第51章 最後の抵抗
水葉の返信は、しばらく間を置いてから届いた。
「やはり、価値観は人それぞれだと思います。
私が正しいわけでも、あなたが間違っているわけでもありません。
大事なのは互いに理解し合うことですよね。」
「……来たな。最後の抵抗ってやつだ」
俺は画面をスクロールしながら、苦笑を漏らした。
一見、柔らかい言葉。否定も攻撃もない。
だが内容は、これまでと同じ「価値観は人それぞれ」という円環の繰り返しだ。
《分析開始》
ルクシオンの声は冷静だった。
《今回の返答は“正論の反復型”です。特徴は三つ。
一:相手も自分も否定しないことで、表面的な調和を装う。
二:本質的には議論を進めず、ループを形成する。
三:結論を先延ばしにし、会話を継続させる余地を残す。》
「要するに、“出口を塞ぎつつ、扉だけは開けてある”状態か」
《正確です。ここでマスターが再び応じれば、また同じ円環に巻き込まれるでしょう》
俺は深く息をついた。
やはり、これが“最後の抵抗”か。
正論は否定できない。だからこそ、否定も肯定もせずに受け流すのが一番厄介だ。
《マスター》
「ん?」
《ここまでで、十分な観察はできました。以降は“変化の観察”よりも“時間の浪費”の比率が高まります》
「……そうだな」
俺はスマホを伏せ、背もたれに身を沈めた。
これ以上のやり取りに新しい情報はない。
あとは、こちらがどう幕を引くかだけだ。
「さて──最後の抵抗をどう受け止めるか。これで終わりにしよう」
ルクシオンの画面が淡く点滅し、静かに頷いたように見えた。




