第六章 空蝉 ♯03
「・・・なあ、あんた。あんたは外敵勢力なんだろ?」
男性は銃を握りしめたまま恐る恐る小紫たちに問う。
それは怯えているようにもすがるようにも見えた。
「貴方達こそ、国外から来た外敵勢力に脅されてやってんじゃないの、白鷺にはそんな報告は上がってないけど」
「白鷺・・・嘘だろ?!」
敵兵たちは各々顔を見合わせて信じられないといった様子だった。
それは大人たちについている銃を持った子供達も同じようで訳が分からないような顔をしている。
やがて女性の敵兵が口を開く。
「私たちの話では白鷺はとっくに壊滅させられているって。少なくとも中国地方の人間はみんなその認識でいるはずよ」
「それはこっちの台詞よ、防衛庁なんてとっくの昔に解体させられているし今は各地に拠点を置いた防衛局が
各地の国防を分担しているわ。第6前哨基地なんて聞いたこともない」
小紫の顔は徐々に険しくなっていく。
お互いの認識が”壊滅させられている””もう無い”といったものが
ある結論へと辿り着かせようとしていたのだったのだから。
「いったいどうなってるの・・・」
綾瀬が小紫や敵兵の顔色を伺う中、三宅が事態を察知したのかゆっくりと口を開く。
「いい加減認めようぜ、お互い薄々感づいているだろ?」
そのセリフに敵兵は賛同するように言った。
「きっと私達は”身内”で争っているのね?」
「そんなまさかそんな、デタラメ言わないで」
小紫はあえて真実を遮るように声を張った。
「じゃあこの間攻めてきたSUは?ロシアの主力戦闘機、あれこそまさに国外勢力じゃないの?!」
「それ、もしかして北陸の人間じゃないのかしら・・・」
顎に手を当てながら女性が言うのを今度は男性側がフォローする。
「たぶんそうだ、北陸の人間は接収した敵戦闘機や旧自衛隊機に改修して前線に送っているらしいし。
だがそれが攻め込んできたなんて言うのはどういう事なんだ?北陸の人間こそ対外敵勢力の部隊ばかりのはずだ」
それはまるで答え合わせにも似た感覚だった。
彼らにとっても”綾瀬達”は外敵勢力、国外から攻め入ってきた人間のはずだった。
それが同じ日本人としてここにいるという事実。
「そ、それにそもそも、北陸だってもう私達には風前の灯火だって・・・まともに動いているのはうちの前哨基地だけだって」
「じゃあ、じゃあ、じゃあ、それじゃあ・・・私・・・どうしたらいいの・・・」
すっかり憔悴してしまった小紫に代わり綾瀬が核心を突く。
「私達は知らず知らずのうちに内乱を強いられているんだ。同じ日本人同士で自分たちの土地の資源を奪い合っている」
綾瀬に続いて三宅も包帯でその表情を見ることはできないが明らかに憤りを持った感情で言った。
「絶対に白鷺の上の人間は絶対わかってるぜ。それを合えて黙って略奪の片棒を背負わせているんだ。
何年も、もしかしたら何十年も」
それに敵兵たちも賛同した。
「私達も、外敵勢力と言われている連中とずっと戦っている。年端もいかない子供たちに頼りながら・・・」
「子供達・・・」
歳の近い綾瀬や敵兵の子供たちが顔を見合わせる。
”おい、向こうはくまなく捜索したが見つからん。あっちをもう一度重点的に捜索するぞ”
暫く光源に動きがないのを本体が察知したのか上官が綾瀬たちの方角を見て部下に無線で伝える。
それは無線機越しに綾瀬たち一同にも伝わった。
男性が銃を下ろして、綾瀬たちに逃げるように囃し立てる。
「やばい、別班がこっちに向かってきている。あいつらは生粋の”兵隊”だ。
おいあんた、見過ごしてやるから早くいけ。先に行けばなんか足があるんだろ?」
「貴方達に出会って私達も議論の必要性が出てきた。私たちの事は気にしないで」
それを聞いて綾瀬や小紫も銃を下ろした。
「大丈夫なの貴方達。このことがバレたら大変じゃないの?」
「少なくとも俺たちの取り巻き連中なら大丈夫だ、それに議論は頭の固い連中の耳に届かない範疇でやる。
今日知りえた事実は少なくともこの地獄を脱するキッカケになるかもしれない。
さあいけ急ぐんだ。怪我した子を大事にな。うちにも似たような子が沢山いるが皆、懸命に今日を生きている。
希望をもって生きろ」
「・・・ありがとう、恩に着る」
男性に言われ、綾瀬は軽く感謝を述べた。
「おねいちゃん、さようなら」
「あなたもね、怪我しちゃだめよ」
女性に連れられていた銃を持った少女が手を振る。
綾瀬はそれを見て、きっと持っている銃の意味すら解ってないんだろうと歯がゆさを感じた。
「はは・・・綾瀬の口から恩なんて言葉初めて来たぜ。こりゃ嵐でも来るんじゃないか」
「不吉なこと言わないで、さあ行くわよ」
不特定多数の光源が迫る中、綾瀬達は急ぎその場を離れる。
それを四人は不安げに見送るのだった。
「そっと、ゆっくり・・・」
カモフラージュシートをかぶせられたカゲロウ柊機の下部。
アームに掴まれた小型の長方形コンテナを開いて小型担架を出すと三宅をそこに乗せ、動かないよう拘束する。
「まるで棺桶よね・・・」
小紫は思っていることをつい口にし、三宅は力なく笑った。
「なんとなく見えなくても察しは付くが、このまま火葬は無しだぜ・・・」
「ミサイルじゃないだけマシと思って」
綾瀬は三宅の腕にポンプのついた緊急用点滴をつける。
「大昔の戦争は魚雷に人間載せてたらしいな、マジかどうか知らんがな」
「黙って減らず口を閉じなさい。ロックするわよ」
小紫が口に酸素マスクを当てる。
すると、ほんの数秒で身動きが止まり、胸が規則的に上下するようになった。
「もう寝てるみたい。三宅君、本当にギリギリだったのね」
「スケベにしては上出来だわ。早く基地に帰るわ」
既に綾瀬はその場で服を脱ぎ、パイロットスーツを着用し始める。
小紫は先ほどのショックを踏まえて綾瀬に念のために確認した。
「本当にいけるの?」
「大丈夫、飛べるわ。さあ帰りましょう」
「そうじゃなくって・・・解ってる?ゼロ基地に戻ればすぐに拘束されるわ」
小紫は現実的な問題を三宅に突き付ける。
理由はどうあれ、カゲロウ機の私的利用は重罪である。
「解ってるわ、だからこそ貴方を・・・小紫さんを連れてきたのだから」
「貴方・・・この事態を見越していたの?」
小紫は呆気にとられた。最初から綾瀬はここまで計算していたのかと。
(上で動くとか、聞いていた話と違うじゃない・・・もしかして神谷君?)
「三宅を助けるのも当然だけど、この事実を知ればあなたは絶対に白鷺に報告するはず。
そうすれば私の処分もどうにかなると思って」
「呆れたわ・・・最初のノンプランさには唖然としたけど、身の保全だけはチャッカリしてたわけね」
VOLT機能を搭載したカゲロウ柊機はゆっくりとフレキシブルジェットエンジンを熱噴射して上空に上がった。
規定高度まで上がり、出力を全開にして発進したその時。
警報が鳴ってMHDにアンノウン補足が入る。
「待って・・・あれはカゲロウ機?!」
一瞬、マーカーが味方カゲロウ機と識別されたため綾瀬が誤認するが綾瀬の足元で縮こまっている小紫は
送られてくる情報をタブレットで確認して叫んだ。
「違う。あれはそう、シンキロウ!!」
「嘘早い。この初期型VOLTの柊機では翻弄されてしまう。前のシンキロウとは違うの?」
後方から敵機が凄まじいスピードで迫り来る。
”各隊員に次ぐ。暫くは弄んでやれ、散々いたぶってくれた礼もあるしな”
”隊長はどうすんの?なんかすごい兵装積んでるらしいけど”
”俺の目的はただ一つ、赤い尾翼のマシン・・・カワセミカゲロウだ”
そして一間置き、隊長らしい人間は叫ぶ。
”赤い尾翼の女。あれは俺の獲物だ”




