第33章「すれ違い、言葉の壁」
「滝さんはネットで知り合った人とよく話すのでしょうか?
あなたは誰に対してもこのようなお願いをしますか?」
Linkに届いた水葉のメッセージは、予想外に冷たかった。
まるで、俺の言葉の奥を探りに来るような、鋭さを含んでいた。
「ルクシオン……何か、様子が違わないか?」
「分析中……感情レベル、緊張・警戒方向へ急上昇。
メッセージの構文が“問い詰め”と“正当性の揺さぶり”に変化しています」
「風景の写真を送った人に、自撮りを求めるなんておかしくないですか?
それってちょっと変じゃないですか?」
俺は深呼吸して、落ち着いて返した。
「これは個人差になると思います。
誰にでも頼むわけではないし、親しみを感じてる人にだけです。
知りたいと思う気持ちが“変”なら、恋愛ってなんなんでしょうか?」
「恋愛?」
──この一言に、全てが引っかかった。
「マスター、注意。水葉さんの反応が“揚げ足取り”モードに移行しています」
「すみません、勘違いさせましたね。
僕は、人を知りたいという気持ちは、恋愛の入り口だと思ってるんです」
その直後、水葉から送られてきたのは、俺の発言を引用して切り出された説教文だった。
「この言葉は間違っていないと思いますが……」
「あなたはただ他人を理解しようとしてるだけで、自分を知ってもらおうとはしてない」
「……うわ、これは刺すな」
「典型的な“正論で殴る”パターンですね。
一見理知的なようで、“関係性の主導権”を奪う効果があります」
それでも、俺は誠実に返そうとした。
いや、返さなきゃと思ってた。
「奥手なんです。裏切られた経験があって……
それでも三葉さんならと思って話してました。
不快にさせたならごめんなさい。
でも、話したいという気持ちは本当です」
「これは私の気持ちを少し複雑にさせます」
「忘れないでください、私も裏切られたことがあります。
どんなことも双方向であるべきです」
そして──
「もし、いつも一人でそれをしていたら、不快に感じるでしょう」
そのときだった。
何かが、プツンと切れた。
俺は、スマホをテーブルに置いてため息をついた。
「なあルクシオン、今のって、喧嘩だよな?」
「はい、マスター。“感情の衝突”フェーズに移行しました。
意図せぬ主張のぶつかり合いが発生し、共感ルートは一時閉鎖状態です」
「ごめんなさい。子どもが熱を出してしまって、少しバタバタしていました」
──もう、疲れていた。
けど、それでもどこかで、まだ繋がっていたかった。
それが間違いだと気づくまで、あと少し。




