第八章 残火(ザンカ)♯02
鳴り響くサイレン、スクランブル発進。
播磨熱風隊、連続6度目の出撃。
「しんどいよ・・・気分が悪い」
「大丈夫ですか?!もしかしてつわりとか・・・」
春野は柊を心配して複座の後方から直接声をかけた。
今は体調面を考慮し、柊は春野と一緒に複座式のカラスカゲロウ機に搭乗している。
「いいの、いつもの事だから」
「柊、お前は前に出なくていい。後方支援に当たってくれ。春野、何か異変があったらすぐに教えるんだ」
「了解です隊長!」
「真面目だなぁ、相変わらずの主人公気取りかぁ春野?」
レオンが出力を上げ隣接して自身の機体を揺らす。
「やめてあげて、みんな疲弊しているの」
綾瀬がたしなめる。本来ならそこで皮肉の一言でもあるのだが応答がない。
「今週に入ってすでに6度目だ。もはや心身・機体共に満身創痍だな」
神谷がため息交じりに吐き捨てる。
先の一件以降、連合のゼロ基地に対する猛攻は凄まじいものがあった。
ゼロ基地だけではない、東海地方のロック基地も同じような猛攻を受けているにもかかわらず
勢いがとどまることが一向に訪れないのだ。
UAVのみ、時には夕霧隊の数名が引き連れてくることもあった。
「とことん疲弊させる気だな。奴らは本気で攻めていない、散々痛めつけた後に無条件降伏を喉元に突き付けるんだろう。
こんな事なら白鷺の連中もとっとと降伏すればいい。連中はまだウダウダ言ってんのか?」
レオンは声こそ元気なもののその顔は疲労が滲み出ていた。
「小紫さんの話では連合は好条件を出しているにもかかわらず一向に首を振らんらしい。
しかも今白鷺の内政はゴタゴタらしいしな」
神谷は半ば諦めたような口ぶりだった。
”ゼロより熱風隊、北東よりUAV十数機を確認---”
「またなの・・・もううんざりなんだけど。もういい加減にして、お願いよ」
柊の顔はとても身ごもっているとは思えないほど悲壮に満ちた顔をしていた。
そして三宅も白鷺シェルターに搬送されたまま現状不明である。
「柊、リラックスして。感情に駆られると死ぬわよ」
「副隊は相変わらずね・・・逆に惚れ惚れするわ」
疲弊しているものの柊の変わらずの皮肉ぶりに少し胸を撫でおろす綾瀬。
その時、無線のゼロが通信が割れんばかりの勢いで叫ぶ。
”そんなまさか・・・北西からも数機のUAV及び有人機・・・これは空蝉隊なのか?!”
「嘘でしょシンキロウ?!あっちだって連合の波状攻撃を受けているはずです!」
春野がコンソールを弄り取り急ぎ確認する。
「マジなの?!」
「・・・・・・IFF照合確認、シンキロウが二機。内の一機は血の気が多い奴の機体・・・」
「ハーグマンだわ。ヤバいわね。ゼロ、連合の方はどうなっている」
綾瀬は照合結果を自身のMHDにフィードバックさせながら取り急ぎゼロに確認を取る。
”・・・連合は有人機が一機。いや、二機か?”
「既に例のチカガミシステムを使っているのかしら」
「だとしたら解析不能ですよ。こっちには完全に未知の領域ですよ」
春野は怯えたような声を上げる。
ゼロ基地のカゲロウは奥の手としてカゲロウシステムを有する。
それは自機に近づく敵機を空気中の大気を揺らぎらせレーダー照射不能・視認困難にするものだ。
しかしながら敵勢力はそれを上回らんとする奥の手を搭載する。
空蝉隊、自機を中心に半径200m~300mあまりの電子機器を狂わせるシンキロウシステム。
そして明るみになった連合・夕霧隊。きわめて広範囲においてレーダー・GPSなど位置情報を全て
誤認させるシステム・チカガミシステム。
シンキロウシステムはまだ勝算はあった、ある一定の距離を保つことが出来れば活路はいくらでも見いだせる。
しかしチカガミシステムは違う。
これまでの交戦記録により常に位置情報が常にランダムになるらしくやりようがないのだ。
しかも初交戦の三機で来られただけでも既に戦場は混乱を極めていた。
”連合が早いっ、作戦区域侵入目前・・・3・・2・・1・・今!”
「何だこいつらーーー」
肉眼で捕えた神谷は絶句した。
二機の機体が裏側をぴったりとくっついたように滑空しているのである。
実際に接続されているわけではない。
僅か数十センチの隙間だけを開けて寸分狂わず大空を駆けている、しかも機体を側面にした状態で。
TF-22 地鏡(type-w)
”あれがゼロ基地・熱風隊か吽形?”
”ああそうとも阿形、もうじき空蝉隊も来るはず。間違えるなよ阿形”
「何なのあの連携・・・人間離れしてる」
二機の気味が悪いほどの連携に一同は唖然とした。
”南西より敵機作戦領域侵入、有人機2機及びUAV多数!”
「今管制塔より既に第二熱風隊が空蝉隊に対応するよう指示が出てるがたったホープ上がりの3機じゃ分が悪すぎる。
柊、春野、行ってくれるか?!」
神谷はMHDのデータを確認しながら人員配置の再申請を要求した。ゼロ基地側のUAVも全て空蝉隊に回すよう追記も忘れない。
「でも、こ、これでは連合を隊長達も3機で対応することになりますよ、いいのですかーーー」
「俺達は大丈夫だ、目を付けられないうちに、さあ早く!!」
神谷は急かすように畳みかける。
柊機達は一間置き、何か悟ったのか何も言わずに急速旋回した。
「---やさしいわね、隊長」
綾瀬はわかっていた、連合は言わずもがな強豪である。
身重の柊の生存率を上げるには連合から少しでも遠ざけた方がいいのである。
その時、ロックオンアラートと同時に轟音が鳴る。
「綾瀬!!」
「?!」
レオンの叫びが耳に突き刺さると同時に操縦桿を即座に傾ける。
その直後に綾瀬のカゲロウの尾翼すぐ横を閃光が走った。
「まだだ!!散開せよ!散開だ!!」
三機は一気に出力を全開にして四方八方に散る。
だが閃光は熱風隊を追う様に縦横無尽に反射し、熱風隊に襲い掛かる。
ビュンビュン!!ビュン!!
「なんだこれはっ!!」
「こんな兵装は聞いたことがない!!ゼロ、どうなってる?!」
神谷は全身を震わせながら必死に機体を傾かせる。
”熱源が空中で屈折している?!こんなことが可能なのか・・・いや、ちょっとまて、どうしたーーー?!”
「管制塔の奴ら何やってんだっ、このままじゃすぐに防衛線抜かれてあいつらが真っ先にやられちまうぞ」
レオンはよけつつも連合のUAVを何とか撃ち堕とすことに成功している。
ほとんど神業であるが、その神業をもっともお家芸とする綾瀬は閃光をよけつつも沈黙を貫いていた。
自身もいっぱいいっぱいであるが、構わなくて良いとわかっているものの綾瀬の事が心配で思わず声をかける。
「綾瀬!大丈夫か?!」
「・・・・・・」
綾瀬からは応答がない。
「どうした綾瀬、トラブルか?!」
いつもなら真っ先にUAVを撃ち堕としている綾瀬が攻撃の一つも仕掛けることがなかったのでレオンもたまらず声をかける。
「・・・・・・」
それでも綾瀬から応答がない。
「ゼロ、綾瀬機はトラブルの様だ至急---」
「有る」
応答が見込めなかったため神谷がゼロに救援を求めた途端、綾瀬から応答があった。
”一体どうした綾瀬!?何があったというんだ”
「・・・・・・この大空に風船が舞い上がってる」




