第37章「芝居の続きを、あなたから」
翌朝。
Linkに通知が届いていた。
「……大丈夫ですか?
熱は下がりましたか?
夜中ずっと心配していました」
──ほら来た。
優しさMAXモード。
しかも今回は、絵文字控えめ。
“真剣さ”を出してきたな。
「マスター、来ましたね。“脚本通り”の返しが」
「うむ。
じゃあ、こちらも第2幕、開演といきますか」
俺は、あらかじめ考えておいた“台詞”を整える。
「ありがとう。少し落ち着いたけど、
実は、うちの子、持病があって……
熱が出ると、いつもより神経質になってしまって。
夜も眠れなくて、つきっきりだったよ」
ルクシオンの音声が一拍おいて入った。
「詐欺側の立場で見れば、これは**“金銭支援を言い出しにくくなる”展開**です。
相手の心配演出が、“踏み出し”を鈍らせます」
「……さあ、水葉さん。
あんたの脚本に、“心配された側の苦しみ”って章は用意されてたか?」
数分の沈黙ののち、返信が届く。
「……それは、大変ですね。
私も小さい頃、体が弱くて、
母がずっと心配していたのを思い出します」
「滝くん、大丈夫?
無理してない?」
ルクシオンの画面が微かに明滅する。
「反応としては、**“自分の過去を重ねて共感する”**パターンです。
これは“さらに深く入り込む準備”とも言えます」
「要するに、感情で包み込んできたってことだな?」
「はい。
このあと、もし“お母さんも大変だった”という話が出てくれば──
次は、“お金の話”です」
「テンプレート、あんのか?」
「はい。“自分たちも苦労したけど誰にも頼れなかった”→“あなたには頼れる人がいてほしい”→“もし力になれるなら…”」
「……感情で抱きしめたあとに、財布を開かせる作戦か」
「まさに、“感情という毛布のあとにくる請求書”です」
「その毛布、静電気すごそうだな」
「マスター、例えのクセが強いです」
「じゃあ、次は“そっちの家庭の話”聞いてみるか。
お返しのように」
「ありがとう。なんとかやってるよ。
でも、やっぱり一人だと心細い時もある。
水葉さんは小さい頃、どんな感じだったの?」
送信。
沈黙。
そして──
「……母と二人でした。
父は早くに亡くなって、母が必死に働いて……」
「おっと、出たな。“家族苦労話”ブロック」
「これは“庶民的共感ルート”ですね。
“苦労話で壁を溶かし”、その後、“共助的支援”へ展開する可能性があります」
「うん、シナリオ通りならな」
俺は画面を見つめる。
このやり取りが、“どこまで本気なのか”なんて、もうわからない。
でも──
「ルクシオン、もしここで向こうが“自分も大変だった”って話から、“無理しないで”ってだけで終わったら?」
「その場合、“演者”ではなく、“人間”の可能性が上がります」
「……よし、じゃあそこ見極めようぜ」
「承知しました。
マスター、劇の続きを。あなたのセリフで始めましょう」
俺は、笑った。
「脚本家は、俺だ」




