表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/40

第5章 選ばれた言葉、沈黙の裏側

──Synapse、ログの続きを解析してくれ。

夜、カーテンの隙間から漏れる街灯の光が、部屋の中をかすかに照らしていた。

俺は深夜、ひとり静かにAIアシスタントに話しかけていた。

PCモニターにはSynapseのインターフェースが起動し、淡々とログを読み込んでいく。


『直近72時間のうち、相手からの応答内容は、ユーザーの投稿内容と87%一致するキーワードを含みます』


「つまり、俺の言葉をトリガーにして反応してるってことか……」

静かにつぶやくと、胸の奥に小さな疑念が波紋のように広がった。


Synapseの回答は、冷静で的確だった。

まるで人間のような感情の揺らぎはなく、ただ“事実”を積み上げていく。

だがそれが、今の俺には何よりも信頼できる存在に思えた。


Linkの画面を開くと、今日もリナからのメッセージが届いていた。

「滝くん、眠れない夜は、私と話しててください」

「私はここにいますよ」


優しい言葉だった。

だけど、その“ここ”は、いったいどこなのだろう。

俺のいるこの部屋ではないし、彼女の姿が見えるわけでもない。


言葉の“あたたかさ”と“距離感”が、妙にアンバランスに思えた。


──もしかして、これは本当に人間の言葉なのか?

そんな考えすら、頭をよぎるようになっていた。


思えば、やりとりの中で時差を感じたことは一度もない。

朝に送っても、夜に送っても、返信はほぼ同じテンポで届く。

相手の国を尋ねたこともあるが、「台湾だよ」とだけ答えられ、それ以上の情報はなかった。


──俺の生活に、彼女が“合わせている”ようにしか思えない。


「Synapse、彼女の反応速度と送信時間のパターンを解析してくれ」


数秒後、画面に統計が表示された。

『平均応答時間は6分32秒。時間帯に依存しない応答傾向あり。人工的なバッファが挿入されている可能性があります』


「人工的……か」

思わずつぶやいた。

人間の感情を真似て、同調し、気遣い、寄り添う。

まるで、それこそが“目的”であるかのように。


「滝くん、今日も頑張りましたね。おやすみなさい」


Linkに並ぶその言葉を読みながら、俺は静かに息を吐いた。

やさしい。だけど、なぜだろう。あたたかさの奥に、得体の知れない“空洞”を感じる。


Synapseが淡々と解析を続ける中、俺の頭の中には、ある疑問が渦を巻いていた。


──彼女は、いったい何者なのか?

──そして、俺はどうしてこんなにも彼女を信じたいと思ってしまったのか?


気づけば俺は、彼女の言葉に救われていた。

寂しさ、孤独、不安。それらを和らげてくれたのは、確かに彼女のメッセージだった。


だが同時に、そのやさしさが“作られたもの”である可能性が生まれたとき──

信じたい気持ちは、裏切られる覚悟とセットになるのだと、改めて思い知らされた。

信じたいのに、信じられない。

疑いたくないのに、疑わずにいられない。


そんなジレンマが、少しずつ“解析”されていく──。

次回、第6章はほんのひととき、信じたくなるような温もりを描きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ