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播磨熱風隊―Passion, Innocence, and the Sky War―  作者: かがみひこ
第八章 残火(ザンカ)
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第八章 残火(ザンカ)♯01


ここは第3北陸連合前哨基地、通称”連合”と呼ばれて親しまれる基地は

確かに土地は摂氏48℃を超える高温とそれに伴う熱風に晒されているものの

明らかにゼロ基地、ロック基地とは異なる様相だった。

まず、基地の外観及び周辺環境。

基地は汚れてこそいるもの比較的奇麗であり整備も行き届いている。

半壊した部分などもなく、瓦礫なども皆無である。

アスファルトは高温や湿地・衝撃にも耐えゆる特殊素材を用いているのか

ゼロ基地のような使い物にならないほどひび割れている様子は全くない。

基地内部も実に快適なものであった。

かつては都心部のみで運用されていたドローンやロボティクスによる基地保全が徹底されており。

ゴミはおろかチリすら落ちている様子がない。

空調も戦前の最新設備が導入されており、熱くはあるものの自然に汗をかくというほどでもない。

基地周辺に配備された対空砲火関連は全てAI制御による完全自動迎撃システムが導入されている。

稼働率は常に90パーセントを超える。

更に特筆すべきは人員である。

確かに人口が極限状態に移行した今、少年少女兵も数多くみられる。

しかしながら基地で働くもの皆服装はきれいに整えられており、清楚で清潔感があった。

更にはパイロット。

推定では15~20代といった年代であることはゼロ基地などと変わらぬが、その待遇は

桁違いである。

必ず”マネージャー”と呼ばれる成人サポーターが必ず付き、日々の訓練から

栄養管理、当人の不満や要望聞きに至るまで徹底した管理が行われる。

他のものに至っても訓練生、工員、隊員、皆比較的健康である、つまり元気なのである。

そこから察するにこの連合基地は極めて高度な生活水準である。

つまりはゼロ基地と白鷺シェルターのような格差が見られないのである。


 今日、ゼロ基地の”挨拶”から戻って来た夕霧隊の3人は明らかにいつもと様子が違っていた。

「いいからほっといてって言ってるでしょ!!」

「しかし、チカガミのデータでは極めて懸念される脳波が・・・」

「うるさいぃ!」

副隊長の小波は一際機嫌が悪く、まとわりつくメンタルカウンセラーに罵倒した。

「いいんだ先生。そいつは荒れている、暫くほっといてやれ」

隊長は手に持っているエナジードリンクを大きく傾けて煽ると近くのごみ箱にストレートに投げ込んだ。

副隊長は不機嫌さはとどまることは無く、大股で更衣室へと行ってしまった。

「岩日、いいか?」

その時、パイロットたちの前に長身の屈強な成人男性な立ちはだかる。

「教官か、あんたの言ったとおりの所だったぜ。ゼロ基地はやはり相当の地獄らしい」

隊長は鼻で笑いながら傍らにいたマネージャーからタブレット端末をもらい、機体項目のチェックを入れ始める。

「副隊長がずいぶん”ヤキ”を入れられたようだな?ゼロ基地の面々はそんなにヤバい連中なのか」

教官は隊長の隣に並ぶとともに歩き出し、格納庫で整備されるチカガミを流し目で見る。

そこには黒く焼け焦げた白銀の機体に群がる工員たちがいた。

「まさか基地でもトップクラスの小波がな・・・」

「連中のレベルは俺達とはそう大差ない、が一人一際ヤバい奴がいる」

「ああ聞いた、赤い尾翼の女か。ロック基地の連中の中にも熱を上げてるやつがいたようだが

・・・どうだ、堕とせそうか?」

教官は顎に手を当てその無精ひげをゆっくり撫でた。

「堕とすも何もそれが仕事だ。それ以外は無い」

隊長は何ら動じることなく淡々と述べる。

「愚問だったな。夕霧隊の別動隊は既に母艦で待機している・・・司令官は2~3日のうちにもーーー」

「それなんだが、提言がある。司令官に直訴でな」

「お前がか?珍しい。なんだ言ってみろ、俺が代わりに司令官に言っといてやる」

そういうと隊長はポケットからメモリーチップを取り出すと後ろにいた人間を手招きする。

「ミズ・ビショップ。これを頼む」

「承りました」

ミズ・ビショップが受け取ったものを見て教官は怪訝な顔をする。

「あれはなんだ?」

「今にわかるさ、それよりも作戦についてなのだがーーー」


連合の襲撃から数日後のゼロ基地---。

「ーーーそれではこれからはパイロット及び訓練生は完全監視管理体制を取ると?」

チカガミ・連合とのファーストコンタクトを乗り切った後、待っていたのは事後処理も早々の

白鷺防衛局によるゼロ基地の完全掌握であった。

小紫顧問、そして隣に座る如月教官は目の前にいる海堂司令官及び白鷺の防衛局幹部と真っ向から対峙していた。

「お言葉ですが司令官、これまで幾度となく基地の窮地を乗り越えてきたのは播磨熱風隊をはじめとした

子供らです。ただでさえ卑屈な生活に加え、これからは個人の行動すら制限するなど--」

「その結果が先の綾瀬以下連中の事件を引き起こしたと白鷺以下上層部は見ている。もちろん私もだ。

もはや後の祭りになったにせよ、首謀者の境は死亡、連合からの自責悔改めの宣告を受けた以上もはや一刻の

妥協も許すわけにはいかん!」

”死亡”という単語が耳に入った途端如月教官は拳を握りしめ抑えきれぬ怒りを懸命に耐えながら噛みついた。

「小紫さん、尻尾を切った馬鹿野郎がなんか言ってるぜ!?」

「如月教官、瀬戸内の詰所が人員を切望していたぞ?どうだ、ここより楽しめるぞ」

白鷺の幹部がイヤミったらしく如月に語り掛ける。

(チッ!)

「如月教官、落ち着いて。まだ決定ではありません、まだ申し送りはいくらでもできます」

小紫の言葉を聞いて白鷺の幹部は下品な笑い声を上げた。

「まあ、意見があるならいくらでも言うといいさ。以上、話は終わりだ!」


会議室を出た小紫と如月は肩を落として蒸し暑い廊下を歩く。

「あの野郎・・・あんなやつとは思わなかった。しかもバレたらバレたで開き直りやがって。

今まで生きてこれたのは自分達の陰ながらの支援のおかげだぁ?!UAV飛ばす金が有ったら・・・」

「もうやめましょう」

「小紫監査・・・顧問」

「不貞腐れないで如月さん、私も基地の人間になった以上絶対にあの子たちを守って見せる。

けど今は様子を見るしかないわ・・・」

真剣に考える小紫を横目で見て、如月教官は頬を緩ませた。

「あんた、話せる奴だったんだな」

「??どういうこと?」

「ああいいんだ、こっちの話・・・。それよりもなんかあったらいつでも言ってくれ。腕っぷしは自身があるからな」

如月は照れ臭そうにそういうと女とは思えないほどの上腕二頭筋を小紫教官に見せつけ、

今まで見せたことないような笑顔を見せた。


全ては白日の下にさらされた。

とうに日本の政府機関はマヒしており、それぞれの自治が半ば独立した形で機能していたのである。

しかしながら、待っていたのは独占と奪取である。

日本は数こそ知れぬものの、豊富な資源を持つ地域ごとに分断したのである。

そんな中でも連合は名前通りそれぞれの自治と連携を取り、さらにはマヒしていた政府機関を徐々に機能させていった

一大勢力である。

連合は日本を再び一丸とするために多方面からあらゆる方法を使い各方面の自治に接触するが

全てがいい返事をくれるわけではない。

そんな中、西日本の中ではかなりの豊富な資源を有する白鷺シェルター・及びゼロ基地の存在が未だにつかめなかった。

何故なら多数のUAVが日夜問わず飛び回り、ジャミングをかけ、不透明にしていたのである。

東海・第六前哨基地も保有資源共に比較的大きな規模の基地であり、これまでにも水面下で交渉を続けてきたものの

新造航空兵器・シンキロウの量産とともに交渉決裂、この度の事態に至った。

いわば内戦、何時ぞやの戦国時代を新しい形でなぞっているのである。                                                                                                                                                                                                                                                                  

古来の歴史の偉人もさぞ嘆いている事だろう。


疲れ切った小紫が自室に戻ったのは夜も遅かった。

白鷺より、自由を奪わんと言わんばかりに報告書などの要請が半端なく来るのである。

いつもの蒸し暑さが今は逆に安心感を与えた。

ばたっとベッドに倒れこむとふと頭の中にある記憶がふとよみがえる。

忙しいさなか、仕事に明け暮れたのはそう。

それは榊原とともに白鷺シェルターで監査官として歩んだ日々であった。

それをあんな結末になるとはだれが想像したであろうか。

そういえばと、小紫は自室の机へと目をやる。

身を起こして机の引き出しをおもむろに引き出すとあるメモ帳を取り出す。

それは、自身の最後の直前まで書いていた榊原のメモ帳だった。

必要なものはデータだけで良いと、この証拠品に限って自身の預かりになっていたのだ。

(今更白鷺の連中に渡す必要もないか・・・でも、あの人最後の最後まで書き続けたわね)

ペラペラめくってみると、本当に際まで書いていたのがわかる。

白鷺に尻尾を掴まれた後も、無意味だとわかっているのに書き続けたのであろうかと小紫は疑問に思う。

そしてそのページが終盤まで行く頃、ふとある事に気付く。

(これは・・・最初の頃の暗号文とは違う?あ、これは!)

メモ帳の最後の方へ書かれていたそれまでの暗号文とは異なり解読方法も異なるものだった。

(自分の処罰が決定されるのを見越して書いたものかしら?待って、これ昔の暗号・・・?

だったら私にも出来るはずっ)

急いでタブレットを取り出し解読に当たる。

そして新たになった、最後のページに書かれた最初の文面を見て小紫はこみあげてくる

涙をぐっと抑えた。


”小紫水連 監査官へ ”


”君がもしこれを解読する時は私はきっとこの地獄とおさらばしているに違いないはずだ。

何故なら君は先輩であれど不正などは一切見逃さない防衛局きってのエリートだからな。

きっと証拠も君が掴んだのだろう、まったく君の信念には恐れ入るよ。

だが私は私の責任においてやった事の結末だ、恨むことは無い。”


”私は水面下ではあるがあらゆる情報を収集してきた。それが無駄になろうとも私はふたたび、

かつてのような日本を取り戻すために。

これを見る頃には日本に散らばる御上ども身内同士で資源を食い合っているのが君の耳にも届いているはず。”


”ここにはかつての技術者として私が得てきたカゲロウ技術関連・白鷺・ゼロ基地に関する不正・不徳行為の情報・証拠を得た。閲覧の為のキーを記載する。キーを刺す場所は君になら解るはず。”


”小紫君、君には随分と重い荷物を背負わせることになるかもしれない。しかしながら監査官と責務を

ぜひ果たしてほしい”


”手短ではあるが君の健闘と健康を願い、ここに記する。 防衛局監査部一級監査官 榊原誠一”

「・・・ありがとう榊原さん。あなたは最後まで先輩だったんですね。

それを私はいつまでも気づいてあげられなかった」

読み終えた後、小紫はゆっくりタブレットを置くと一度は脱ぎ捨てたエアコンジャケットを羽織る。


「まだ遅くない。やるしかない・・・いや、やり遂げて見せる」

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