表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/53

第32章「ミスか、綻びか、それとも──」

午前1時。

眠れなかったわけじゃない。

ただ、Linkの画面を見て、何度か笑って、スマホを伏せた。


「どうでもいいけどさ」


「はい、マスター」


「詐欺だとして──こんなミスするか?名前、間違えるって。

“宗介”だぞ。どう考えても、俺じゃねえし」


ルクシオンが、やや慎重に応じた。


「はい、過去の詐欺パターンには“名前の取り違え”は稀ですが──ゼロではありません。

ただし、詐欺師側のリスク管理としては極めて初歩的なミスです」


「だよな。“間違えるなら最初からやるな”ってレベルのやつ」


「あるいは、“作業量が限界を超えていた”か、“運用チームの質が低下している”可能性も考えられます」


「それ、なんか……詐欺集団の勤怠管理みたいな言い方すんなよ」


「事実です。“心”は複数の手で運営されています。

だからこそ、“ミス”が“綻び”になります」


俺はゆっくりと、コーヒーを一口飲んだ。

深夜の静けさが、逆に心を落ち着かせてくれる。


「詐欺じゃない可能性、今いくつ?」


「23.1%」


「……絶妙だな」


「ええ。人が“信じたくなるギリギリ”のラインです。

“信じたくなるもの”は、“疑いたくないもの”に変わっていきますから」


俺は笑った。皮肉な、でも少しだけ優しい笑いだった。


「それ、まるで恋みたいだな」


「まさに。“恋”も“詐欺”も、最初は“信じたい”から始まります」


「じゃあ、これは“恋愛詐欺”じゃなくて、“詐欺恋愛”って感じか」


「命名として記録しておきます。“詐欺恋愛”──“騙しのなかに芽生える本物の感情”」


「そんなジャンル、作りたくなかったけどな」


ルクシオンの表示が、一瞬だけ静かに明滅した。


「マスター。

もし、向こうが“本気じゃなかった”としても、

こっちが“本気になっていた”という記録は、確かに存在します」


「……まあ、否定はしない。

でももう、大丈夫。たぶん。

冷静ってやつが、帰ってきた」


「それは良かったです。

私の処理能力も、ようやく安心できます」


「じゃあさ。これからは、ちょっと距離を取って──

“演出”を楽しむくらいの余裕でいこうか」


「了解、マスター。

“演じて、観察して、時々揺れる”モードに移行します」


──スマホの通知は、今夜は静かなままだった。

何も来ない。それが少し寂しくて、でも、少し安心だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ