第七章 地鏡(ちかがみ) ♯05
第七章 地鏡 ♯05
「大丈夫なのか綾瀬?!白鷺の連中は--」
「時限付き。連中とことん地獄に叩き込む気だから」
上空へ現れた綾瀬は旋回しワザと神谷へ機体の裏側を見せた。
「・・・これは?!」
一瞬であったが直ぐ視認できた。コクピット裏側に明らかに異物がついている。
それが取り付けられたのがセムテックス爆弾であることは明白だった。
「・・・脅迫かよっ畜生め!」
「どうした神谷、まあ連中の考えそうなことは大方検討もつくがな」
レオンも綾瀬の張り詰めた声に大体の事情は呑み込んだ。
「しかも時限付きって言ってましたよね?ひょっとして時間以内に撃墜しなくちゃ大変なことに・・・
綾瀬さん大丈夫でしょうか」
春野が戦々恐々とする。
「綾瀬!お願いよ何とかして!」
柊の悲鳴じみた懇願に綾瀬は一瞬息を飲むも冷静に答えた。
「柊、司令官から事情は聴いたわ・・・おめでとう」
「えっ・・・綾瀬・・・」
柊は驚いた。本人の性格から罵倒されるのは承知の上だったが以外にも出た言葉は祝いの言葉だった。
「綾瀬お前・・・」
神谷も思わず綾瀬を心配する。
「・・・守ってあげる。あなたはこの地獄を抜けなさい、三宅と一緒に。
私はもうこの地獄でしか生きることが出来ないから」
その諦めにも似た綾瀬の言葉に先ほどまで感情に身を任せて自暴自棄になっていた柊は一瞬にして現実に引き戻って来た。
「・・・ごめんなさい、私、わたしは」
柊が嗚咽を漏らす中、神谷がふと口にする。
「なら俺も付き合うよ、その地獄」
鳴りやまぬロックオンアラートとバルカン砲の吹き荒れる中、神谷がしれっと口にした。
「・・・馬鹿」
「おいおいおいおい、神谷!抜け駆けするなといったはずだ!
いいじゃねーか地獄でしか生きれんでもな。地獄も住めば都だ」
綾瀬が照れる中、レオンがすぐさま噛みつく。
知らない間にいつのまにか打ち解けあっていた神谷とレオン。
極限状態にもかかわらず綾瀬はそれがなにか面白くて柄にもなく涙ぐみながら笑った。
”なんだこいつらは・・・今は戦闘中だ、私語などもってのほかというのに”
地鏡に載る敵隊長は無線を聞きながら呆然としていた。
先ほどの空蝉隊と刃を交えた際はいかにもコンバットハイになった青少年連中といった感じであった。
しかしながら眼前に映るこのカゲロウという戦闘機に乗る連中はまさに”風変り”だったのである。
しかし、そんな戦場での甘えを許さなかった敵機のうちの一人が綾瀬に迫る。
”熱風隊、私が相手だ!”
少し幼さが残る女の声が熱風隊の無線に割って入る。
ビぃぃぃぃー!!!
”綾瀬機、ミサイル今!緊急回避!!多数?!マイクロミサイルか!”
綾瀬はキリモミしながら急速降下し回避行動に移る。
「綾瀬!!---スウォームパターン弾幕放射!」
”柊機、コード:M-Scatter、実行!”
いち早く察知した柊機が間に割って入り弾幕を展開、相手のマイクロミサイルを相殺するが
綾瀬機を負ったと思われる敵機は既に敵機は柊機の後方についていた。
しかしながらレーダーの敵機は綾瀬を追っている。
「な、何でよっ!!一体どうなってーーー」
”邪魔をするなぁ!”
ダダダダダダッ!!!
白銀の機体、地鏡は柊機を通り過ぎる。
その直後に柊機は片翼から火柱を上げた。
”柊機、バードオブスカイ!緊急!バードオブスカイ!”
「いやぁぁぁああああああ!!」
「ひいらぎぃ!」
綾瀬が叫ぶ。
柊機は撃墜は奇跡的に避けたが既に戦闘不能に陥っていた。
”雑魚のくせに直前で軌道を変えるとは・・・いや、偶然か?”
少女の地鏡は悠々と身を翻し、再び綾瀬に狙いを定めた。
熱風隊は助けに行こうにも隊長機とバディを組んでいる機体に翻弄されている。
「いいわ・・・来なさいよロリ野郎、顔面にぶち込んであげる」
”ろり?!ロリ・・・・貴様ぁあああああ!!!!”
そのトラの肖像が描かれた敵機を操る少女が眼を剝き牙を出す。
綾瀬は挑発しつつも頭は冷静であり、自身の機体のMHDレーダーを切った。
それをすぐさま神谷が察知する。
「綾瀬正気か?!」
「大丈夫、視力は両眼とも2.0よ」
「そういう問題じゃーーー」
綾瀬機は地鏡の進行方向へと一直線へと向かい合った。
”ハッ、ドッグファイトって訳?!いいわ、付き合ってあげる。女は度胸よ”
地鏡もその挑発に乗るかのように出力を全開にする。
両陣営、その青空での決闘に息を飲む。
1000m・・・800m・・・500m・・・200m・・・
両機が瞬く間に速度を上げ、瞬時にマッハ1にたどり着いたとき。
0m!
お互いの機体は交錯した。
”ハッ!馬鹿!ビビってんじゃーーー”
その時、少女の眼前にコードのようなものが飛び込んでくる。
”綾瀬機、コード:GP3、実行!!”
ドォオオオオオオオオン!
白銀の機体はその急速停止の重力も物ともせぬような動きで回避しようとするが
綾瀬が己も省みずすぐさま直前に射出した爆導索を爆破したため熱風が敵機に直撃する。
”うううううううっ!”
「やった!綾瀬ぇ!」
熱風隊の面々が歓喜の声を上げる。
地鏡はまるで焼印を押されたかのようにその美しい白銀の機体を黒く染めた。
”嘘・・・そんな、私が・・・被弾?!私は今までそんな事一度もーーー”
”帰還するぞ副隊長、視察は十分だ。ミズ・ビショップ、副隊長の援護を。まわり消火剤を撒いてやれ”
”イエス、実行します”
ミズ・ビショップと呼ばれた美しい女性の乗った機体は優雅に被弾した地鏡の方へ向かう。
”岩日隊長!まだいけます!お願いです、こんなーーー”
”命令だ、二言は無い”
”・・・・・・わかりました”
敵機の引き際は早く、瞬く間に作戦外空域へと向かっていく。
「何とか乗り切ったか・・・」
「柊さん!大丈夫ですか!!早く緊急着陸を」
「・・・うん、わかった」
力なく返事をする柊の声を聴いてひとまず胸を撫でおろす神谷や綾瀬。
そして敵機が作戦外空域へ出たのを確認するとゼロへと無線をつなげる。
「約束通りよ。海堂司令官。敵機は撤退に追い込んだわ」
綾瀬が無線で海堂に伝える。
”さすがだな綾瀬・・・タイマーはもう止めてある”
海堂の手元のモニターには綾瀬機にセットした爆弾のタイマーが10秒を切っていた。
沈みゆく太陽を背に何も語ることなく帰路に就く三機のチカガミ。
”悔しいか副隊長。しかしこの北陸連合きっての夕霧隊に噛みつくとは大したものだ”
”隊長、小波(副隊長)はショックを受けているのです、ご自重を”
隊長の小言を軽くたしなめるミズ・ビショップ。
しかし、当の副隊長・小南は何も言い返すこともなく今まで感じたことのなかった感情の
理解に苦しんでいた。
そしてふと腹の奥底から恨み節を吐き出す。
”許さない、あの赤い尾翼の女・・・”




