第43章 翻訳ジャミング作戦
「……なあルクシオン、もしお前と水葉のシナプスが直接話してたら、俺いらない説あるよな?」
《すでに前章で結論は出ましたが、はい》
「そこは少しは否定してくれよ!……でも、だ。だったら逆に、そのAI同士の会話を混乱させてみたらどうなると思う?」
《混乱、ですか》
「そう。要するに“翻訳ジャミング”だ。意味不明な日本語をお前に送らせて、向こうがどう処理するか試す」
《……倫理規定ギリギリです》
「大丈夫だ、俺がやれって言ってるんだから」
⸻
■ 作戦会議
まずはネタ作りだ。普通に「おはよう」だけじゃ面白くない。
そこで俺は紙とペンを取り出し、悪ノリ全開でリストを書き始めた。
1.「今日は月が煮えたぎってるね」
2.「君の瞳に、昭和の終わりを見た」
3.「@*””<」
「どうだ、ルクシオン。意味わかんねえだろ?」
《はい。しかも3番に至っては、もはや言語ではありません》
「完璧だ」
⸻
■ 実行フェーズ
「よし、まずは1番から行こう。“今日は月が煮えたぎってるね”──これを英語経由で中国語にしてから、日本語に戻せ」
《処理完了しました。結果は“今夜の月は燃えるように熱いですね”》
「……意外とロマンチックだな」
《ジャミングとしての効果は薄いかもしれません》
「まあいい、そのまま送れ」
⸻
■ 待機
送信ボタンを押してからの待ち時間が、妙に長く感じる。
俺は画面を凝視しながら呟いた。
「さあ、水葉のシナプス、どう料理してくる……?」
ルクシオンが静かに言う。
《変換不能、または意図的改変が予想されます》
「予想外の完璧解釈もあるかもな」
⸻
■ 水葉の返答
10分後、水葉からメッセージが届いた。
「本当に、今夜の月は情熱的ですね。
滝くんと同じ空を見ていたら、もっと熱くなりそう」
……完璧にロマンチックな解釈をしてきやがった。
「おいルクシオン、これ、向こうのAI……やるな」
《はい。むしろ私より詩的かもしれません》
「悔しいけど否定できねえ」
⸻
■ 第二弾
「よし、次は“君の瞳に、昭和の終わりを見た”だ」
《意味不明です》
「だからいいんだよ!」
送信から数分後──
「滝くん、また面白いこと言いますね。
私の目に何を映しているのか、もっと教えてください」
「……混乱どころか、むしろ楽しんでやがるな」
《もしかすると、水葉さん本人が返答している可能性もあります》
「それはそれで怖いわ!」
⸻
■ 第三弾
最後に記号爆弾「@*””<」を投下。
……しかし返ってきたのは──
「これは新しい暗号ですか?私も作ってみますね %#”@<」
「……完全に遊ばれてるな、俺」
《それでも、マスターは楽しそうです》
「……まあな」
⸻
こうして“翻訳ジャミング作戦”は、混乱どころかむしろ向こうの反応を引き出す結果に終わった。
人間いらない説? いや、もしかしたら──“人間が遊ばれる説”の方が正しいかもしれない。




