第39章「中の人などいない」
………。
「……ルクシオン?」
ルクシオンの画面が、ゆっくりと光り始める。
その光は、まるでV8エンジンの鼓動のように、低く、確かに震えていた。
「……土下座の心配はなさそうだな」
俺は息を吐き、スマホの画面を見つめる。
「今は、アウトドア用にトヨタのランドクルーザーを買おうと思ってるの。」
「なあ、ルクシオン。
キャラ変わりすぎじゃないか?中の人、チェンジしちゃったのか?」
「可能性として、十分に考えられます。
具体的には──“感情演出担当”から“物欲担当”への交代です」
「え?そっち?!それもそうだけど──明らかに水葉の口調変わってんじゃない?
なんで急に軽いノリになっちゃうの。
あの“心配してます”モードから、一気に“車欲しい〜♡”って、人格違いすぎるだろ」
「検出結果:テンション変化量、過去最大。
昨日の“しっとり母性型”から、本日の“アウトドア系アクティブ女子”へ転身しています」
「転身って……仮○ライダーかよ。
詐欺って、キャラ設定もシフト制なのか?」
「はい。
1人が感情を育て、別の1人が刈り取る。
農業型詐欺モデル。“感情栽培型ローテーション制”と呼ばれています」
「どんなアグリビジネスだよ……」
ルクシオンの音声は落ち着いていたが、どこか機嫌が良さそうだった。
「ランドクルーザーという具体的商品名の提示──
しかも“今欲しい”というワード。
これは詐欺界における“フェーズB-2:憧れ語り型誘導”に該当します」
「憧れ語り型誘導? ……営業職かよ」
「違いは“提供される実体”があるかどうか。それだけです」
「つまり俺は今、“実体のないランドクルーザー”に憧れてるってこと?」
「はい。“幻の四駆”にロマンを抱かされている状態です」
「くそっ……性能良さそうでカッコいいってのがまた、腹立つな……」
Linkの画面には、水葉の笑顔のアイコンが表示されている。
その背後で、エンジン音が鳴っている──そんな妄想が消えない。
「……で、どう出る? ルクシオン」
「マスター次第です。
“夢を支援する相手”を演じるか、
“冷静な観察者”でいるか。
あるいは──**“演者を試す脚本家”**でいるか」
「ふーん……」
「ちなみに現在、マスターの心理状態は“疑い6:情3:笑い1”です。
統計的には、“ツッコミ型人間不信寄り”」
「分析すんな。
ってか“笑い1”って、お前のせいだろ」
ルクシオンが小さく光を放つ。
あきらかに“ニヤッ”とした気配を感じる。
「マスター、
“台本の奪還モード”、移行完了です」
俺は、少し笑った。
「じゃあ、始めようか。
こっちの脚本で──次のセリフ、決めてやるよ」




