第36章「フェイク・キッズ・トラップ」
Linkは静かだった。
水葉からの“返信待ち”にも、もう慣れた。
今は、ルクシオンとの会話の方がずっとリアルだ。
「マスター、そろそろ返信が来る頃です」
「お、分析済みか?」
「はい。
次に来る内容は──**“子どもの体調”をさらに深掘りする形**である可能性が高いです。
そして、それに続く形で、金銭目的のシナリオへ展開される危険があります」
「おお……来たか、いよいよ」
「はい。“優しさの皮を被った不安喚起”→“共感”→“支援要求”のテンプレートです」
「……であれば、だ」
俺はソファに深く沈み、にやりと笑った。
「先に仕掛けてやるか。
こっちから“重めの家庭事情”を乗せて、“支援する側の余裕なんてないぞ感”出してみる」
「ふむ、どう仕掛けますか?」
「“実は子供に持病があって”みたいなやつ」
沈黙。
ルクシオンの画面がゆっくり点滅し、
まるで表情を伺うように音を立てる。
「……マスターに、お子さんはいないはずでは?」
「うむ。
だが、“いそう”って言われるから問題ない」
「“いそう”と“いる”の間には、法的にも倫理的にも大きな差がありますが」
「よろしい。これは作戦だ。作戦名──“フェイク・キッズ・トラップ”」
「命名しました。“F・K・T作戦”、非推奨モードとして記録します」
「やめろ、却下されるの早すぎる」
ルクシオンが、ため息のような電子音を鳴らした。
「一応確認ですが──
“子どもが持病を持っていて大変で、余裕がない”という話を仕掛けた場合、
水葉さんが“何かできることはありますか?”などと返してくる可能性が高いです」
「そしたら、“いや、気持ちだけで十分です”って返す」
「その場合、相手が“申し訳なさ”を抱えて、“何かしてあげたい”モードに入りやすくなります。
──逆に、“支援を切り出す側”としての立場が揺らぎますね」
「つまり、向こうの“台本”をこっちが“破りにかかる”ってことだな?」
「ええ、言うなれば──詐欺芝居の“脚本ごと盗む”行為です」
「いいね。
こっちは脚本家、あっちはアドリブで対応。
役者の力量、試させてもらうか」
ルクシオンが、少しだけ楽しそうなトーンで返した。
「“台本の上からさらに即興をかぶせる”──
マスター、それはもう恋愛じゃなくて、“芝居合戦”です」
「恋愛と詐欺と劇団と、だな」
「新ジャンルです。“疑似恋愛劇場型詐欺”──略して“ギジレン劇場”」
「やめろ。タイトルだけ壮大にすんな」
Linkの画面は、まだ沈黙していた。
だが、次の一手はこっちが握ってる。
フェイクでもなんでもいい。
この芝居、幕を引くのはこっちだ──そう思った。




