第四章 処罰 ♯02
数日後ーーー。
「あのじゃじゃ馬が護衛につくってのもいいもんだ」
「副隊長に言いつけますよっ」
カラスマーキングの新型カゲロウ機・複座型の出番は思いの外早かった。
ゼロ基地より遥か北西のかつては塩田のツールと言われ、今や砂漠化した荒野地帯。
その海岸直ぐ近くの山岳地域に敵勢力の武将集団が確認されたのである。
播磨熱風隊は白鷺の防衛局よりの勅命を受け、今まさに状況を開始していた。
ゼロ基地始まって以来の防衛からの一転、攻勢へ打って出たのである。
「兵力は現時点で確認された限りでは武装ヘリ数機、車両トラック数台・・・ですね」
「”現時点”限りではな。実際問題、藪をつついて蛇を出すしか確認する術は無い」
レオンはHUBを確認する。現地店では勢力のマーキングはわずか一つ二つである。
「それよりもレオン。今回地上は任せていいって言ってたけど本当にいいのね?
私達は知らないわよ」
綾瀬はカラスのカゲロウ機のすぐ真横について目視でレオンに合図する。
「構わんさ。君らはせいぜいヘリや藪から出てきたものをせいぜい叩くといい」
「言ってくれちゃってまぁ。訓練でも言ってたけど、地上への攻撃ってピンポイントであればあるほど難しいんだろ?
春野にマジで出来んのかね」
先行する三宅がダルそうに無線で伝える。
「そこは春野の成績を信じるとするか。主人公の異名は伊達じゃないことをみせてもらうとするか」
「ま、またそうやって買いかぶろうとする!」
神谷が変に期待を持たせようとするため春野の震えた声が無線越しで伝わってくる。
「でもそのカラスカゲロウ。すごい特殊兵装搭載してんでしょ?
境さんが言ってた”ありゃ金で買えるシロモノじゃない”って。私のマイクロミサイルと勝負しようよ」
柊がカラスカゲロウの真ん前へとやってきて軽く一回転する。
「柊、お前のマイクロミサイルは射程が極めて短いドッグファイト向きだ。そもそも勝負以前の話だ」
レオンが呆れたように返す。
そんなやり取りをするうちにゼロ基地管制塔より無線が入る。
”こちらゼロ。敵拠点より多数の熱源および周波数を感知、こちらに感づいたようだ”
いつもの美しい声のオペレーターが警告を促す。
「よし、では事前ブリーフィングの通りに行こう。熱風隊、期待してるぞ」
「ケッ、行ってら。三宅機、行くぞ!」
「柊機、先行します!まあ、レオンも春野といちゃついていると獲物なんてなくなっちゃうから」
「いちゃついてなんかいませんっ!」
「なんだつれないな・・・そうかわかった、俺が”後ろ”につかなかったからか?」
「いつまでも馬鹿言ってんじゃないわよ、しっかりやんなさいよ」
「播磨熱風隊、状況開始だ!」
神谷の号令の下、熱風隊の5機はそれぞれ散開した。
現状況より遡ること数日前。
小紫は隊員の査問をすべて終え、鷹取に報告を行っていた。
ゼロ基地の全員に疑惑のある者は皆無であり、問題は暗礁に乗り上げようとしていた矢先のことである。
「ハッキング装置・・・ですか?それで敵の勢力とやり取りしている内容から推測できると?」
「そうだ、そちらのゼロ基地にテスト機と称されて配備された新型カゲロウ機・カラスカゲロウは
複座型だが地上掃討は表向きでしかない。実際は敵情報網へのハッキングを趣旨としている、スパイにはうってつけだ」
鷹取から思いもよらぬ命令が下ることになり小紫は頭が真っ白になっていた。
鷹取はそんな小紫の様子など気にも留めず端末にあるアプリケーションを送った。
「いいか、カラスが取得したデータは完全に極秘だ。私、小紫、レオン・・・あとレオンが複座担当に任命した人間だけが
知ることだ」
「榊原さんは情報の共有はよろしいのですか?」
小紫の問いに鷹取は神妙な顔つきになった。
「そうだ・・・今はいいだろう」
鷹取はそういいながら人差し指を下に指す。
これは鷹取の声に出さずに筆談ならぬ、ソフトウェア上のキーボードでやり取りしろとの合図である。
”榊原は現在、嫌疑に掛けられている”
”嫌疑とは?”
”敵勢力への情報漏洩疑惑だ。この件に関しては現在調査中である”
”榊原さんが?とてもそのような素振りは有りませんが・・・”
”そこでだ、君に一つ頼みがある。榊原はいつもメモを書いているだろう?
そのメモの内容を一部でもいい、写真に撮って送ってきてくれ”
”本人によるとあのメモはメンタルを保持するためのものなのでは?内容も見ましたが英数字の羅列が書いてあるだけです”
”それはこちらで判断する、では吉報を待ってるよ”
(敵情報網へのハッキング・・・いつもは管制室に顔も出さない榊原さんが顔を出しているけど・・・ホントなの)
小紫は今、複雑な思いでその場に佇んでいた。
海堂以下各々が管制室でモニターに釘付けになり熱風隊の様子を見守っている。
(どうする?もうすぐカラスカゲロウはハッキングの行動を取る、そうすれば誰かが必ず疑問を訴えるはず・・・)
内心、気が気でない小紫はよそよそしい様子だった。
それをあろうことか榊原が気づき、声をかける。
「どうしました小紫監査官、ずいぶんと落ち着きがないようですが」
「ええっ、ああ榊原さん。いや、その新型機がいきなり落とされるんじゃないかと嫌な予感がして」
それを聞いて今度は海堂が驚いた様子で振り向いた。
「小紫監査官、縁起でもないこと言わないでください。ただでさえ白鷺から来た人間が乗ってるんですよ、何かあれば
私の首が2,3本飛びますよ」
それを聞いて榊原は高笑いをする。
「ハハハ、そりゃ大変だ。まあ小紫監査官の心配も解りますよ、白鷺の防衛局から来ているのですから。
だが防衛局お墨付のレオン君だ、難なくこなしますよ」
そういうとまたいつものように何やらメモに書き、そのメモ帳を持った手を後ろに回した。
ページを開いたまま。
(!!!チャンス!)
小紫は別モニターを見に行く素振りをして手に持っていた端末のカメラで写真を撮った。
”敵拠点より、複数の熱源及び周波数特性を確認。
迎撃行動に出たと思われる、播磨熱風隊は作戦行動を遵守しつつ各個に敵を撃破せよ”
「言われなくても私が星を上げるんだ!スウォーム・パターン展開!」
ダダダダダダーン!
”柊機、コード:M-Scatter、実行”
先陣を切る柊機からマイクロミサイルが発射される。
敵、UAVが戦闘ヘリを庇う様に前に遮りマイクロミサイルの餌食になる。
UAVが爆炎を引き起こす中、その渦中からヘリが炎をものともせず湧き出てくる。
ダーン!
”アルファよりミサイル発射!柊機回避せよ!”
「ったく言わんこっちゃない!」
すぐ脇についていた三宅機がデコイを発射してヘリより発射されたミサイルを遊撃する。
「ナイス三宅っち」
「すぐ来るぞ、対応しろ!発射プロトコル、グリーン!」
ダーン!
”神谷機、コード:coil、実行”
神谷が迂回行動をするヘリにレールガンを発射する。
その右翼に取り付けられた超小型レールガンはヘリのジャイロを貫いた。
「続くわ、三宅機はそのままフォローへ回って!」
綾瀬機がまとわりつくUAVをひらりひらりと交わしながら今まさに離陸しようとするVTOL戦闘機へ標準を合わせる。
「あたれぇぇぇぇぇぇえええええ!!」
バラララララッ!!
”綾瀬機、Balkan掃射・・3・・2・・1・・・0!!”
ビー!!!
残弾数ゼロのレッドアラートが鳴り響くが綾瀬機が再び大空へと向かうその背後は爆炎に包まれていた。
「さすがだな、播磨熱風隊は噂通り熱すぎる連中の様だ」
レオンは烈風隊が混戦まみえる様子を涼しい顔で眺めていた。
「わ、私たちも参加しなくていいんですか?」
「いいんだよ。俺たち主人公は雑魚が清掃された後に群雄割拠すればいい」
レオンは機体の高度を下げ、敵の軍用偽装網で覆われた物々しいアンテナの近くを目指す。
「レオン機、カラスよりゼロへ。プロトコル・ゼロの許可を申請する」
「プロトコルゼロ?レオン、それは何なの?聞いてないわ」
無線を聞き取っていた綾瀬が聞きなれないコードを聞いてレオンに詰問する。
「綾瀬副隊長、これは”カラス”に課せられた特務である。質問は終わった後だ、本部、応答だ」
レオンは歯に着せぬ様子で淡々と述べた。
”・・・・・・しばし待て”
本部側の無線から若干あわただしさを感じ取れる。
「どういうことだ、テスト機には何がある?」
神谷が懐疑的になる中、本部からコールが入る。
”・・・よし、カラス機、コード:Backdoorを実行せよ!”
「--了解した。春野」
「わ、わかりました。カラス機コード:Backdoor、実行」
春野がアンテナをロックオンし、MFDに映し出されるセキュリティを特別訓練を受けた通りに処理してゆく。
ピ、ピ、ピ・・・。
「え、カラス機って今何してんの?!ずっと低空飛行してるだけだよ」
柊が不思議そうにカラス機を眺める中、様子が一転する。
ピーーーーー!!
「Backdoor完了!」
「特務は完了した!これより一掃に入る。プロトコル・グリーン」
レオンが叫ぶとカラスカゲロウの下部兵器庫が解放される。
搭載されていたのはエネルギー質量爆弾である。
”レオン機、コード:ignite、実行”
カラスのカゲロウ機に狙いをつけられた敵地上部隊はそのEMB(エネルギー質量爆弾)により瞬く間に業火に包まれた。
それはカゲロウ機の中からでも目視で炎に焼かれる兵士が目に入るほどであった。
「こういうのを非道っていうのかな?」
春野が地獄と化した地上を見てつぶやくとレオンがイラついた声で反論する。
「何言ってるんだ春野。こうやって敵が自国の土地に隠れてこそこそ秘密基地作ってるってことはだ、
いつ明日は我が身になるかわからんってことだ。非道も糞もない、むしろそのセリフがクソッタレってーーー」
「絶対あんたモテないでしょ」
「言えてるぜ、明日は我が身とはいえ慈悲の一つも持てなきゃ鬼と一緒だぜ」
珍しく意見の一致した綾瀬と三宅がレオンに嫌味を垂れる。
「まあ、何とでも言うがいいさ・・・だがまあ、春野と言い俺は地上基地の連中は非情極まりない連中とばかり
思っていたがそうでもないらしいな。そこは反省しようじゃないか」
レオンはそれでも何ら悪びれる様子もなく早々と旋回しその場を後にしようとする。
「やれやれ・・・早くテストとやらが終わってほしいもんだな。ゼロ、こちら熱風隊、状況完了」
”確認した。播磨熱風隊Echo Zero to Command(状況完了)帰投せよ”
神谷がコールサインを出し、全機は熱風と灼熱で燃え盛る地上を背に基地へと帰っていった。




