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播磨熱風隊―Passion, Innocence, and the Sky War―  作者: かがみひこ
第四章 処罰(ショバツ)
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第四章 処罰 ♯03

レオンの特務より約一か月後。

その間パッタリと敵の襲撃は途絶えた。

そして白鷺の防衛局より伝令が下る。

「さっき鷹取長官から直々に伝令が下った。処罰”方法”についてはこちらに一任するらしい」

海堂は深くため息をつくとプリントアウトした公的書類にサインし小紫へと放り投げた。

「ちょっと、私に振らないでくださいよ。これでも傷ついているんですよ、それに数年共に仕事した人間を

処罰しろって言うのは・・・」

小紫は投げられた書類を鬱陶しいように振り回した。

「白鷺からも後見人が必要なんだとさ、で貴方直々にと先生からな」

「冗談でしょ?!あの人何考えてるのか・・・」

小紫は再びタブレットに向き直った。

そこには、榊原がストレス緩和と称しメモをしていた数字の羅列は

防衛局本部により見事に暗号文であることを看破されていた。

漏洩した情報にはゼロ基地の現状、各カゲロウのステータス、兵装、パイロット情報から損害状況まで事細かい。

「そりゃメモばっかり取ってるはずだわ・・・でも」

「でも、何かあるのか?」

海堂は小紫の歯切れの悪い言葉に疑問を投げつける。

「純粋に”何のために”と思います。白鷺にいるのならこの荒廃した時代でも少なくとも不自由しないはず、

ううん、むしろ裕福すぎるぐらいだわ」

「つまり、情報提供をして何を見返りとしていたか、と?」

珍しく海堂も顎に手を当て考える。

「そうです、少なくとも己の命を懸けるほどのリスクを背負ってスパイをするという事はそれ程の動機が必ずあるはず」

「なるほど一理あるな。処罰執行まではまだ時間がある、死ぬのが決まっているからもはや口を割ることなどはないと思うが

その辺りを聞いてみるのもいいかもしれん」

小紫は深くため息をついた。その顔はとことん暗い。

この時代のスパイ行為は問答無用で外患誘致罪になる。

外患誘致罪は日本では最も重い罪であり、死刑のみ。

裁判も簡略化され、ほぼスピード処理だ。

「・・・・・・待ってくださいよ。もしかして」

「ああ、頼めるか?もちろん一人じゃないさ、俺とあともう一人つけるし」

「冗談じゃない、嫌ですよ私。今更何話せって言うんですか?!」

小紫は手に持っていたのを投げ出してソファから立ち上がると天を仰ぎ見た。

「まあそう言うな、それに君は榊原とところどころ仕事をしている。

先生の愛弟子とはいえ、白鷺の連中から真っ白とみられているとも限らんだろう。ならここは尋問すべきだ」

「うっそ・・・マジでしょ・・・」

小紫はそれを聞いて思わず肩を落としてうなだれた。

今まで築き上げてきたキャリアが汚れたことなど一度もない小紫にとってそれはもう拒否権のない脅迫にも近かった。


地下深くの基地最下層。

ここには基地の動力のほか、その空調管理が行き届かない理由もあり捕虜幽閉室や尋問室がある。

その尋問室に続く廊下を力なく歩いていた小紫、そして海堂は尋問室の前で壁にもたれ腕を組むレオンの姿を見つける。

「レオン?!司令官、もう一人の付き添いってもしかして彼なの?」

「その通りです小紫監査官。私も白鷺の人間、何よりカラスが奪い取ったのデータの解析をしたのが俺ですから。

見届ける義務がある」

レオンは小紫に向き直り真っ白い歯見せてニヤリと笑う。

悪気はないのであろうが小紫にとってはイヤミったらしく見えて仕方がなかった。

「私も白鷺の人間がついているんなら後から何かと都合がいいんです。さあ気乗りしない気はわかりますが行きましょう」

司令官はそういって重苦しい尋問室の扉を開ける。

部屋は殺風景で机一つすらなかった。

ただ部屋のど真ん中に椅子に座って簀巻きにされた榊原を除いて。

「ご苦労さん、ここから守秘義務が入る。部屋の外で待機していてくれ」

海堂は両脇の小銃を持った工員兼衛兵に促すとそれぞれ会釈して部屋の外に出ていった。

「榊原さん・・・」

「小紫監査官、ごきげんよう。このような格好で失礼するよ」

榊原はなんら臆することも動じることもなく、いつものように答えた。

一同は榊原の前に仁王立ちすると海堂が榊原の眼前に例のメモ帳を突きつけ開口一番を切った。

「今時16進数とは考えたな。古すぎて逆に新鮮に感じたよ」

「・・・・・・・・」

榊原は何も答える様子はない。

「内容はおおよそ防衛局によって露呈されている。ただ少し気になる点があってね・・・答えてもらえるかい?」

あくまで海堂は冷静に榊原に問う。

「榊原さん、あなたが連絡を取っていた人物は誰」

小紫が声を荒げる。

「こんなことになるなんて残念です。

ですが今、誠心誠意答えていただけたなら私がこの尋問データを持って防衛局に・・・

先生に掛け合って情状酌量を進言します、ですのでーーー」

ゴスっ!!!

小紫が必死に訴えるのを遮るかのようにレオンが榊原の顔面にストレートを入れた。

「うぐっ!」

「へへ、利いたかい榊原さん?自分の歳の半分にも満たないガキから殴られる気分はどうだ?」

「レオン何をしてるんです?!暴力による尋問は国際条約に違反--」

「この地獄に条約は無い。答えろ!お前は誰に情報を売ってる!?」

榊原が震えながら地べたに血反吐を吐く。

そしてゆっくりと顔を上げ、レオンを見ると臆することなくいつもの口調で言う。

「・・・俺は結婚してなくてホントよかったよ。もしガキでも生まれ様ならお前みたいなガキになりかねん」

ゴスっ!!!

「猶更よかったじゃないか。まだ始まったばかりだ、ゆっくりしていけよ!」

「レオン、やめなさい!!」

「俺の親父はお前の”先生”と同期だぜ?!マジで言ってんのかよ!」

「くっ!」

食って掛かろうとする小紫を海堂が腕をつかんで静止する。

そして小紫の目を見て軽く顔を左右に振った。

「わ、わたし。これ以上・・・」

小紫はかつての仕事仲間である榊原が激しい暴力を受けるのを見るに堪えかねず思わず部屋を飛び出した。

その尋問は夜通し続けられ、仄暗い部屋の中重苦しい嗚咽だけが響き渡るのだった。

結局、榊原は口を割ることはなかったらしいと海堂から聞いたのは明け方頃だった。


ーーーーーーー翌日。

基地より遠く離れた荒れ果てた公道に不釣り合いないびつなスポーツカーと海堂達の姿があった。

「時に小紫監査官、君にとって敵とはどのような認知でいるかね?」

顔中あざだらけで膨れ上がった顔の榊原は鋼鉄製の助手席に拘束され、

無動き一つ取れないどころか首すら固定されているが何ら声色を変えることなく

まっすぐ荒野を眺めながら小紫に尋ねる。

「敵の認知・・・ですか?それはもちろん、日本の資源等を狙う国外勢力では?」

「そうだな、そうだろうとも」

「??」

小紫はまるであきらめたような榊原の口ぶりを聞いて不思議に思った。

「何をいまさら、あれだけ口を割らずにのらりくらりと交わしておいて出た台詞がそれですか」

榊原はそれを聞いてフフッと静かに笑った。

「荒廃して間もないころの日本から近年に至るまで時代を目の当たりにして散々思い知らされたことがある」

榊原に自身の家族や親はいない。

ゆえに小紫はもはや遺言であろう榊原の言葉を静かに聞いていた。

「はい・・・」

「人間てのはいつでも鬼にもなれば仏にもなるもんだ。そこに人種、性別、年齢など関係ない、いいか小紫監査官。

敵の敵だ。忘れるなよ」

そういうと、榊原はリモートスタートに頼ることなく自らアクセルペダルを踏んだ。

「榊原さんっ!?どういうーーー」

「サヨナラだ、小紫監査官。次生まれ変わるときは自然豊かな時代に生まれたいもんだな」

「離れろ小紫監査官、危ないぞ」

如月が小紫の肩を引っ張り、スポーツカーから引き離す。

(敵の敵って、どういう事よ?)

小紫は走り出した車を見ながらただうなだれる榊原を見つめた。

これから榊原はドライブに入る。

己の肉体が焼けただれるまで。

勿論行先は、あの世である。

それが地獄なのか、天国なのか、遠ざかる車を見守る小紫には見当もつかなかったが。

少なくとも、ここよりマシだろうと頭を過るのであった。

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