第七章 地鏡(ちかがみ) ♯03
「ひより、これは?!」
見た事もないカゲロウ機。
ひよりに連れられるまま向かった先に見たものはだだっ広い倉庫のような一室。
そこに待ち受けていたのは中央に鎮座するカゲロウ機と他カゲロウのパイロット達も来ていた。
カゲロウ機は新型と言う訳ではなく、見るからに現行機よりもやや古いといった様子だった。
しかも両翼が無く、代わりに無数のケーブルが繋がっている。
「このカゲロウはゼロ基地のメインAIを搭載しているサーバーに繋がっている所謂バックドア、外部接続装置だ」
カゲロウのコクピットを覗き見るレオンが興味深そうにあちこち探っている。
「貴方達、パイロットは白鷺の命で全員軟禁状態のはずよ?!」
「小紫さん、俺達もひよりに言われてここまで来たんです。まあ、俺たちはここにずっと詳しいですから。
それよりも・・・」
神谷が部屋の隅を指差す。
そこには春野と柊に介抱される境の姿があった。
脇腹、肩、左ももなど複数の銃創が見られおびただしい出血の跡が見られる。
「境さん?!」
小紫は事態を察してすぐに駆け寄るが既に時遅しといった様子だった。
「・・・ざまないな、海堂にやられた。何とかモルヒネで持ってるがもう時間の問題・・・かもな。
まあいいんだ、今までやってきたツケが回ってきただけに過ぎない、ぐっ!」
境はもはや息も絶え絶えといった様子だった。
「一体何があったの?」
「決まってる、海堂は白鷺の人間だったというだけの話だ。
白鷺の目を盗んで裏で境とコソコソしてたもんだからそれがバレる前に境を切ったと言う訳だ。
ゼロ基地で起きた事なんざ何とでもいい訳がつく」
レオンは動じることなく小紫に容易に推測されることを伝える。
「でも、いくら非認可の兵装を売ったところでペイカードは細かく管理されているはずよ?
白鷺は事態を把握していたはず」
それを聞いた小紫は前から疑問に思っていたことをレオンに尋ねた。
「そんなの決まってる、白鷺にも裏にいたんだよ。整備長が俺らで金を稼いで海堂がその金を洗う。
勿論、白鷺の窓口となる”鷹取達”とな」
「・・・やっぱりせんせ・・鷹取は」
小紫が苦い顔をする中、すべて観念したかのように境は理解を示した。
「ああ、そういう事だ、俺達は真っ黒だ・・・くぅうう、ああ、もう視界がさだまら・・・」
そこにいつも境と一緒にいたひよりが駆け寄る。
「遼一さんっ!」
以外にも幼くも口にしたのは”苗字”ではなく”名前”だった。
「ひ、ひより、すまんな、母親に・・・合わせる顔がない。神谷・・・前話した通り、頼むぞ・・・」
「整備長・・・貴方・・・」
小紫はひよりと遼一の双方の顔を見る。
そこには明らかに親子というよりは別の表情があった。
「ぐはっ・・・ああ、ようやく・・・おわる・・・もう・・これで・・・」
それ以上整備長、境が口に開くことは無かった。
彼もようやく地獄から解放された一人なのである。
「ひよりはゼロ基地で生まれた・・・最初のエースパイロットの子供だ」
神谷は境の亡骸に傍らにあったシートを見つけてかぶせるとゆっくり口を開いた。
「そんな、この子が」
「境さんが少しずつ教えてくれていた。この時代の事、すべての事・・・さあ、ひより」
神谷に促され、ひよりはゆっくりとカゲロウのコクピットに入る。
「一体何を?」
「このカゲロウリンクはひよりしかできない。このリンクで今からゼロ基地のセキュリティロックをすべて外す」
それを聞いてレオンは思わず高笑いをした。
「ハハハハハ!面白い事するな!ゼロ基地は外敵脅威の前に白鷺に潰されるぞ!」
しかし神谷は何ら臆することなく続ける。
「違うな、これによって”とある勢力”がゼロ基地の存在をようやく知ることが出来る。
つじつま合わせが出来ると」
神谷の台詞にレオンは心当たりがあるのか黙り込む。
そして、ロック基地での出来事を経験していた小紫が口を開く。
「まさか、ゼロ基地も他の勢力にUAVを差し向けていたの?!」
「正確に言うと、白鷺の命を受けて、です。小紫さん」
「嘘・・・やっぱり私達は」
そういっている間に、ひよりの乗るカゲロウ機から電子音やファンの回る音が鳴り響く。
MHDをかぶったひよりは手元にある古いコンソールを凄まじいスピードで叩く。
それは今までの印象とはまるで違う執念深いものがあった。
「・・・・・・・・・・おわった」
ウウウウウウウウ!!!
”緊急、緊急、コード66番。特別対策班はマニュアルに従いコウドウセヨ、繰り返すーーー”
今まで聞いたことのないゼロ基地のアナウンスが流れる。
AIによるアナウンスだろうか?
「これで、ゼロ基地の存在は防衛局・防衛省・・・日本の全てにバレる」
神谷は意を決したように言った。
「いままで境が陰でこそこそやっていたのはこれの為だったとでもいうのか?これで何の得がある?」
レオンが疑問を口にする。
「ゼロ基地のハッキング。セキュリティロックを外して全てを明るみにする・・・そして終わらせる」
神谷は持ってきていたパイロットスーツに着替え始める。
「どういう事なんです?私にはさっぱり・・・」
春野が事態を把握できない様子を口にした時だった。
ピピピピピピィ!ピピピピピピィ!
「何よこの音・・・?!」
その時、先ほどのアナウンスから聞いたことのないサイレンに切り替わる。
柊はその不気味ともいえるサイレンに戦慄した。
「スクランブルですか?!」
「しかし、今までとは少しサイレン音が違う。これはなんだ?!」
一同が混乱する中で、神谷だけは冷静に皆に落ち着くよう両手を前に出してジェスチャーする
「遼一さん、整備長から聞いた。これは想定外の侵攻の合図・・・噂通りなら”連合”が来るんだ」
「連合・・・連合って何?いったい何なの?!まだ私達訳の分からないものと戦うの?!」
そう言って狼狽する柊を小紫が支える。
そして神谷が円陣を組むよう一同に指示する。
「さあ、ブリーフィングをするぞ。この状況でゼロ基地が解放されるかどうかかかっている」




