第八章 残火(ザンカ)♯04
”バケモンかあの女・・・それともあのカゲロウという機体の恩恵?!なんにせよ恐ろしい程の旋回能力。
普通なら重力に耐えられず気絶を繰り返すわっ・・・それにこのっ”
「まだよ、まだ!」
夕霧隊副隊長である小波は連合の中でもトップクラスのパイロットである。
過去のエースパイロットの記録を難なく塗り替え、現在は同じ隊の隊長・岩日と肩を並べるほどの腕前だ。
しかしながら、いま彼女の中での自信は音を立てて崩れ落ちて行く。
”綾瀬機、ミサイル警告、回避せよ!”
綾瀬機の中ではゼロが警告を発するがその声は落ち着いている。
この程度で堕ちない事をわかりきっているためだ。
バラララララッ!!・・・・ドンッ!
綾瀬はミサイルを回避するどころか逸れたミサイルをバルカンで撃ち堕とす。
「次は私の番ね。準備体操は終わった?」
綾瀬機が小波のチカガミに牙をむく。
”もっと回れよこの糞機体!!これだからマルチロール(多目的)は!ファイターなら絶対にこんな筈ないのにっ”
小波は回避行動を取るが明らかに綾瀬の遅れをとる。
鏡面外装をすべてパージし、身軽になったもののレーザー射出装置までは外すことはできないためその動きは
カワセミガゲロウに遠く及ばない。
綾瀬機は小波機の後ろにピタリと張り付き、もはや鬼の首はとったも同然である。
”くそっ舐めやがって・・・しかもこうも近いとチカガミシステムも意味をなさない!”
「舐めてんのはあんたの方よ!いつも自分が強いと高を括るからこうなるの!」
バラララララッ!
”綾瀬機バルカン掃射!60パーセント・・・45パーセント・・・着弾確認!”
パァアアアアアン!
小波機の尾翼がバルカンで弾き飛ばされ黒煙と火花を上げる。
”こいつっ!よりにもよって私の尾翼を狙うなんてっ・・・こ、こんな屈辱、あ、阿吽。援護をっ”
あまりの腕の差に小波はそれまで感じた事の無い底から湧き上がってくるほどの恐怖を感じた。
”おい聞いたか、阿形”
”聞いたとも、吽形”
一人であるはずなのだが、まるで二人で呼吸が合う様な声が無線から伝わってくる。
”まさかあの高飛車な副隊長が援護を要請するとは・・・余程の腕と見える、赤い尾翼の女”
”これは面白い、こちらも本気で行くか”
「お前の相手は俺達だっ!とっとと墜ちろよモブ太郎!」
”レオン機、コードスリー実行!”
カワセミガゲロウ・レオン機から鋭く発射されるミサイル、それは一直線に阿吽機へと向かっていった。
しかしーーー。
「チッ!かわしたか、マグレだマグーーーー」
”レオン機、ミサイルアラート、警戒レベル最大!”
レオンのMHDのディスプレイが赤く染まる。
「何だとっ!レーダーに反応は無い、またチカガミシステムというやつか?!」
しかし、阿吽機とは別の反応は見受けられず、目視でもそれらしい機影は無い。
「レオン、真下だ!!」
「?!!」
神谷の叫びに条件反射のように操縦桿とスロットルを動かす。
先ほどまで滞空していたレオン機の辺りを凄まじい数の小型ミサイルが過ぎ去ってゆく。
「これは一体・・・」
驚く神谷は更に目を疑うような物を見る。
上がって来たのは阿吽機。
しかしながら今しがたレオンが追っていた阿吽機もすぐそこにいる。
「もう一機だとっ?!今まで低空飛行で飛んでいたとでもいうのか?じゃあやっぱりパイロットは二人いるのか」
「そんな筈はないっそんな筈はーーー」
神谷は焦り、上がって来た阿吽機を凝視し、MHDでも拡大確認する。
「・・・・・・違う、似てる部分もあるが細部が・・・あ、こいつは・・・レオン!こいつはUAVだ!
最初からUAVに自分のコピーを紛れ込ませていたんだ!」
神谷はそういって今まで撃ち堕としてきたUAVをいくらか確認する、するとやはりどれも阿吽機に似ているのだ。
”疑い深い奴らだ、なあ吽形”
”最初から二人だというのに、のう、阿形”
「しかし、UAVを遠隔でああも気ままに操縦できるものなのか?」
レオンは訝し気に神谷に尋ねる。
「解らん、チカガミシステムがより高度なのか。それともこの吽形が異常なのか・・・」
「聞いたことがある、双子で生まれるはずだった赤子の一人が水子(堕胎)になった場合、その魂はもう片方に渡ると」
”・・・・・・・・・”
レオンの憶測を無線で拾い上げていた阿吽は会話がピタリと止まる。
「つまりは異常者ってことか?」
「異常者?ははっ、こいつはいい!おい異常者!俺達がお前ら”兄弟を”送り届けてやるよ」
”・・・・・・副隊長、そちらには行けない。自身で対応してくれ”
”な、なんだとっ!命令無視するのか!?重罪だぞ!”
阿吽が静かに念ずる・・・すると生き残りのUAVが全て阿吽機に寄って編隊を組んだ。
”貴様らは生かしてはおかない”
「レオン、あの阿形とかいうやつの逆鱗に触れたみたいだな。減らず口もほどほどにした方がいい」
「ハッ!UAVを引き連れたところで所詮烏合の集よ、来いよ異常者」
レオンはスロットルを全開にしてUAVに狙いをつける。
するとそのUAVが訝し気な行動を取った。
”始と終”
”静と動”
”吐て吸え!”
阿吽が叫ぶと同時にUAVの両翼や兵装が全て外れる。
ドォオオオオオオオオン!
”ゼロよりレオン機、ロックオンアラート!!ミサイル警告!どういうことだ!”
「ミサイルだと?!こ、こいつら」
すぐさま回避行動を取るが元々出力がミサイルよりも高いUAVは撃ち放たれた弾丸のようにレオンへ襲い掛かる。
「糞っ・・・こいつーーー」
バァン!
ついに避けきれず、レオン機の右舷を直撃する。
更にーーー。
バァン!
「うおぉおおおお!!」
左舷、本体共に次々へと襲い掛かり、爆炎へと包まれ、金切り音という名の断末魔。
「畜生!レオーーーン!」
阿吽機に翻弄されるがままの神谷に成す術は無く、墜ちて行くレオン機をただ横目で見るしかなかった。
”神谷、大丈夫だ!目視では捉える事は出来なかったが、今こちらで脱出装置が作動したのを確認した!
あいつは最新のカワセミカゲロウだ、悲観するな!”
管制局、ゼロの人間たちは取り急ぎ救援隊を手配しようとするが白鷺の防衛隊に制止される。
(くそこんな時に、使い捨てとでもいうつもりか?!)
その時手元のモニターではカゲロウの整備を担当する工員たちが車に乗り込み、防犯カメラに向かって親指を立てた。
格納庫の隅では数名の隊員がのびている。
(やるじゃないかお前らっ!頼むぞ、あいつもゼロ基地の人間なんだ!)
一方神谷は絶望に包まれていた。
阿吽機に加え、先ほどの数機のUAVがこちらの尾翼を追いかけてくる。
”いったはずだ、生かしてはおかないと”
それまでとは違う冷徹な阿吽の無線から伝わる声に神谷は戦慄し、意を決する。
「----覚悟を決めるか」




