか?電子音が聞こえる」

「三宅?!あんた大丈夫なの、ここ入り組んでるのに目が見えないんでしょ?!」

綾瀬は非常階段から上がって来た三宅に驚き、すぐさま駆け寄って手を取る。

「まあ百パー見えないって訳じゃないけどな。ただ色彩は最悪だ、つけ始めたときはゲロ吐きまくったな」

二人はゆっくりと綾瀬のいた縁へと戻ってゆく。

「よくここがわかったわね」

「お前まだ来て間もないころからチョクチョク来てんだろ?神谷が言ってたよ、誰かに襲われないか心配だって。

まあ、バイオレンスお嬢様の異名を持つお前なら大丈夫だろうが」

「よく言うわね、あんたがその心配事の現況でしょうに」

「ハハハ、言うな」

二人は腰を下ろしてかつては繁栄を極めたであろう今は荒野と化した大地を眺める。

ふと綾瀬がつぶやく。

「ねえ、播磨ってどこからどこまで続いているのかな?」

「さあな、爺どもは播磨播磨っていうけど戦後に生まれた俺達には見当もつかん。昔は人工衛星ってのも宇宙に無数に

飛んでたらしいけどな、今じゃガラクタしか浮いてないらしいし」

たわいのない会話、そして沈黙。

暫くの後、三宅は恐る恐る口にする。

「隊長・・・どこで何してんのかな?」

「あの人、きっとまだ空飛んでるわよ。あの人ぐらいよ、好きでカゲロウに乗ってたやつ」

「・・・かもな。俺達も空に上がれば、きっとまた会えるかも知れん・・・いや、あってしまったらあの世じゃねーか」

「何それ?!バッカみたい」

二人して力なく笑う。

「あいつ、お前の事めっちゃ好きだったんだぜ」

「知ってる」

「何だ知ってたのか、じゃあなんでその思いを伝えなかったか知ってるか?ただ臆病だったからじゃないぜ」

「えっ」

綾瀬は三宅の予想外の台詞に驚く。

「あいつはな、お前よりも強くなりたかったんだ。でないと守れないとかなんとか」

「男ってたまにバカみたいな考えするよね。そんな事ばかりいうから堕とされるのよ」

「ははは、あの世で告白しなかったことを後悔してるぜきっと」

綾瀬はこの時ばかりは三宅が眼が見えずらい事に胸を撫でおろしていた。

声こそ変わらずとも溢れんばかりの涙が流れていたのだから。

本当は綾瀬は知らなかったのである、自信を好いていることも、思いを伝えられなかったことも。

「貴方こそ結婚おめでとう」

「おいおい急にどうしたよ、恥ずかしいだろ」

「私はよく知らないけど、ああ言うの結婚っていうんでしょ?小紫さんが書類か何か用意してたから」

「ま、まあ、そうなるのかな?まあ、結婚しても俺は熱風隊の一員であることは変わりないぜ」

三宅はそういうと大きく伸びをした。

「さあ、もうそろそろ戻ろうぜ。早くしないともう朝五時だ。夜が明けちまう、なぁレオン!」

三宅はそれとなく声を大きくし、死角で見えにくい方へ声を向ける。

すると観念したかのようにとぼとぼとレオンがペットボトルをあおりながらやって来た。

「何だよ、バレてんのか。もしかしてそのゴーグルか?」

「サーマルモードに出来る。ここに来たのはお前が綾瀬を襲うんじゃないかって心配もあって来たんだよ!」

「いやいや、俺もお前と同じだよ!綾瀬が心配でな、まあ、うん、やましい理由じゃない」

レオンが三宅と言い合いになる中、綾瀬はふと安堵する。

熱風隊は取りまとめる隊長が天へと旅立ち、柊が抜け、ホープともいえぬひよりを迎え

やっていけるのかと不安に駆られていたが二人を見ているとその不安も杞憂に終わりそうだった。

「まったく、私は先に帰るわよ」

「ちょ・・・マジか、男二人放置はきついぜ」

「そりゃこっちの台詞だって馬鹿どこ向いてんだ、俺はこっちだ!」

そうやってしばらく忘れていたであろう憩いのひと時。

それは無慈悲に裂かれた。

ブゥウーーーーーーーーン!!ブゥーーーーーーーーン!!

「緊急スクランブル?!」

「いつもとサイレン音が違う!ついに来たのか!」

「綾瀬!お前は先にカゲロウに行け!俺は三宅を連れていく」

三人は急いで階段を駆け下りる。

既に工員の何人かは眠気が抜けぬまま転がりながら現場に向かう。

綾瀬も人波を掻き分け、格納庫へ向かう。


「神谷・・・守って、お願いよ」

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