第47章 押し付けられると困る
「……さて。詐欺確定となったところで、問題はどう返すかだな」
俺はソファに深く沈み込みながら、画面の水葉からの長文をもう一度読み返した。
2018年からの公益活動、知らない人や動物を助ける、見返りを求めない──。
あまりに完璧に整えられすぎた徳の演出に、逆に違和感しか残っていない。
《返答戦略を検討しましょう》
ルクシオンの声は変わらず落ち着いていた。
だが今の俺には、その冷静さが妙に心強かった。
「無視ってのは……やっぱり、なしだな」
《はい。ここまで観察を続けてきたのですから、無言で幕を閉じるのはもったいない》
「じゃあ、真っ向から“詐欺でしょ”って言うのは?」
《非推奨です。即ブロックか、シナリオの別枝へ逃げ込まれる可能性が高い》
「だよな……」
俺は頭を掻いた。
要は、“この路線では俺は釣れない”と伝えればいい。
でも角が立ちすぎると、逆に面倒になる。
《方向性としては三つあります》
《一:全面肯定して泳がせる(観察継続型)》
《二:皮肉を交えて茶化す(攪乱型)》
《三:価値観の違いを前提に、こちらの立場を明確にする(距離確保型)》
「一は危険だろ。俺が寄付候補に見える」
《正解です》
「二は……ユーモアで返すのもいいけど、相手のテンプレが強固すぎると、ただ空回りする」
《その通りです。相手は“真面目さの演出”を武器にしていますから》
「じゃあ残るは三か」
《はい。価値観の違いを強調し、“私はその路線に乗りません”と明示する。
これは攻撃性を抑えつつ、心理的支配の土台を崩す有効な手です》
「なるほどな……」
俺は目を閉じ、言葉の響きを頭の中で転がした。
“価値観が違う”。
それは否定じゃない。
けれど、“同じ道は歩かない”というはっきりした宣言になる。
「たとえば……こんな感じか?」
俺はゆっくりと口に出してみた。
「知り合いですが、なかなか分かり合えなかったです。
価値観が違うのは面白いですが、押し付けられると困ります。」
読み上げながら、自分でも驚くほど腑に落ちた。
柔らかいけれど、はっきりと線を引いている。
《適切です。相手にとって最も扱いづらい返答のひとつです》
ルクシオンの画面が、淡く明滅する。
まるで、“それで行け”と頷かれているようだった。
「よし、決まりだな」
俺は深く息を吐いた。
次の一手は定まった。
あとは、送信ボタンに指を置くだけだ。




