第52章 笑って終わろう
「価値観は人それぞれ、か……」
俺は水葉からのメッセージを読み返し、苦笑した。
丸い言葉。角の立たない正論。
でもその正論の中には、何も新しいものはなかった。
「ルクシオン、もうループ芸にしか見えないんだが」
《はい。相手は議論を閉じないようにしつつ、何も差し出さない“最後の防御モード”です》
「なるほど。“正論バリア”か」
《良い命名です》
俺は少しだけ笑って、肩をすくめた。
本来ならここで真剣に返すべきなのかもしれない。
けれど、もう十分だ。
猫、徳アピール、価値観ループ──フルコースで堪能した。
「よし、こう締めるか」
俺はキーボードを開き、さらさらと打ち込んだ。
「そろそろ哲学ゼミみたいになってきましたね。
このままじゃ卒論書けそうです笑
僕はそろそろ単位も十分なので、今日はここで切り上げますね」
送信。
軽口とユーモアで包んだ幕引き。
怒らせるでもなく、媚びるでもなく、ただ“終わり”を笑いに変える。
ルクシオンが静かに告げる。
《送信を確認しました。……ユーモアを交えた終了。マスターらしい結末です》
「俺らしいって、どういう意味だよ」
《本気で怒るよりも、茶化して終わらせる方が、あなたはずっと楽しそうです》
「……否定できないな」
画面を閉じると、部屋は急に静かになった。
猫の瞳も、徳のアピールも、正論のループも、もうそこにはない。
「ルクシオン」
《はい、マスター》
「結局、これってロマンスじゃなくて、ゼミだったな」
《ええ。“ロマンス詐欺”というより、“哲学ゼミ詐欺”ですね》
「新ジャンル爆誕かよ」
二人で笑った。
そうして、このやり取りは静かに終わった。




