最終章 熱風 #02
熱風隊は仲間の帰還に沸き立ち、一目散に三宅に駆け寄る。
後ろから追いかけてきた小紫が少し困ったような顔で説明する。
「三宅君はあの後、白鷺で最先端治療を受ける代わりにこのオオルリカゲロウの開発に協力することになったわ。
熱風隊の経験を買われてね。目は見えないけど現時点での操縦レベルはAプラスという事もあってなおさら。
今回の一件で出撃を強く希望したのは三宅君彼自身なの。私は戸惑ったけど、熱風隊こそが彼のいるべき場所なのかも
知れないと思って許可したわ」
「ナイスよ司令官。着任早々やってくれるじゃない」
綾瀬から聞いた久しぶりの嬉々とした声に小紫も思わず苦笑いする。
三宅は操縦席に座ったまま少し照れ臭そうに挨拶する。
「よう、久しぶりだな・・・」
「三宅!三宅!うわっぁあああああ!」
柊が周りも憚らずコクピットに飛び込んで強く抱擁する。
「聞いたよ柊・・・俺も運も尽きた訳じゃないらしいぜ。これからはもう頑張んな、俺がお前の代わりをしてやるからな」
感極まり胸にただうずくまる柊の背中を摩りながら三宅は気配を感じているのかすぐ後ろの綾瀬に声をかける。
「綾瀬・・・助けてくれてありがとな。後、聞いたよ・・・隊長の事」
「三宅、いいのよ。今は再会を喜ぶべきだわ」
「違いないな。春野、後、減らず口のレオンも。熱風隊を、ゼロ基地を守っていてくれてありがとうな。
春野は相変わらず真面目ぶって主人公やってんのか?」
三宅はそう口にしながらMHDに繋がれた無数のコネクタを一つずつ外してゆく。
「三宅先輩、本当に良かったですよ!
白鷺に連れていかれたときはバイオ兵器のモルモットにされるんじゃないかって心配で・・・」
「おい三宅、お前目は見えるのか?」
素っ頓狂なことをいう春野に構わず、レオンは三宅へ核心へ迫る。
レオンは三宅を戦力として見極めようとしているのだ。
「な、何言ってるんですレオンさん。小紫さんも言ってるし三宅さんは大丈夫ですよ」
「うるさい、黙ってろ!これは大事な事なんだ。熱風隊はチームだ。
当然足を引っ張るのなら降りてもらわんと俺達が火の車なんだぜ」
レオンはそういうとずいっと前へと身を乗り出す。
「現状視力は3%だ、ほとんど白と黒の世界だ。
しかし、今俺の付けているMHDはそれを有り余るほど補い100パーセント以上の視力を持ってるらしい・・・ぜ」
それを聞いてレオンはまた別の表情を見せた。
「白鷺の奴らやりやがったな。アンドロイドギアを人間に移植するのは国際法違反だ、もう何でもありだな。
それ、もう取れないんだろう?」
レオンはそういって三宅のMHDをのゴーグル部をコツコツ指で叩く。
「外側は取れてよりスマートになる、顔は洗えんがな。後、お前らの心配は解るがその点については大丈夫だ。
なあ、ひより?」
そういって三宅は複座席へと会話を振る。
すると先ほどとは表情を変えて綾瀬が小紫に尋ねる。
「そうよ、その通り。小紫さん、これはどういう事?ひより、貴方もシレっと乗ってないで降りて説明しなさい」
綾瀬の叱責にひよりは少し怯えた表情をしながら熱風隊の前に出た。
「あの、ごめんなさい。黙ってて」
「ひよりから志願があったの。後、もう一つ境整備長が隠していた初期モデルのカゲロウがあった部屋があるでしょう?
あのカゲロウに搭載されていたカゲロウリンク、つまりAIは現行のカゲロウ機よりも抜きんでていたわ」
小紫はそういうとひよりに合図する。
するとひよりは自身のMHDを見せた。
「それは、あの時のMHDですね。それでゼロ基地の情報を全てリークして・・・あ、もしかして」
カラスカゲロウにて情報収集やハッキングツールを使用する春野は感づいた。
「陰ながらずっと俺達のデータをトレース、学習していたのか。なら当然白鷺が使おうとするはずだ。
しかしそれがこの娘っ子が乗ることとどう繋がる?」
それを聞いて小紫が口を開こうとしたとき、先にひよりが勢いよく喋った。
「その、あのカゲロウ、生体認証、私だけです・・・書き換えも出来ません。
綾瀬さん、このカゲロウはお父さんが使っていたカゲロウの電子部品も一部搭載してます、私、これにーーー」
ひよりの思いも話半分に綾瀬は冗談じゃないと振り返って小紫に詰め寄った。
「駄目よ!ひよりはまだ十歳程度よ!最年少のホープでも13歳から14歳よ。重力だって緩和されているものの
絶対耐えられないわ。ひより、空を舐めないで!死ぬわよ!」
「でも、わたしっ!」
まったく聞く耳持たない綾瀬に小紫は一言。
「カゲロウリンクの成績は貴方よりもはるかに上よ」
「っく、で、でも駄目よ!これ以上---」
「俺からも頼む、綾瀬。このMHDの性で俺のカゲロウリンクは限定されている。そこをひよりが補ってくれれば
百人力だ。もう絶対に誰も死なせない、頼む」
「・・・三宅」
先ほどまで泣きじゃくっていた柊はゆっくりと顔を上げ離れると三宅とひよりを見つめる。
暫くの沈黙の後、綾瀬は大きなため息をついた。
「ひより、訓練は絶対に受けてもらうわよ。少しでも泣き言言ったらすぐに”熱風隊”から外すからね」
「綾瀬さん・・・あ、ありがとう」
「すまん綾瀬、恩に着る」
なんだかんだ言って熱風隊の一員として迎え入れた事に一同の張り詰めた空気は一気に消え去った。
「まったく、尻ぬぐいが増える一方だぜ」
「ひよりちゃん、熱風隊にようこそ!私が絶対フォローするからね」
一同が沸き立つ中、綾瀬は小紫に尋ねた。
「小紫司令官、連合の件今どうなってるの?」
「解ってるわ、三宅君にはある程度説明したけど改めてここでブリーフィングを兼ねて現状・状況を説明しましょう」
一同は格納庫横にブリーフィングルームに移動し、初々しさも程々に覇気のある声で号令をかけた。
その場にいた全員が敬礼をする。
ルームには熱風隊の面子だけではない、如月教官も小紫のバックアップとしてサポートし普段は工員として従事する
者、まだ経験間もないホープ、
非戦闘員の管制塔オペレータまでゼロ基地のほぼすべての人間がさほど広くない空間にひしめき合う様に押し寄せている。
それはまるで古来の決起集会を思わせる様子だった。
「まずはゼロ基地の精鋭達へ。先の騒動から今日に至るまで様々な困難や不安に耐え、仲間を失いながらも強く生き抜いたことに心から感謝します。海堂司令官は残念でなりませんが、微力ながらも私、小紫水連が新たなゼロ基地の司令官として
皆さんと生きていきます・・・もちろん、このゼロ基地の人間として」
僅かなら拍手が起こり、やがてそれは雨を連想させるほどの大きな拍手へとつながった。
”いいぞ小紫ーーー!””よっ、美人司令官”
工員達の黄色い声が飛び、それを如月が大きく咳払いをしてたしなめる。
「まずはゼロ基地の現状について説明しましょう。一時は白鷺によって制限を受けたものの連合侵略の事態を重んじ、
限定的ではありますが解除されております。それにより、先の騒動による綾瀬以下熱風隊の処遇も海堂司令官の一件もあり
既に申し送りとなっているわ、いわゆる不問というやつね。白鷺の実権掌握も現在は解除し、ゼロ基地はこれまで通り
状況行動を取ることが出来る」
間髪入れずにレオンが皆に向かって叫ぶ。
「おい皆!白鷺の連中を追っ払ったのは小紫司令官のおかげだぞ!感謝だ感謝!」
全員がゲラゲラと笑い、思わず小紫と如月も顔を見合わせて苦笑いした。
「おい傾聴傾聴、茶々を入れるなレオン。ここからが大事なんだ、よく聞けよ!」
小紫に代わって作戦担当をする如月が皆の前に立った。
背後には巨大なプロジェクションマッピングが描かれる。
「実権は取り戻したものの、依然としてゼロ基地の状況は芳しくない。
連合からの資源を連合へ一任する無条件降伏を白鷺が拒否したからだ。
つい先日、連合からの最後通告が来た。よって、近く連合の空母を率いた強襲作戦が開始される。
更に気になるのは第六前哨基地”ロック基地”の動向である。
過去の作戦において打撃は与えたものの依然としてその戦力は健在である。
彼らの虎の子である空蝉隊、奴らもこの連合の襲撃に乗じて進行してくる可能性が極めて高い」
隊員たちは口々に言う、四面楚歌も良いところだと。
「我々はこれを迎え撃たなくては成らん。今回の防衛作戦はまさにゼロ基地の防衛能力を最大まで引き出す必要がある」
如月の説明に全員が先ほどと打って変わって息を飲む。
各々、命を張らなくてはならない事を既に理解しているのである。
「つまり銃座に載って応戦するだけじゃない。敵が基地内部に侵攻してくるのだ。
よって場合によっては地上戦、白兵戦・・・いわゆる銃撃戦になることも極めて高い。
工員、ホープ、オペレータ、わずかな時間ではあるがすべての人間に即席ではあるが白兵戦の訓練も受けてもらう」
如月の説明の中、誰かが言った。
「ちょうどいいじゃねーか。いつまでも熱風隊におんぶにだっこじゃヘタレも良いところだ」
「ストレス溜まってたしな、いっちょぶっ放すか!」
「ちょっと・・・お前ら」
如月はてっきり全員が恐怖に慄くと思いきや、逆にいきり立っている様子に一瞬目が点となり、そして次には
大笑いした。杞憂だったのだ。
「流石ゼロ基地の人間ね、そうでないと!」
小紫は全員の覚悟を知り、自身も改めて強く自信を持った。
「愚問だったわね。今回は白鷺もこちらの陳情を受け入れ防衛局から数多くの兵器が搬入されたわ。
勝算は必ずある、一丸となって戦うわよ!」
そして、プロジェクションは如月の操作によって作戦名が映し出される。
「連合の奴らはどうやらここと違ってエアコンの中で過ごしている甘ちゃんが多いらしい。
故に奴らに個々の厳しさを教えてやろうと思ってな。作戦名はーーー」
”迎撃作戦名・0(ゼロ)熱風”




