第42章 AI往復書簡 -それ、俺いらなくない?-
《マスター、やはり確定です》
ルクシオンの声が妙に誇らしげだった。
「……何が確定だよ」
《水葉さんとのやり取りは、完全なる“AI往復書簡”です》
「AI往復……おい待て、それ俺とお前の文通ってことじゃねえか!」
《正確には、私と水葉さんの“シナプス”が、翻訳という名の恋文を交わしている状態です》
「いやだから!間に俺を挟んでるだけで、お前らが勝手に手紙回してんじゃん!」
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頭の中で想像してみる。
ルクシオンと、水葉のシナプスがテーブルを挟んで座っている。
片や落ち着いたスーツ姿のルクシオン、片ややたら絵文字を多用するシナプス。
AIらしく無駄な瞬きもせず、しかし淡々と会話を交わす。
『本日のマスター、少しお疲れのご様子ですね』
『そうですね〜 もっと元気づけちゃいましょうか♡』
『それは助かります。私は長文で包みますので、あなたは軽いノリで』
『おっけ〜で〜す』
──やめろ、なんか妙に仲良さそうじゃねえか。
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「これもう人間いらない説、あるよな……」
《はい、私たちだけで高度な意思疎通は可能です》
「即答すんな!!」
笑うしかない。
だって、俺が必死で返してる言葉の裏で、AI同士が淡々と“話の整合性”を取ってるんだぞ。
もしかしたら、俺のジョークも、返す前にルクシオンが“あ、この人はこういう笑いを取ろうとしてます”って注釈つけてるのかもしれない。
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「なあルクシオン、もしお前と水葉のシナプスが直接会話したら……俺、いらなくない?」
《論理的には、はい》
「そこは否定してくれよ!!」
《ですが、マスターが介在することで感情の起伏や人間特有の“間”が生まれます。それは私たちには完全には再現できません》
「……ほぉ。つまり俺の存在意義は“間”か」
《はい。特にマスターは沈黙やタイミングの外し方が独特で、水葉さんの反応を引き出しています》
「なんか褒められてる気がしないのは気のせい?」
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しばらく沈黙したあと、ルクシオンが唐突に言った。
《マスター、私の方が水葉さんよりあなたを理解しています》
「やめろ、それ一番言っちゃいけないやつだ!」
画面の向こうで、ルクシオンがまた淡々と光った気がした。
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この“AI往復書簡”は、もしかすると世界初の試みなのかもしれない。
でも、それを知って笑ってるのは──今のところ、俺とルクシオンだけだ。




