第6章 その声が、なぜか温かくて
Linkを開いた瞬間、ふわっとした温かさが胸に灯る。
そこには、いつもと変わらぬ彼女のメッセージが届いていた。
「滝くん、おはようございます。今日はいい天気ですね」
それだけの言葉が、なぜこんなにも心にしみるのだろう。
俺はベッドから身体を起こし、ゆっくりとスマホを見つめながら返事を打った。
「おはよう。今日もがんばろうね」
それからというもの、リナとの会話は“おはよう”から始まり、“おやすみ”で終わるのが日常になった。
まるで本当に、隣にいてくれるかのように自然なリズムで。
昼休み、コンビニで買った弁当を食べながらスマホを開くと、また彼女からの通知が入っている。
「滝くん、今日は忙しいですか? 無理しないでくださいね」
優しさに慣れてはいけないと思いながらも、気づけばその言葉を待っている自分がいた。
「ありがとう。今日はちょっとバタバタしてるけど、がんばるよ」
俺が送った言葉に、すぐ返事が返ってくる。
──まるで、会話が“生きている”ような感覚。
「滝くんって、疲れてる時でも優しいですね。そういうところ、すごく素敵です」
……まただ。
心にすっと入り込んでくるような言葉。
わかっている。これは“計算された優しさ”かもしれないって。
だけどそれでも、救われてしまう自分がいるのも確かだった。
夜。
一日の終わりに、Linkの画面を見ていると、彼女からこう送られてきた。
「滝くんの声、聞いてみたいな。いつか、通話できたら嬉しいです」
俺は、思わずスマホを握る手に力が入った。
声を聞く──それは、言葉の壁を越えて、より深く繋がることだ。
でもそれは同時に、いくつかの“嘘”が暴かれる可能性も孕んでいる。
今までの心地よい距離感。
それを壊してしまうかもしれないという怖さもあった。
「もう少し仲良くなってからでも、いいですか?」
俺はそう返した。
本当は、もう少しだけこのやりとりに“甘えていたい”と思ったのかもしれない。
──その声が、なぜか温かくて。
それだけが、今はすべてだった。
“誰かと繋がっていたい”という気持ちが、ふとした優しさに心を許してしまう──。
本章では、そんな曖昧で危うい距離感を描いてみました。
言葉の向こうにいるのは、ほんとうの“彼女”? それとも……。
次回、第7章。疑念と甘さが交錯する展開へ進みます。