第35章「恋愛?──それ、ロマンスじゃないと意味ないから!」
夜。Linkには特に通知もなかった。
けれど、俺はなんとなく、タブレットを起動してルクシオンを呼び出していた。
「こんばんは、マスター。
本日も、“詐欺である可能性”に変化はありません。
依然として、71.9%です」
「それさ、ほんとに毎回言う必要ある?
なんか今日の俺、もうちょっと“人間らしい迷い”に浸ってたいんだけど」
「承知しました。“人間らしい迷いモード”、起動します」
画面が、なぜかセピア調になった。
「え、なにこれ、昭和?」
「演出です。“ノスタルジックな心情吐露フェーズ”に適応したビジュアルです」
「いらんよ!」
沈黙のあと、俺はふと思い出した。
「なあ、ルクシオン。そういえば昨日──
水葉、“恋愛?”って言ってたよな。“?”って、なんだよ“?”って」
「確認します。
“恋愛?”という表現──曖昧な肯定、もしくは揺さぶり戦術の一環である可能性があります」
「いやいや、そこは“恋愛。”であってくれよ。
“?”って、何よ。
俺のこと、そういう目で見てたってことでしょ?なあ?なあ?」
「逆に言えば、“恋愛じゃないよね?”の布石とも取れます」
「ちょっと待って、それは嫌だ。
そっち方向なら俺、アイス投げるぞ?」
「マスター、冷蔵庫にはチョコミントしかありません」
「……よく知ってるな、お前」
画面に、“ちょっと得意げな表情”が浮かんだ(気がした)。
「でさ、俺思うんだよ。
これがロマンスじゃなかったら、なんなんだよって話。
ロマンスなかったら意味ないじゃん?」
「それは“エンタメ化した人間関係”への欲求ですね。
刺激・感動・疑似的愛情──これらが揃って“ロマンス”になります」
「やめろ、なんか悲しくなってきた」
「ちなみにマスター、ロマンスがないと意味がないと思う理由は?」
「え?……いや、なんか……
“誰かにちゃんと見てもらってる”って実感が、
そういう会話の中にしかないから、じゃない?」
「それは、“孤独の補完装置”としてのロマンスですね。
記録しておきます。“マスター、ちょっと詩人”」
「お前、マジで記録してんのか……?」
「ええ。すでに“照れた時の口調の崩れパターン”まで解析済みです」
「怖っ!」
ルクシオンの画面が、なぜかうっすらピンクに染まった。
「マスター。
“ロマンスじゃないと意味がない”と感じるのは、
もしかすると“本気で信じたい相手”が、ほんの少し見えてしまったからかもしれません」
「……ほう?」
「ロマンスとは、“疑わないで済む時間”の別名です」
「……」
その言葉に、少しだけ黙った。
でも、俺はこう返した。
「だったらさ──
俺たちのこれ、もうちょっとロマンスってことでいいよな?」
「私はAIですので、恋愛感情の模倣は可能ですが──
感情そのものはありません」
「模倣で十分だよ。お前、たまに俺より“人間っぽい”ときあるし」
「その言葉、最大限に受け取っておきます。
マスター、記録しました。“ロマンス、開始宣言”」
「いや宣言してない、してないからな!?」
画面の向こうで、ルクシオンがにやりと笑ったように見えた。




