最終章 熱風 #01
西暦は幾数年、ここはかつて播磨と言われた地。
だがそこに生きる者たちにとっては今や名残でしかない。
過去に起きた純水戦争、地獄ともいえる環境の中、今を生きる人間にとって地球温暖化の先ではただ本能のままに資源を喰らうバクテリアになり下がったのかもしれない。
軒並み破壊された電子機器、人工衛星はほぼ撃ち堕とされ、繁栄を象徴した街は崩壊し、
肥えた土地は高温により毒と砂漠化した。
しかしながら文明が滅びた訳ではない。
見れば、今日を生きる者たちは無自覚のまま”それ”を成そうとするのである。
その意味も解らぬまま・・・。
「お前そりゃ・・・”悲しい”っていうんだ」
レオンは涙が止まらないと嘆く綾瀬に目を合わせる事無く言った。
連合・夕霧隊、副隊長小波と阿吽の襲撃から一週間がたった。
基地の動乱の中、今わずかな時間を見つけてようやく弔いの儀式が行われる。
撃墜されたレオンは奇跡的にほぼ無傷で生還できた。
別動隊の柊と春野も空蝉隊相手に健闘し、何とか追い返すことに成功する。
空蝉隊はこちらの動向を探るとすぐに引いたため懸念が残るが今はゼロ基地を立て直すことが先である。
綾瀬は涙目で戦死者一覧の手書きの張り紙を見る。
結局のところ、ゼロ基地は対空砲火の大半を失い戦死者は工員・パイロット・ホープ合わせて20名以上に上る。
勿論、その中には撃墜された神谷の名前もあった。
「まあそうだよな、今まで仲間を失いお前が感じてきたのは憤りや悔しさが大半だった。
それはあまり生活に長くかかわることのなかった人間だからだ。だが今回はお前を陰ながらずっと支えてきた人間だ。
ショックを受けるのは当たり前なんだ」
「レオン、あんまり副隊長にベラベラ語り掛けないで、鬱陶しいと思ってるよ」
柊は俯いて目の前のバルーンを見る。
バルーンに吊るされたるは造花の花束。
プラスチックだが精巧につくられているのであろうか煌びやかで美しさを醸し出していた。
「隊長、ほんとにいなくなったんでしょうか・・・私には未だに信じられません」
春野も目頭を腫れさせ、鼻水をすすっている。
「鼻水なんか出しやがって、せっかくの水分が勿体ないぜ春野」
「皆、そろそろ準備はいい?私は今回初めてだけど、この風習はすごくいいと思うわ。
語り継いで行きましょう。先に行ってしまった者たちの名前と共に・・・」
先頭にはいつもとは違う服装の小紫がいた。
どうやら彼女が喪主を務めているようだった。
だがそんな小紫の台詞を聞いて吹き出す人間が一人いる。
「ハハッ!語り継ぐ?!誰に?柊の腹の赤ん坊かぁ?!ハハハ!」
その場にいた全員が声の方を振り向く。
そこにいたのは真っ赤なオープンカーの座席に縛り付けられた海堂司令官だった。
「はぁあーあ、しかしやられたよ。あの榊原とかいうやつには。馬鹿みたいにメモばっかり取ってる
メモ魔とは思っていたが、暗号化のスペシャリストとはな」
「海堂さん、貴方は彼らを追いかけて熱に焼かれながら詫び続けてください」
小紫は目を合わせることもなく、ただ吐き捨てた。
「しかし、白鷺も考えたな。
あくまでゼロ基地内での背任行為・処理にとどめておけば白鷺のヤバい連中に知れることもなく
今後の連合とのやり取りに腐れもない。所詮俺も連中に飼われた口か」
綾瀬はおもむろに駆け出し、無防備な海堂に向かって強烈なストレートをお見舞いする。
ゴスっ!
「裏切者!!!」
「その裏切者のおかげで今日まで生き延びられたのは誰だ!?いいか覚えておけ、白鷺はゼロ基地が崩落すれば
必ずお前らを売って連合の靴を舐め始める!お前らは地獄の更に底に行くんだ!小紫、悪い事は言わん今からでも
白鷺に処刑の中止と処罰の再申を伝達しろ、今のお前の権限ならーーー」
「時間だぜオッサン」
「オッサンだと?!レオン貴様---」
レオンは不貞腐れた笑みを浮かべオープンカーのエンジンを入れる。
耐熱ボディに包まれた16気筒のエンジンがうなりを上げる
「く、くそが・・・地獄か・・・まさか自分が乗るとは思いもしなかった」
「・・・ここよりはマシよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・フン」
工員がパネルを操作する。
車はうなりを上げて荒野に向かって走り出した。
これから死するまで恐ろしい熱風に肌を焼かれていくのだ。
「で、どうすんだ小紫さんよ。みんなあんたに注目してるぜ」
ロックを外し、大空に向かってゆくバルーンを見送った後、小紫はゆっくり振り向いた。
ゼロ基地のほぼ全員が小紫に注目している。
「白鷺は関係ないわ、私達ゼロ基地は基地の為に戦う。それは今までも同じだったはずよ」
隊員から、そうだ、そうだとわずかだが声が上がり次第にそれは大きくなってゆく。
「戦いましょう、いえ、戦うわよ、是が非でも!!」
小紫は声を張り上げ、全員が湧きだった。
レオンはたまらず大笑いし、そして叫ぶ。
「おう、みんな頼りにしてるぜ!」
一呼吸置き、その場にいるゼロ基地の皆に聞こえるように言った。
「ーーーーーーーーーー小紫”司令官”!」
白鷺の防衛局は、”先生”は、小紫を次の司令官に任命したのである。
それが口封じのためか、それとも別の意図があるのは小紫にはまだわからなかったが
少なくとも小紫はそれも悪くないと思った。
海堂の処刑から数日後、再び白鷺から防衛局の人間が大挙をなして訪れる。
しかしながらその面子は工員たちが中心で物々しい運搬車両などがひしめき合う様にゼロ基地へと向かっていた。
「一体何事?」
綾瀬は緊急招集を受け、格納庫に降りてきていた。
「まあ来てみろよ、ありゃたまげるぜ」
「なんか白鷺からいっぱい人が来てますね・・・」
先に来ていたレオンや春野、柊が火事場のような現場に呆気に取られていた。
「先に伝えた通り、ついに連合が最後通告を出したわ。下らなければ白鷺、そして何より矢面に立つゼロ基地は
連合の侵攻により崩壊するのは間違いないわ」
まだ着任したばかりの小紫が慣れない司令官用制服に身を包み熱風隊の元へやって来た。
「瀬戸内観測所は数時間前、敵の強襲により破壊されたわ。でも最後に私達の為に仕事をしてくれたわ、命を懸けて」
そういうと小紫は熱風隊の持つ携帯タブレットにデータを送る。
ブリーフィングデータ、その作戦名はゼローーー。
ピクチャーデータには熱風隊が見た事もないドブ色の海を掻き分け進む巨大戦艦が掲載されていた。
データ詳細に目を通してレオンが口を酸っぱくする。
「ヤバいぜこいつは逃げた方がいい。全員で砂漠をさまよう流浪の民でも悪くないんじゃないか?」
兵器に疎い小紫も流石にこのデータの重大性を理解し、レオンに賛同しつつ溜息をつき説明を始めた。
「白鷺によれば海上要塞と呼ばれる空母、青天井というらしいわ。かつての空母を全面改修に加え増改築を繰り返し、
かつてのイージス艦を彷彿とさせるイージスシステムをはじめ、フリゲート艦数隻に匹敵する戦闘力、さらに
幾多の戦闘機を艦載されられる・・・まさに要塞と呼ぶにふさわしいわね。レオンの言う通り逃げようかしら」
「でも、そうはいかないようね。白鷺はやる気なんでしょ?」
綾瀬はわかりきったように顎で格納庫の自信のカゲロウ機を刺す。
「何なのあれ?!あれって・・・飛ぶの?」
柊がすっかり変貌を遂げたカゲロウを見て半ば呆れた顔をしている。
「白鷺から緊急配備されたものよ、向こうからも工員や人員が応援に来ている。
ああ、心配しないで。今回は話の通じない人間ではないから。あの人の差し金かしら」
小紫と熱風隊は人込みを掻き分け、綾瀬のカゲロウ機へ向かう。
「カワセミカゲロウの為に作られた、対大規模状況用換装兵器“Configurable Armament for Major-Scale Engagements”
まあ略すと、CAME・・・?」
「CAMEだろ、どう考えても。何考えてんだ白鷺の防衛局は?難題も運搬用トラックやらオスプレイが来るから
いよいよ逃げ出してきたのかと持ったらこんなの持ってきやがって・・・見ろよ、綾瀬のカゲロウがでっけー
食用芋虫みたいになってんじゃねーか」
カワセミカゲロウ綾瀬機・ケイムシステム装備型は全長約30mあまりの飛行船のような物にカゲロウがすっぽり包まる
ような形で空に向かって鎮座していた。当然対大規模と銘打つぐらいである。痛々しいほどの兵装の数々が装備されている。
「さらにもう一機配備された新型機があるわ」
小紫は更にデータを送る。
それはカラスカゲロウに似たものの明らかにより洗練されたフォルムと兵装が備わった機体が映り込んだ。
見れば、綾瀬機の陰に隠れてフライトの為の最終チェックが行われていた。
「カゲロウシステムを更に昇華させ、脳波、意思による更なるコントロール、微細な操作、よりテクニカルな操作を
可能にした後方支援型の多武装カゲロウ、オオルリカゲロウ」
一同はその機体にしばらく目を見張るが、さらに操縦席と複座席に座る人間に絶句し、そして各々三者三様の反応を示した。
「あれは・・・ちょっと、ちょっと待ってよ!!」
「ひよりと・・・?!」
「三宅・・・三宅なの?!」




